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変化する世界を貴方と  作者: 黒煉
4・王都、騒乱の一夜
46/93

賑やかな空気の終わり

※2018/3/2 誤字を修正

王都ナルメア第一区画、一般街。



その一角、昼下がりの喫茶店「フラン」は普段とは比べ物にならない程ににぎわっていた。

それは店に客が入りきらず溢れてしまうほど。


何故なら‥‥‥‥



「「いらっしゃいませ!」」



金と白の、2人の美人店員が増えていたからである。




□□□




「はい、珈琲が2つですね。 少々お待ちください」

「あ、君‥‥‥」


「? 何か」

「いや、何でもないよ! 珈琲2つよろしくね!!」



金髪の少女、イアが注文を聞いて回り。



「ほら、珈琲を持ってきたぞ」

「は、はひっ!!」


「じゃあ、味わって飲むんだぞ?」



「もう一生この味は忘れませんっ!!!」



「お、そうか」



白髪の女性、セフィリアが品を運ぶ。



2人が対応した客が明らかに動揺しているのも仕方ない。



その原因は2人の服装にある。


今2人が着ているのはメイド服、それも一般的な地味な見た目のものではなく、逆に見た目に重きを置いた可愛らしいものだ。



美少女と美女がそんなものを着て給仕をしている‥‥‥‥眼福としか言いようがない。



しかもイアはそれなりの大きさのモノを持っているため、男性客の目はそこ、どことは言わないが‥‥‥に釘付け。



セフィリアは相変わらず布地が多い服を嫌うため、やはり扇情的なデザインになってしまっている。


イアがロングスカートなのに対しセフィリアはそれはもう、かなりきわどいミニスカートだ。

そしてきわどいのはそこだけでなく、胸元も同様だ。



その為動くたびに尻や、つつましやかなふくらみが若干見えてしまうこともあり‥‥‥‥‥



ブッ!!



