すすむは物語。再開するは旅。
セフィリアは一連の騒動の記憶をあの現場にいたもの全て消し去った気でいたが、実は2人だけ、それをしっかりと記憶しているものがいた。
その1人であるテオフォンは、現在王城のとある一室に召されていた。
出された紅茶を飲みながらテオフォンが自身を招いた人物を待っていると、その部屋の扉がバンッと勢いよく開け放たれた。
そして入ってきたのは赤茶色の髪に黄金の瞳を持つ猛獣のような顔つきの男だ。
しかし纏うのはテオフォンも礼服を着ているのだが、それでは足元には及ばないような豪奢な服。
そう、彼こそ。この王都ナルメアを中心とする大国・ルーヴェンをまとめる国王、アドラ・ルーヴェンである。
「はっはっは、久しぶりだなあテオフォン!! いや、そこまで久しぶりでもないか?」
「ええ、そうですね。 というかシレイの事を伝えるためについ数日前に訪れたばかりではありませんか」
「そういえばそうだったかっ、と。 ‥‥‥‥‥しかしあまりここには来たがらないお前がこうも早く訪れるとはな。 まっ、今回ばかりは流石に俺の耳にも入って来てるからな。 ともあれ、話を聞こうじゃんか」
アンドラがテオフォンに話をするよう促して、テオフォンも飲んでいた紅茶のカップを置き、真剣な表情で口を開いた。
「それでは。 セフィリアなる人物について、改めて話しておきたいと思いまして」
こうして、セフィリアという規格外の存在は人間の頂点に立つ国王の耳にも入ることとなる。
そしてもう1人。あの騒動を知るものはというと。
「あーあ。 全く何なんだろうねぇあの天使サマは。 記憶を消す魔法なんて聞いたこともないんだけど‥‥‥‥‥ そりゃあ、俺ら”王”には己を害する魔法に対する耐性があるから何の問題もなかったけどさぁ」
その人物はまだ年若い青年であった。
紫色の髪を瞳を持つその青年は自身が目にしたあの天使の姿を思い出し、そして身震いする。
何と圧倒的な”力”を持つ存在であったかと。
と、その肩に一羽の白い鳩が舞い降りた。
その鳩が紅い目でその青年を見つめると、青年は面倒そうに頭を掻きながらもその鳩に語り掛ける。
「んだよ”女教皇”サマ」
『ギルム。 どうでしたか?』
ギルムと呼ばれた青年は「どうもこうもあるかよ」と悪態をつきながらも自身が目にしたことの顛末を”女教皇”に語る。
「結果からいえば、あの貴族のガキは吸血鬼を殺すよう仕向けたがしくじりやがった。 が、今回ばかりは責めらんねえな。 殺害を阻止したのはイアとかいうガキだったが、こいつの親?師匠?みたいな奴がやばかったんだよ」
『と、言いますと?』
「天使だ。 伝承に伝わる天使そのまんまの奴がいやがったんだよ。 多分だが”死”の王の力を吸血鬼から奪ったのもあいつに間違いねぇ。 なんてったって”力”の王たる俺ですらまるで敵う気がしないくらいだからな」
『興味深い話ですね。 ギルム。 すぐに大神殿を訪れなさい。 その話を詳しく聞かせるのです』
ギルムという青年はそうなることが分かっていたのだろう。
大きくため息をつくと、分かったとだけ伝えそして、自身の肩に乗っていた白い鳩の体を掴み、そして握りつぶした。
青年の肩の上で肉片が飛び散り、血糊が顔に付着する。
「あーあ。 あのくそったれな場所には2度と行きたくねえってのに」
青年はぐちぐちと文句を言いながらも、大神殿アヴルがある血を目指して歩き出す。
が、一度立ち止まって振り返り、王都ナルメアの街を眺めた。おそらくあの天使が未だどこかに潜んであるであろう王都を。
「天使だってんなら、いつかあの腐れジジイとババアをぶっ殺してくれねえかなあ」
その言葉を最後に、”力”の王ギルムは王都を去ったのだった。
一方で。
『む。 魔王ではないか。 何をしている?』
「ニーヴィル! 待っていたぞ!! あの強いやつらと会ってきたんだろっ!?」
『ああ、セフィリア殿のことか。 まあな。 なんだ、今回は知っていながら来なかったのか』
自らのねぐらに返ってきたニーヴィルを待っていたのは番や我が子ではなく、魔王兼”悪魔”の王、ジャミルであった。
ニーヴィルは最早打つ手なしというレベルの戦闘狂であるジャミルがセフィリアに会いに行くと知っていながらも来なかったことに驚く。
しかしジャミルはいつもの軽い雰囲気をかき消し、真剣な表情になるとニーヴィルに自身がこの場に残った理由を話す。
「今日”地揺れ”が起こった。 大きさはそれほどでもなかったが、それなりに長い揺れだ」
『そう、か』
地揺れ。すなわち地震のことだ。
しかし山、それも中には活火山までもがあるこの近辺で地揺れが起こることは何もおかしいことではない気がするが、しかし魔族にとって”地揺れ”とは特別な意味を持つ。
「”災厄の先駆け”‥‥‥‥‥ なぜか最近になってその頻度が急増している。 一応、お前にもそのことを忠告しておこうと思ってな」
災厄。
地揺れが災厄の先駆けであると、魔族の間では有名な話だ。
