( 27 )私が頑張るから
誰かが、そっと肩に手を乗せて言う。
「まだ、間に合うかもしれない。解毒してみよう。大丈夫だから、スザンヌさん。」
優しい声の主がゴメスだと気がつくのには時間が必要だった。蒼白になってカタカタと震えながら見守るしかない。
ゴメスは手際よく、ジュリアンの脈を見て心臓の動きを確認した。そうしながら、ベッドの横に立つ者を見る。
「悪いが、この者の命は渡せない。返してもらうよ。この仮は返すから、いいよな?」
声に出さずに唇だけを動かせて伝える。その者の姿は、ゴメス以外には見えていなかった。死神は奪ったばかりの命の火を離す。
魔力で命の火をジュリアンの身体に押し込むゴメス。その後に上着の内ポケットから取り出した小瓶を老人の口に当てた。
「これは、魔法使いが作る解毒剤だ。たいていの毒は、消してしまう。ほら、顔色が良くなってきた。」
その通りに、ジュリアンの顔に生気がもどってきた。執事は大喜びで、涙を流して泣いている。
助かったのだ、毒殺されたのに。何者かが、ジュリアンに毒を飲ませたに違いない。直ぐに、ゴメスがジュリアン達を貸家へと移した。
それから、1週間後のこと。スザンヌは、ダンジョンに励んでいた。髪の毛を青い色にした事から、ギルドでは「青の魔女」と呼ばれるようになっている。
(お金を稼がないと。養わないといけないから。)
ダンジョンの一覧表を見ても、報酬の良い仕事に目がいく。もっと、「魔除け」の仕事が繁盛してたら良かったのに。
(まだ、始めたばかりだから。お客様の予約も少しだけだもの。私の家にも、お金が必要だから。無い物づくしだわ。)
そう思っても仕方ないと自分を励ます。出来る事からやらなくちゃ。
ハリスは、ドアの開く音に顔を上げた。元気よく閉まる音は、あの方のだ。煮込んでいるブイヤベースの鍋の火を止める。
台所の戸口から、青い髪の少女が顔を出した。
「こんにちは、ハーさん。お土産があるの。スライムよ、干してチップにすると日持ちするわ。」
ズタ袋を台所の床に置く。ハリスは、礼を言った。
「ありがとうございます。この間の蔦エンドウ豆は、オイルに漬けて保存いたしました。助かります。」
「良かったわ。ダンジョンに入ると食材に巡り合うから。それと、これ。」
「何でしょう?これは、ダンジョンの収入ですか。受け取れません。」
「何で?医者代もかかるから、使って下さい。お願い!」
無理やりに、受け取らせる。収入の無いハリスに使って欲しかった。ハリスは、申し訳な気に受け取る。
「この家といい、お嬢様にはお世話をおかけして申し訳ありません。」
「気にしないで。苦しい時は、お互いに助け合わなくっちゃ。」
スザンヌは、明るく笑う。ゴメスが貸してくれた家は、あんのだ。それでも、襲われたら分からない。
ハリスが、ドアから出た。そして、戻って来る。
「スザンヌさん?」
呼ぶ声に、スザンヌはニコニコする。ハリスに支えられながら歩くジュリアン。スザンヌを見て嬉しそうだ。
「また、ダンジョンに行ったのですか。危ないから、心配です。」
「大丈夫、私は強いのよ。」
私は、魔法が使えるようになったし。魔除けで魔物は寄って来れないの。だから、安心して。
ジュリアンお爺さんが死んでると思った時の悲しみに比べたら、ダンジョンで魔獣と戦うのなんて平気よ。
スザンヌは、怒りさえ感じていた。ジュリアンを殺そうとした者に。




