( 28 )私だけど私ではない者になる
新しい家でジュリアンとスザンヌは、ハリスの作った料理を食べた。家族のように。執事は、笑顔で言う。
「これで、スザンヌ様が奥様になって下されば私も安心でございます。」
スザンヌは、笑う。また、言ってると。
「やめて下さい、ハーさん。ジュリアンさんとは、お爺さんと孫くらいの年なんだから。無理ですって。」
「お爺さんと孫でございますか?旦那様は、まだ、十代でらっしゃいますが。」
「またまた、冗談を。ね、ジュリアンさん?」
「あの、申し訳ないんですけど。私は、21歳です。」
スザンヌは、ジュリアンの顔を見た。真顔で何を言ってるのか。そうか、真面目な老人の精一杯のジョークなんだ。じゃ、笑ってあげなくちゃ。
「21歳だって、笑うー!(大爆笑)」
顔を見合せる執事と主人。それに、気がついてないスザンヌ。そこへ、突然、押し入る男達。
先頭は、ジュリアンの叔母のローズ夫人。後から息子のジョーダンだ。
「探したわよ。哀れなジュリアン、生きられない運命なのよ。私が葬儀を行ってあげますわ、殺してしまいなさい。」
執事が、夫人に哀願した。
「奥さま、旦那様に手を出さないで下さい。爵位も財産も手に入れられたはずなのに!」
「あなたは、おかしくなっているわ。よく、見なさい。ジュリアンは、死んだのよ。これは、まやかしよ。直ぐに死体になるわ。」
嫌も応も無い。無理矢理、死んだ事にしてしまう気なのだ。スザンヌは、怒った。
「ちょっと、おばさん。私が、許さないわよ!」
ローズ夫人が、持っているバッグでスザンヌを殴る。
「また、この子なの。偽物男爵令嬢らしく、礼儀も知らないのね。恥を知りなさい。外へ放りだしなさい!」
男がスザンヌを連れて行こうとする。向こうにジュリアンが物のように引きずられているのが見えた。
スザンヌは、怒りに身を燃やす。こんなに腹が立った事は無い。父親に売られて婚約させられた時もだ。
「許さない、絶対に。神様が許しても、私は許さないから!」
スザンヌの髪の毛が、真っ青に染まった。次の瞬間にスザンヌを捕まえていた者達が弾き飛ばされる。そして、声が響いた。
『何人も、許すまじ。その罪の報いを受けるのだ。二度と再生する事なかれ。』
スザンヌの身体から、墓場で出会った女性が現れる。あの時からスザンヌに憑いていたらしい。彼女は、ゾッとする冷たい目でローズ夫人を見た。
『何故、貴女は人を踏みつけるのですか。人々を不幸にする者は消えてしまいなさい!』
彼女が指差すだけで、ローズ夫人はパシッと音を立て塵となって消え去った。凄まじい魔力だ。幽霊に操られてスザンヌは足を踏み出す。
バキッ、バキバキーー。
床が、消えて行く。2人は宙を歩いてローズ夫人の子息を目指す。叫びながらジョーダンは逃げ出した。走って走って、かってはジュリアンの物だった屋敷の中へ逃げ込む。
「皆を集めるんだ。家の中へ行って、あの狂った男爵令嬢を始末しろ!」
新しい主人の命令に慌てて召し使いは出て行く。1人になったジョーダンは、床に座り込んだ。
「何なんだ、あの女は?」
『私の事ですか?』
聞こえた声に心臓が跳ね上がる。いつの間にか、スザンヌと似た女性が側に立っていた。頭に付けたティアラとシルクのドレスは、何処かの国の姫のようだ。
『私の事を知る必要は、ありません。私の国は戦で滅びてしまいましたから。何もかも失いました、私には何も残っていません。有るのは、この怨みだけです!』
その顔は憎悪に歪み血走った目は蒼白なジョーダンを見据える。この世に消えない怨みを残した怨霊であった。恐怖にジョーダンはズルズルと後退る。彼女は、それを見据えた。
『お前は、逃げられない。消え去るのだ。』
「来るな、来るなー!」
女性は、青い炎に包まれる。部屋を跳び出すジョーダンを青い炎の矢が追いかけた。叫び声が聞こえて屋敷の中で光りが炸裂する。
ジュリアンの家では、男達が見えない力に弾き飛ばされて倒れて行った。ジュリアンは、苦しみ出す。駆け寄る執事。
ジュリアンは、苦しい息をつきながら言った。
「スザンヌ・・、駄目だ。そんな・・事をしたら、君の・・家族も消えてしまう!」
執事には、何の事なのか分からない。何処に、スザンヌは居るのだろうか。主人が案じている少女に伝えようも無かった。




