幕間・傭兵と獣人の馴れ初め
5章に入る前に、幕話のようなものを。
王都で暮らしていた獣人にして元傭兵団団長ゴスペルの妻、サリィ。
彼女はセフィリア達が王都を発つ日の前日、もう随分と昔のことを思いだしていた。
それはサリィとゴスペルの馴れ初めの話。
2人は初対面の時。それはそれは仲が悪かった。
サリィは獣人としては珍しく、森、テミスの大森林を出て人の街で過ごしていた。
しかしそれはあくまでも獣人としては、という話であり、サリィの一族、”黒狼”の一族は非常に活動的な一族で、成人(獣人の成人年齢は人よりも早い10歳程)すれば大抵のものが森ではなく、様々な物が広がる外の世界へと旅立つのが普通であった。
サリィもまたその例にもれず、自身を育てるために両親は森にいたものの、いざサリィがそう言いだせば否定の言葉など言わず、むしろ嬉々としてサリィを送り出したのだった。
そして、人の街に出た獣人がつける職業だが、その数は大して多くない。
別に差別的な風潮があるというわけではないのだが、やはり人にとって良くも悪くも獣人とはそれなりに珍しい種族であり、やはり店の職員などとして受け入れることに抵抗を覚える者は少なくないのだ。
なのでおのずと彼らの仕事は、実力さえあれば特に細かいことは気にもされない冒険者、あるいは傭兵になるのであった。
とはいえ、他にもつける職業はないわけでもない。
最も娼婦や奴隷といった、少なくともまっとうな人生は送れないであろう道だが。
そしてサリィの一族、黒狼の一族は幸いにして戦闘能力に恵まれた種族であった。
サリィは森を出てすぐの所にあった人の街で冒険者としての登録を済ませ、いくつもの討伐系の依頼をこなし、やがて幼くも強い期待の新人冒険者として名を響かせるのだった。
そしてそんなサリィは早くも銀級へと昇りつめ、そしてとある依頼を受けることとなる。
「異常事態の調査?」
「はい。 なんでもブロス・モーはじめとした中型から大型の魔物が捕食されているのが各地で発見されていまして。 銀級以上の冒険者の方には調査を依頼しているのです。 持ち帰った情報によっては報酬も弾みますが、いかがですか?」
それは確かに異常事態だ。
ブロス・モーは4等級の魔物だが、ここらでは外敵はそういないはず。
それが捕食された痕跡が、あちこちで見つかるというのは確かに異常な事態であった。更には大型の魔物のまでというのが更におかしい。
しかしサリィはこの時、このことを「うまい話」くらいにしか認識していなかった。
何しろ調べるだけで報酬がもらえるのだ。
これほど楽な依頼もあるまいと。
そしてサリィがこの依頼を2つ返事で受けようとしたその時‥‥‥‥‥
「あ~、ちょっと待ってくんねえか。 その依頼、嬢ちゃん一人で受ける気か?」
「‥‥‥‥‥誰?」
「あれ、ゴスペルさんじゃないですか。 依頼の方は済んだんですか?」
「ああ、今報告してきたとこだよ」
サリィが受諾の返事をする前に割り込んできたのは、一目で傭兵と分かる筋肉質の体をさらしたむさくるしそうな男だった。
サリィはその男のことを全く知らなかったために怪訝な顔をするが、ギルド職員の方はそうでもなかったらしくゴスペルと親しげに会話などを始めた。
自分の依頼の話だったというのにその当事者をおいて話を進めていく2人をサリィが睨んでいると、それにゴスペルが気づき、「悪い」と謝ったうえで真剣な表情になるとサリィに告げる。
「良いか嬢ちゃん。 今こそギルドも多くの情報を求めて銀級にもこの依頼を出してるが、大型の魔物も捕食するってことはとても銀級冒険者1人に相手取ることができるような魔物じゃねえ。 受けるにしても1人で受けるのはよせ。 最低でも2人以上、万一にも遭遇した時のことを考えておけ。 じゃないと‥‥‥‥死ぬぞ」
その言葉はサリィを気遣ったものであり、後ろでゴスペルを待っていた傭兵団の者達などは「ま~たやってるよ」などと笑っている。
しかし、サリィには残念ながらその思いやりは通じなかったようだ。
「知らないわよ。 私は見ての通りの獣人。 それも戦いにおいては獣人の中でも上を行く”黒狼”の一族。 他の銀級冒険者なんて誘ったところで足手まといになるだけよ」
この頃、サリィは良くも悪くも自信家であった。
その為にゴスペルの忠告は自身の実力を疑われているように聞こえ、反発したのだ。
対するゴスペルの反応はというと‥‥‥‥
目を覆って空を仰いでいた。
「ちょっと何その反応?」
「いや~、いるんだよなぁよく獣人には。 そうやって自分の力を過信して早死にするやつが」
「なっ!?」
完全に呆れていた。
その反応にいよいよサリィは怒りをあらわにする。
「貴方、そんな大口をたたくぐらいだから強いんでしょうね? じゃあ貴方が私の依頼のサポートをしなさいよ。 それで貴方が今言った言葉を取り消させてあげる!!」
サリィはその特徴的な黒い頭の上の三角耳と尻尾をピーンと立ててゴスペルに言い放つ。
しかしゴスペルは怒るでもなくむしろニヤニヤと笑いながら「いいぜ?」とだけ返した。
ギルド職員はそんな2人のやり取りを見ながら、しれっと2人で依頼を受けるという内容での処理を済ませ、遠巻きにそれを見ていたゴスペルの仲間の傭兵たちは「あ~あ、うまく乗せられたな」と大笑い。
完全に子ども扱いをされているように思い、サリィの中でのゴスペルに対する印象はダダ下がりであった。
『見てなさい、絶対に貴方に度肝を抜かせてやるんだから!!』
そんな決意と共に、サリィはゴスペルと未知の魔物の調査依頼に挑むことになる。




