幕間・意地っ張りな狼さん
未知の魔物の調査依頼。
それを受けた獣人、黒狼の一族の、成人しているとはいえ外見は未だ少女のサリィと傭兵のゴスペルとその仲間達の計4人は、早速街から数時間歩いたところにある森林に入っていた。
ブロス・モーは森林は好まない魔物だが、それ以外の魔物であれば多くが生息する場所だ。
何らかの手掛かりが得られるとすればここだろう。
そして森林に到着したサリィとゴスペル中心とした男たちの行動は、実に対照的であった。
サリィがそのまま森林の奥へと入っていこうとしたのに対し、ゴスペル達は呑気に休憩をはさみだしたのだ。
これにサリィは当然食って掛かる。
「ちょっと、時間は有限なのよ? 何を呑気に休憩なんてしてるの! そんなことする暇があったら調査をしなさいよ!」
しかしそんなサリィに対しゴスペルをはじめとする傭兵たちは「まあまあ落ち着けって」とあくまで休憩をやめるつもりはないらしい。
「あのなあ。 調査っていうのはな、時間をかけてなんぼなんだ。 その方が情報は多く集まるし、何より安全だ。 いいか。 仮に嬢ちゃんが言うように時間が有限だからとろくに休みもとらず調査をしていて、偶然何らかの危機に直面したとしよう。 その時、疲労していたら正確な判断や行動がとれないかもしれないぜ?」
その意見は逃げ腰と取れなくもないが、生存率を重視した正論だ。
サリィはその言葉に反論を見つけられず、苦し紛れの言葉を口にするしかできなかった。
「”何らかの危機”って何よ」
それにゴスペルは苛立つこともなく、いたって真剣な表情で答えるのだ。
「例えば俺たちが今調べてる”未知の魔物”に出くわす、とかな」
結局サリィはゴスペル達と一緒に十分な休息をとってから調査を始めることになる。
が、ここでもサリィは苛立ちを募らせることになった。
「遅い!?」
そう。
ゴスペル達の歩みがあまりにも遅かったのだ。
警戒しながら進んでいることを差し引いても、まさに亀の歩みである。
しかしゴスペル達は何もくちゃべっているわけではない。
その証拠に、腰に下げていた袋には様々な痕跡‥‥‥‥サリィからは塵にしか見えないようなものが、結構な量詰められていた。
中には糞尿といった、よくそんなものが触れるなというようなものまで、ゴスペル達は必要と判断したならば回収していく。
その為にその歩みは必然的にゆっくりとしたものになっていた。
「ねえちょっと、まさかそんなことを今日一日続けるつもりなわけ?」
サリィはたまらず文句を言う。
しかし今回ゴスペルは、その文句も耳に入らないといった感じで、真剣に仲間とやり取りをしていた。
その手には粉のようなものが乗っており、その正体について3人の傭兵たちは話していた。
「おい、こいつはバジキキの鱗か?」
「完全に粉砕されてる。 しかも殴り飛ばされたみたいに」
「だとしたら、いくら何でも銀級で相手にできるような魔物じゃあないな。 いや、これがここにあるってことは‥‥‥‥‥ それ以外の、体はどこに行った?」
「‥‥‥‥‥ちょっと?」
「もう間違いないだろ。 捕食されたんだよ」
「あ~あ、こりゃいよいよもってマズイな。 まさか肉食の銀級の魔物、バジキキを捕食する魔物かよ」
「い・い・か・し・ら!?」
「「「あん?」」」
完全にサリィを無視していた傭兵たちはサリィの大声でようやくサリィの方を向く。
「あのね、その粉が何だっていうの? そんなものなんの手掛かりにもならないじゃない! もっと未知の魔物の正体を特定できるような何かを探しなさいよ‥‥‥‥っ!?」
サリィはそういって抗議したがしかし、今回ばかりはゴスペルも黙ってはいられなかった。この異常事態を認識できていないサリィに。
ゴスペルはサリィに歩み寄るとその肩に手を置き、険しくなった顔をサリィに近づけ、忠告した。
「いいか、嬢ちゃんもバジキキは知ってるだろ? 一つ聞くが、嬢ちゃんはバジキキの鱗を、素手なり武器なりでここまで粉々にできるか?」
そう言ってゴスペルは仲間たちに預けていた、ほぼ粉と化してしまったバジキキの鱗を差し出す。
それは色や質感からかろうじて鱗の持ち主が分かる程度で、あまりにもひどいありさまだった。
そしてこれと同じレベルまでの破壊をサリィにできるかできないかと問われれば答えは決まっている。
「‥‥‥‥‥‥できない」
「だろう? 魔物であるということを差し引いても、こんなことをやてのけるなんてあまりに危険すぎる。 これだけの危険性を持つという事が分かっただけでも十分な収穫だ。 調査はここまでにしよう」
ゴスペルの言葉は余りにも正論だ。
しかもそれがサリィの安全を思っての言葉であることなど、最早確認するまでもない。
しかしあまりにも正しすぎるがために、守ろうとしているということが分かってしまったがためにサリィは反抗してしまった。
「何よ! もともとこの依頼は私が受けたものだったの、そんなに帰りたいなら帰りなさいよ、私は貴方とは比べ物にならないような情報を持ち帰ってアンタの度肝を抜いてやるんだから!」
「あ、おいこら!! 待て、嬢ちゃん!!!」
そしてサリィはゴスペルの制止を振り切り、一人森の奥へと走って行ってしまうのだった。
サリィは気に入らなかった。
サリィは傲慢とまではいかずとも、自身の腕には自身があり、またそれに結果もついてきていた。
だというのにそれを否定するかのように、あの傭兵は自分の行動にいちゃもんをつけてくる。
気分がいいわけがなかった。
しかもそれでめちゃくちゃなことを言っているならよかったのだ。ところが先の忠告も含め、その全てが正しかった。
それが更にサリィの神経を逆なでした。
『見てなさいよ、絶対に貴方に一泡吹かせてやるんだから!!』
若き黒狼の娘は意地っ張りだった。
故に過ちを素直に認められず、自ら危険へと飛び込んでいってしまったのだ。




