偶然の産物
迷宮都市を目指す一行が森を突っ切って歩いていく中。
「なあ、オーギュスト」
「なんだ?」
黒い鎧に身を包んだ元傭兵団団長、ゴスペルが唐突に横を歩いていたオーギュストへと声をかける。
「どうしてこのパーティーはこんなにも男が少ないんだ? しかもこっちはオジサンと呼ばれてもおかしくない俺と、見た目通りの年齢のオーギュストだけだ。 若い男が一人いてもいい気がするんだが」
ゴスペルの視線の先には、見た目美しい女衆が話をしながら進んでいた。
言わずもがな、セフィリアをはじめとするこの一団の女性たちである。
現在は、王都で旅に加わったばかりのサリィ、そしてカレラが、セフィリアとイアに自己紹介も兼ねた雑談をしているところであった。
「ああ、だが考えてもみろ。 このパーティーにお前が言う、そう、思春期真っ盛りの男が入りでもしてみろ。 ‥‥‥‥‥やっていけると思うか?」
「ああ、無理だな」
そう、このパーティーの女性の容姿のレベルは、別にそこにこだわったというわけでもないのに驚くほどに高い。
セフィリアは言わずもがな、ゴスペル達は知らないが本当の意味で”完成された美”を持っているし、いつもはとんでもない事をしでかしたりするが、時折纏う神聖な空気にあてられてしまう者も多い。
イアは少女でありながら見事な金髪と、透き通った色の碧眼の持ち主で、肌の露出の巣少ない黒衣に身を包むイアは少女らしからぬ秘めた色香を放っていた。
それが年の割には大きめの胸によるものだというのは、最早言うまでもないだろう。
ゴスペルの妻であるサリィは獣人であるために、頭には三角の狼の耳が。腰より少し下のあたりからはふさふさの尻尾が伸びている。
獣人の容姿は、獣のそれが強く出る場合と、人に多少動物の耳などがついているだけの場合の2種類があり、サリィは後者にあたる。
そんなサリィも、セフィリアにこそ劣るが、十分整った容姿をしている。
長い黒髪も相まって、黙って座っていれば(おそらく無理だろうが)気品あるおしとやかな女性として注目を集めるだろう。
カレラは今でこそ猫の姿をとって旅をしているが、元の姿、銀髪に紅い瞳というセフィリアに似た容姿の彼女は、吸血鬼の長であったこと。そして永い時間を過ごしてきたことなどから、容姿のみならず性格までもが洗練されており、イアのように秘めてなどいない。寧ろ、大人の色気を常に漂わせる魔女のような女性であった。
ちなみにサリィとカレラの胸の大きさは平均的である。
真っ平というわけでもなければ、何かの果物のように巨大というわけでもない。
平均なのだ。
そんな美女が4人もいるのだ。
ゴスペルのようにサリィという妻がいるだとか、あるいはドワーフ鍛冶師として、人生を自身が追い求める理想の武具の製造に捧げているような老人でもなければ、夜など必ず何らかのトラブルが起こることは最早間違いないだろう。
ゴスペルもオーギュストの言葉でその考えに思いつき、納得すると同時にならば、と代案を口にする。
「じゃあ俺と同じ位の年代の男だったらどうだ? そんな間違いも起こらない‥‥‥‥とは言い切れないが、希望はあるだろう」
「ああ、まあいるかどうかはわからんが、とにかくお前が男仲間が欲しいということはわかった」
オーギュストは若干必死ですらあるゴスペルに苦笑いしながらも、その言葉にあいづち相槌を打ったのだった。
そんな話を男2人でしていると、にわかに前を行く女性陣が騒ぎ始めた。
何事だと2人が前に出ると、そこには。
「こりゃあ驚いた。 天然の温泉じゃねえか」
「アスタリクに近づいているからか? とはいってもまだまだ距離はあるし‥‥‥‥ ああ、そういえばダンジョンの周辺はその影響を受けて、周囲の地質もよくわかんないことになるんだったか。 迷宮都市に近い場所だからかもなあ」
そう。
森林の中に泉のように湧き出ていたのはただの水ではなく、湯気立ちのぼる温水。天然の温泉であったのだ。
温泉とは普通火山の近くなどで水脈が温められ、それが湧き出したもののことであり、少なくとも近くに火山があるわけでもないこんな森の中に沸いていることは‥‥‥‥‥‥無いこともないのかもしれないが、滅多にあるものではない。
こんなおかしな場所に温泉が湧いている理由はゴスペルの言う通り、迷宮都市に近づいているためだ。
迷宮は"何らかの原因"で自然発生するものだとされており、そして例えば迷宮となった洞窟などは、自然にできたならばあり得ないようなものが採れたりする。
これはその”何らかの原因”によって、その洞窟そのものが迷宮という、全く別のものに作り替えられるせいだ。
そしてその証明として、ダンジョンがある周辺の地質はその影響を受けてめちゃくちゃなことになっていることが調査で判明しており、今回のように本来ならば湧き出るはずのない場所で温泉が見つかる。なんてことも珍しくはないのだ。
しかしそんなことは、こういったものに目がない女性たちにとってはどうでもいいことであった。
「もう、ゴスペル! そんなことは今はどうでもいいよ!! 今大事なのは温泉があることこれだけ!! 違う!?」
「お、おう。 ‥‥‥‥‥‥まあそうだな。 俺だって温泉には入りたいさ」
サリィに詰め寄られたゴスペルは、タジタジになりつつも本心からそう答える。
セフィリア達は常にほぼ休憩することなく歩き続けている。
止まるのは食事の時、そして寝るときくらいだ。
イアの訓練は移動しながらでも行えるものだし、今など急いでいるから時には食事さえも移動しながらとる時さえある。
そんなセフィリア達であるから、体を洗うことなどできるわけもなく、精々が濡らした布で体をふく程度だ。
最もセフィリアの場合は自身に特大の水を魔法で放ち、そして強制的に乾かすという荒業をしたこともあったが、それはあくまで常人離れした肉体能力を持つセフィリアだからできることであり、例えばイアなどにこれをした場合、まず水の魔法を受けた時点で水圧により体が吹き飛ばされるだろう。
よって実用的とは言い難かった。
そしてその程度のことしかしていないがために、一行の体からは、多少体臭が匂っていた。
現にゴスペルはサリィの体から漂う匂い、女の匂いに鎧の中で顔を赤くしていた。
男女で少し距離をとって移動していたのはそれが理由である。
「セフィリアさん、私も温泉入りたい」
「そうだな。 私も温泉は好きだし、よし。 今日はここに泊まるとしよう」
『あら、じゃあ私も人の姿に戻ってお湯につからせていただこうかしら。 ここなら人目もないでしょうし』
イアの言葉にセフィリアが同意を示す。
カレラも温泉に入れるというだけでなく、久しぶりに人の姿に戻れるからと嬉しげだ。
この一団のリーダー的立ち位置であるセフィリアが決定を下したことにより、一行はその日、この温泉で旅の疲れをとることにしたのだった。
「じゃあゴスペルっ! 一緒に温泉に入ろ?」
「自重しろ!! 俺は女性陣が温泉に浸かっている間の見張りだ。 男は男で入るから、お前は女同士話でもしながらゆっくりしてろ!」
「‥‥‥‥‥‥相変わらずだなぁ、サリィさんはよお」




