一夜の騒動が終わったら
”死”の王が原因で巻き起こされた一連の騒動‥‥‥‥‥最も一夜にしてそれは終わりを迎えたのだが。
乗り越えたセフィリア一行は流石に長い夜を経て疲弊していたために、しばらくは王都にて英気を養うことになった。
「改めて。 久しぶりね旅人‥‥‥‥じゃない、セフィリアだったわね」
「ああ。 久しぶりだな」
セフィリアとカレラ。
2人は実に数百年ぶりの再会を祝って王都での拠点となっている喫茶店フランにて談笑していた。
「まあいろいろと聞きたいことはあるんだが‥‥‥‥‥」
「私もよ、全く。 貴方がまさか大勢と旅をしていて、しかも弟子まで取ってるだなんてね」
そんな言葉を交わしながら、2人はお互いがどんな経験を送ってきたのか。その全てを語るにはあまりに時間が足りないので、要点だけをまとめた情報のすり合わせを行う。
そこでセフィリアはカレラに儀式を進めてきたアーカム教の教皇の存在、そして、”死”の王がその教皇に気をつけろという忠告を残して完全に消滅したことを聞いた。
「そうか。 ”死”の王は消えたか」
「ええ。 貴方のおかげで何かから解放されたみたいなことを言っていたけれど。 何をしたの?」
セフィリアはそこで少し考える。
そして本当のことを少しだけぼかして話した。
「私が無責任に放棄したものを代わりに引き受けてくれていたから、それを預かっただけだ」
「そう」
それがいろいろなことを隠した言葉であることくらい、カレラも気が付いている。
しかしそこを掘り下げないのは、カレラがセフィリアの良き隣人でありたいと願うが故だ。
一瞬微妙な空気が流れるも、セフィリアはそんなカレアにあるお願いをする。
「なあカレラ」
「何?」
「改めて、私と一緒に旅をする気はないか?」
交わしてから実に数百年が経った約束。
だがしかし、セフィリアはそれを忘れてなどいなかった。
そしてそれはカレラも同じだ。なぜならばそのために、カレラは1人の旅を続けていたのだから。
「ええ、もちろん。 これからよろしくね」
それからしばらく、セフィリアとカレラは嬉しいと思う感情そのままに笑いあった―――――――――――――――。
イアは王都にしばらく滞在することになっても毎日の日課である訓練を欠かさず行っていた。
それはヘンゼルとの戦いを経験して未だ自分の力が未熟であるという事を実感したからだ。
『本当であれば最初の奇襲で仕留められたらそれで終わっていた。 殺気をひそめて、最接近するまではいいのに、いざ攻撃を放とうとしたときに気が緩んで殺気が漏れてしまう癖‥‥‥‥‥‥ いい加減に治さないと』
それはセフィリアはもちろん、模擬戦を担当するゴスペルからも再三言われていることでありもう旅を始めて一月以上が経つが、未だに治らないイアの癖である。
「フ―――――――――――――――。 体力は結構ついてきたな‥‥‥‥‥。 走る距離はもうちょっと伸ばしてもいいかも」
訓練の一つである走りこみを終えたイアは、そんなことを言いながら息を整える。
ちなみにイアが走ってきたのは喫茶店フランを基準とした、往復で2km程の距離。訓練を始めた当初は1kmだったのだから、実に2倍の距離である。
それでも今は倒れる寸前とまではいかず、むしろ距離を伸ばそうと思えるくらいの余力は残しているのだからイアの成長のすさまじさが分かるだろう。
秋風が火照った体を撫でる中、体が冷えてしまう前にと早速次の訓練であるラビッツ狩りに出かけようとしていると、後ろから聞きなれた声に呼び止められた。セフィリアだ。
「精が出るじゃないか」
「ん、この間の戦いで勝てたはいいけど、ぎりぎりだったから‥‥‥‥‥‥」
心底悔しそうに言うイアに、セフィリアは満足げに頷きながら問う。
「そうか。 ところで、これからまた次の訓練か?」
「うん。 ラビッツ狩りに行こうかと思ってた」
「ならちょうどいいな。 私は今日お前に戦わせる魔物を連れてくるから、カレラと一緒に訓練を進めておいてくれ」
「え? カレラさんと?」
驚くイアに、セフィリアは心なし嬉しそうにして理由を話す。
「ああ、これから一緒に旅をすることになったからな。 今からでも言葉を交わして親睦を深めた方がいいんだろう? こういう時は」
「まあ、そうだね」
何故か理由を伝え聞いたからのように話すあたりセフィリアらしいとイアは苦笑いしながらも、視線を動かし、カレラの姿を探す。
しかしその姿はどこにもなかった。
「カレラさんは?」
セフィリアにそうイアがたずねた時。突然、思いもしないところから声が響く。
『ああ、私はここよ。 イアちゃん』
「え?」
イアが声のした方向、セフィリアの足元を見ると、そこにいたのは一匹の猫であった。
その猫は白というよりは銀色の毛並みに赤眼という、見覚えある姿をしており、イアはまさかとは思いつつ猫の名前を口にする。
「カレラ、さん?」
『ええ、そうよ。 驚いたかしら?』
まさかと思って聞いたところ、楽しそうな肯定の返事が返ってきてイアは驚くが、しかしそれも当然かと思いなおす。
何故ならカレラは自分の意志でこそなかったものの昨夜の一件のいわば首謀者だ。
訓練場にいた者達の記憶はセフィリアが消したものの、王都で暮らす住民たちはそうではない。そして住民たちはカレラの顔もしっかりと記憶していることだろう。そうなればまた一騒動おきることは想像に難くない。
吸血鬼がコウモリの姿に変わるなどと言う話は小さいころからよく聞いた話だし、きっとそれに近いスキルか何かで擬態しているのだろう。
イアがそんなことを考えて一人納得していると、セフィリアが声をかける。
「それじゃあ私は行ってくる。 カレラ」
『ええ。 任せておいて? ちゃんと訓練監督はつとめさせてもらうわ』
カレラの返事にセフィリアは一つ頷いて王都から出る門へと歩いて行った。
王都で魔法や、驚異の身体能力による高速移動などを使用しないのは、人目が多く、少なからず誰かに見られてしまうだろうとの考えからだ。
セフィリアもついに自重を覚えたのかもしれない。
『それじゃ、私達も行きましょうか』
「はい、カレラさん」
その後を追うようにして、イアとカレラの1人と1匹も王都の外へと向かって歩き出す。
独りぼっちだった吸血鬼は数百年の時を経て、ようやく居場所を見つけた様だ。
次回で4章終了です。