「ど、どうした!?」



「くっそ、ここは桃源郷かよ‥‥‥‥‥」



鼻血を吹いて意味の分からないことを呟く客。

そんな者が続出してしまうのも無理はない話だった。





そもそもなんでこうなってしまったかというと、ゴスペルに会うや否や店を放り出してナニかをしに奥へと行ってしまったサリィに代役を頼まれたのである。



行ってしまったかと思えば店と奥のスペースを仕切るドアから顔を出して「悪いけど、しばらくお店をお願い!」と一方的に告げて、服、メイド服を渡されたのだ。



その時なぜサリィが下着姿だったのかはあえて追及しなかったセフィリアとイアである。





そして今に至るわけだが‥‥‥‥


やはり噂は恐ろしいというべきか。


「美人のメイドがいる喫茶店」という話は瞬く間に王都に広がり、それを聞きつけた客(主に男性客)が大勢押し寄せることとなったのである。


もはや精算を担当する店員などふらふらだ。



だがそれだけの客が集まった分、起きてしまう問題もあるわけで。




「きゃっ!?」



「へっへっへ、わりいな嬢ちゃん。 ちょいと手が当たっちまってよお?」



イアが悲鳴を上げる。


かなり混んでいる店内で、どさくさに紛れて一人のガラの悪そうな男がイアの尻を撫でたのだ。



「なあ働いてないでよ、今からでも遊びに行かねえか? 聞いた話じゃ元々ここの店員ってわけでもないらしいし?」



まるで悪びれた様子もなくそんなことをのたまう男。


だがいかんせん、手を出す相手が悪すぎた。



「なあなあいいだ‥‥‥‥」



「あ、手が滑った」



「あ‥‥‥‥!?」



男の眼前に迫ってきたのは少女らしい小さめの拳。


しかしその速度は異常だった。



そしてその拳は男の鼻っ面を完璧にとらえ‥‥‥‥



「ぶべらっ!?」



座っていた男は変な悲鳴を上げてそのまま椅子ごと後ろへと倒れることとなった。



店を静寂が支配する中、拳を戻したイアが実にさわやかな笑顔を浮かべて言う。




「おとといきやがれ」




そんなこともありつつ、2人が給仕を始めて2時間も経つ頃には、先に提供する商品の材料の方がなくなってしまい、喫茶店フランは早々に閉店するのだった。




□□□




その日の夜。



「いや~助かっちゃった! おかげで私も改めてゴスペルと愛を確かめ合うことができましたし‥‥‥‥」

「他人にそういうことを話すのはやめてくれ頼むから‥‥‥‥‥ イアちゃんもいるんだぞ?」


「む、そうだね。 ごめんねイアちゃん?」

「い、いえ‥‥‥‥‥」



そう言いつつも顔は赤いイア。



セフィリアとイア、そしてオーギュストは、やつれたゴスペルと、つやつやしたサリィと共に喫茶店での談笑に興じていた。


サリィの誤解も解けたため、改めて自己紹介や今までの経緯を話そうということになったのである。



「では改めて。 勝手に誤解してごめんなさい。 私はサリィ。 見ての通りの獣人で、ゴスペルの妻です」



自己紹介はサリィの謝罪から始まった。

それに合わせ、ゴスペルも一緒に頭を下げる。



「気にしないでください、私も、セフィリアさんも気にしてませんから‥‥‥‥ ね?」

「あぁ‥‥‥‥」



「ホント? それならよかった」



イアがその謝罪を受け入れ、セフィリアもどこか上の空ではあったものの肯定の意を示す。


その言葉を聞いて顔をあげたサリィに、今度はオーギュストが声をかけた。



「しっかしいい意味でも悪い意味でも変わってないようで安心したぜ、サリィさんよ?」

「む、悪い意味でもって何?」


「ゴスペルのことになると周りが見えなくなるところだな」

「え~? だって仕方ないでしょう? もう一月以上顔も見てなかったんだから!」


「う、悪かったよ‥‥‥‥」



そう言われて申し訳なさそうにせざるを得ないゴスペル。


すると、そこでサリィははっとしてセフィリアの方へと向き直ると同時、もう一度深々と頭を下げた。



「セフィリアさん、ゴスペルの、夫の願いを聞いてくれたばかりか、怪我までも治してくれて‥‥‥‥‥ 本当にありがとうございました!」


 

それは心からの感謝の言葉だった。



それだけゴスペルのことを大事に思っているのだろう。


獣人は同じ種族、というよりは仲間をとても大事にする種族として知られている。

そんな獣人であるサリィのゴスペルへ向ける愛情の大きさはかなりのものだろう。


そしてその大きすぎるほどの愛情故に出た感謝の言葉にも、万感の思いがこもっていた。



だがその言葉を聞いたセフィリアはといえば。



「‥‥‥‥」



「‥‥‥‥? セフィリアさ、ん‥‥‥‥‥?」




何の反応もないことに疑問を覚えたサリィは顔をあげ、そして口をつぐんでしまった。



なぜならセフィリアが纏う空気がとても鋭いものへと変わり、その視線が誰かの顔を見るでも、窓の外を見るでもなく、壁越しにどこか遠くを見るように細められていたからだ。



その突然の変化に驚いたのはサリィだけではない。


サリィの隣で座っていたゴスペルにオーギュスト、そしてイアまでもが、以前古龍ニーヴィルと戦った時の比ではない程に重圧な空気をいつの間にか纏っていたセフィリアに驚きと困惑の視線を向けていた。



だがそんな空気も気にせずに、それはご丁寧に扉を開けてやってきた。





「ああ、やっと見つけたわ‥‥‥‥‥ 貴方がセフィリア、よね?」





それはとても美しい女であった。



銀に輝く髪に、紅い瞳、それもセフィリアの瞳が透き通った赤色であるのに対し、その女の瞳は血のように濃く、そしてどこか禍々しい。



その女は真っ赤なドレスを着ていた。

しかし薔薇で装飾されたそのドレスからは、鼻を塞いでもわかる程の悪臭が、血の匂いが漂っている。



異様な女は、見惚れるような笑みを浮かべて口を開く。



「ねえ‥‥‥‥ 早速で悪いのだけれど。 私も、もう我慢できないの。 だから―――――――――――――――」



しかしその言葉が最後まで紡がれることはなかった。なぜなら。




バキッ!!




「―――――――――――――――!?」




セフィリアがその女を蹴り飛ばしたからである。


人外の脚力によって蹴り飛ばされた女は、その衝撃から凄まじい音と共に街の建物を破壊して吹き飛んだ。



だがそれでもセフィリアは未だに纏う空気を緩めようとはしない。




「絶対にここから外に出るな。 あいつは、危険だ(・・・)




それだけを言い残すと、返答も待たずに女を追って外へと駆けだしたセフィリア。



残された4人は未だに状況を呑み込むことができず、呆然とするままであった。



けれどイアだけは、呆然としつつも何故か言葉にできない恐ろしさを感じ、身を震わせるのだった。


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