普段はどうしようもない戦闘狂だが、なんだかんだでジャミルはこういった辺り丁寧だ。
偶然にもこの地を離れていたニーヴィルにもこのことを伝えておこうとわざわざニーヴィルが戻ってくるまでねぐらで待っていたのである。
『忠告、感謝する。 だが原因はわかっているのか?』
「断言はできないが‥‥‥‥‥ 最近アーカム教の奴らがきな臭い。 アスタリク内でもこそこそとなにかしているようだ。 一応、アーカム教の動きは厳重に監視するように指示している」
『そうか。 ‥‥‥‥‥ところで、わしの番に子は?』
「さあ。 なんでも調べたいことがあるとかで古巣に戻ったぞ?」
ニーヴィルはジャミルの言葉に驚きを隠せなかった。
なぜならばニーヴィルの番である古龍は自身の古巣をひどく嫌っており、今まで一度として戻ろうとしたことがなかったからだ。
しかし調べたいことがあるからといって戻ったという事は、この地揺れに心当たりがあると、そういう事なのだろうか。
ジャミルはそんなニーヴィルを一瞥した後、切り替えるかのように「あ―――――――――!!」と叫んだ後に普段の好戦的な笑みを浮かべて言った。
「それじゃあニーヴィル。 言う事は言ったし、私は城に戻る。 またな!!」
『ああ、また会おう。 魔王よ』
セフィリアはと言えば。
「さて。 東の果てにあるとかいう古城を目指そうかと思っていたが、変更してアスタリクに行こうと思う」
イアとオーギュスト、そして猫の姿のカレラにセフィリアは急な予定変更を告げていた。
しかし誰も驚くことはない。なぜなら―――――――――――――――。
「じゃないと闘技大会に間に合わないもんね」
そうなのだ。
魔族の闘技大会が開催されるのは秋の中旬。
本来であれば王都は素通りし、すぐにでも東へと向かう算段だったのだが予定外の騒動に巻き込まれ、その騒動こそ一夜ですんだもののその疲れを癒すために結局数日をつぶしてしまっていた。
これでは急いでも闘技大会には間に合わない。
もっともセフィリアの魔法を使うことですぐにでも東の端にあるという孤島に向かうのも可能だっただろう。
しかしセフィリアは基本的に旅における移動で魔法は使いたくはなかった。
それは移動に魔法を使うばかりでは旅の面白みがまるでなくなってしまうからだ。
それはセフィリアの望むところではない。
だからあくまでも魔法を使わない移動手段をとった場合での日数計算だ。
すると、どうしても今から東へ向かい、アスタリクへ向かうには時間が足りないのである。
ちなみにアスタリクは大陸の北西に位置するため、ほぼ正反対と言っていい。
「んじゃあ、早速出発だな。 アスタリクは火山に囲まれてるから豊富な鉱石であふれてるはずだ‥‥‥‥‥ くぅ~~~!! 楽しみだ!!」
「そういえば、私の武器は? オーギュストさん」
興奮を隠せないといった感じのオーギュストに、そういえばとイアは預けていた武器がどうなったかを尋ねる。そもそも王都に来てからずっと自分の武器を預けていたのは、オーギュストが武器を強化するために預けてほしいと頼んだからだ。
「おっといけねえ、そうだったな。 ホラ。 まだ途中だが‥‥‥‥‥ 現時点でできる強化は全て施した」
そう言ってオーギュストがイアに生まれかわった鉄鋼鉤、とは最早呼べない、未知の拳武器をイアに手渡した。
それは元の鉄鋼鉤が何の装飾もされていない鉄の輝きだけを持った武器であったのに対し、表面に薄く砕かれた竜の鱗を纏っていた。しかしおそらくニーヴィルの鱗であろうそれは元の黒い色ではなく、薄く紅い色を帯びてどちらかといえば紫に近い色になっていた。
また鉤爪は竜の爪を模した形に変わっており、まさに竜の拳。
そう呼ぶのがふさわしい見た目になっていた。
イアは生まれ変わった自身の武器を手に取る。
それは加工を施された後であっても以前と変わらず、見た目に反した軽さであった。
「一応ここで集まった素材を使って休養期間全部使った末の傑作だが、それでもあくまで現時点の、でしかねえ。 アスタリクにつけばさらなる強化はできるはずだが、今の所はこれで我慢していてくれ」
「ううん。 ありがとうございますオーギュストさん」
イアは礼を言ってからそれを自身の手にはめる。
不思議と手になじむその武器はイアにはまるで怪しく輝き、力を渇望する獣の牙のようにも見えた。
なんと自分のぴったりの武器だろうか。
そう思ってしまったのも仕方がないだろう。
知らずのうちに笑みを浮かべたイアを見ながら、セフィリアは旅の再開を宣言する。
「よし、じゃあ向かうか。 魔族の国、アスタリクへ」
これにて第4章完結となります!
いくつかの話を挟みましてから、第5章開始となります。今後ともセフィリアの旅にお付き合いくだされば、作者も恐悦至極に存じます。
ここまでお読みくださり、本当にありがとう。評価、ブックマーク登録をしてくれた人。感想を書いてくれた人。本当にありがとうございます。




