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変化する世界を貴方と  作者: 黒煉
3・王都を目指して
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質問の答え

本当に人間か――――――――?


そう聞かれ、驚くセフィリアに、ゴスペルは警戒の態勢をとる。


反応からして、もうセフィリアが人外であることは最早確定だろう。

そして正体がばれたならと、本性を現し、襲ってくるかもしれない。イアもそれに倣い、臨戦態勢にはいっていたが、その瞳は動揺からか揺れている。


だがそんな2人を前にしてセフィリアは、怒るでも、悲しがるでもなく、ただ苦笑いを浮かべていた。


「おいおい、そんなに身構えないでくれ。 確かに私は人間とは呼べないかもしれないが、お前たちをどうにかしようなんて思っていないぞ?」


「悪いが、素性が知れないだけならともかく、人かどうかすら怪しいやつの言葉を『はいそうですか』と聞くわけにはいかないんだよ」

「え~‥‥‥‥ じゃあどうすればいいんだ?」


「あんたが何者なのか。 それを教えてもらおうか」


ゴスペルはイアを庇う位置へと移動しながら、セフィリアにそう答える。

移動したのは、イアが動揺から立ち直れていなかったためだ。


だがセフィリアはそんなことにはまるで見向きもせずに、その場で顎に片手を当てた姿勢で、深く考え込んでしまった。




□□□




自身が何者であるか。



それはセフィリアにとって、ひどく難しい質問なのは間違いない。


セフィリアの種族を答えるならば、”人間”、性別は”女性”。

だがそのどちらも、身体的特徴でしかない。


母親の腹から生まれたわけでもなく、その体は都合よく作られたものだ。それ故に、そのスペックは異常の一言に尽きる。

心も、感情も。もともとは存在すらしなかったものだ。


そんな存在を、”人間”と呼ぶことは、とてもではないができないだろう。”人間を模した何か”である。



じゃあ自分は何だ?一体何者なんだ?



まるで出口のない迷路にでも迷い込んだかのように、その問いが何度も繰り返し頭を巡る。



しかし生憎と今、そんなことをしている時間はない。

仮に間違っていたとしても、現時点での答えは出さねばならないだろう。



ならば‥‥‥‥


しばしの逡巡の後でセフィリアは答えを口にした。




□□□




「私は”人形”だよ」

「”人形”?」


5分も経っただろうか、唐突にセフィリアが顔をあげたかと思えば、口にしたのはそんな言葉だった。



「ああ、そうさ。 私のこの体は創ったもの‥‥‥‥なんて言ってもわからないだろうし‥‥‥‥ともかく、この体は”作りもの”なんだよ。 心なんて元々無かった。 そして私が生まれた、というか、この体が創られたのはもう大昔の話だ。 私の心、感情は、その時間で培ったモノ。 ”人間”と比べて歪に思えるのは、そのせいだろうさ」



その答えに自分で満足したのか、何度も頷いているセフィリア。



しかしその答えを聞いたゴスペルはそんな軽い反応では済まなかった。


予想の斜め上を行く答えに、ゴスペルは警戒することも忘れて聞き返す。


「作られた? 心なんて元々無かった? おいおいおい、じゃあ何か? アンタ、セフィリアさんは大昔に作られたゴーレムか何かとでも?」

「いや、ゴーレムとは全く別だが‥‥‥‥ まあ人間を元にした人形、という意味では正しいのかもな?」

「心がなかったっていうのは?」

「私は元々道具みたいな存在だったからな。 道具に心があるわけないだろう?」


ゴスペルは頭を抱えてしまった。

自分が予想していた会話の展開を超えて、想像以上に重い話を聞かされたことに。



『おいおいおい、怪しいからって問い詰めたらなんでこんな重い話になるんだよ!?』



最も、セフィリア本人にそんな重い話をしたつもりは全くない。

ただありのままを、わからないであろう部分を省いて説明しただけだ。

だが事情を知らない第三者が聞けば、今の話から想像できるセフィリアの人物像は『大昔に道具として作られた人造人間で、あまりに長い時間を過ごしたために本来なかった感情が芽生えるも、中途半端になってしまった人物』である。


少なくともゴスペルにはそう聞こえ、絶対自分ならば触れられたくないだろう部分に触れてしまったと後悔する真っ最中であった。



そんなゴスペルを突き飛ばしてセフィリアに抱き着いた者がいた。


言わずもがな、イアである。

セフィリアは抱き着いてきたイアを受け止めながら、目を潤ませ泣きそうな顔に驚く。


「どうした?」

「‥‥‥‥‥いいから」


それだけ言って、ひしと抱き着いたまま離れないイア。


なぜこうなったかは未だよくわかっていないも、心配してくれていることはわかったので、セフィリアはイアはそのままに吹き飛ばされたゴスペルに声をかける。



「ほらほら、こんなしんみりすることないだろう? ‥‥‥今日はもう依頼もいいから、暗くなるまでこの街の観光でもしようじゃないか!」



そう言って、冒険者が転がる闘技場の中心で、感傷的な空気を醸し出すという混沌とした場を創り上げた張本人は笑ったのだった。




□□□




結局その後簡単な話し合いによって、セフィリア自身に関する話は持ち出さないということに決まった。


イアがセフィリアに暗い話をさせないためにという思いからこの決まりを提案、ゴスペルも同じ轍は踏まないとこれを快諾し、セフィリアには別に聞かれて嫌だという思いはなかったものの、聞かれても答えに困る問いであることには変わりがなかったので決定となったのだった。



結局、今日については依頼も訓練もせず、完全な休みになることが決定したため、3人はケトルーアの街を散策していた。


イアは親鳥にくっつく雛のようにセフィリアから離れようとしない。


そんなイアの頭をなでながら、本来ならば一番気負っているはずのセフィリアは鼻歌など歌いながら店を眺めている。

ゴスペルは罪悪感が未だ抜けていないのか、そんな2人から一歩引いた位置にいた。



そんなゴスペルの態度をまるで気にせず、セフィリアは声をかける。


「それにしても、新しい剣を作るのだったら私に頼めばよかったろうに。 お前からなら金もとらなかったぞ?」


その言葉にゴスペルは苦笑いだ。


「だからだよ。 俺はあくまで、王都に戻るまでの付き合いだ。 ただでさえ辺境の村を救ってもらったり、失った腕を治してもらったりと世話にかかりっぱなしだろう? イアちゃんは弟子みたいな関係だしいいが、俺はそういうわけでもないからな。 頼りっぱなしというわけにもいかないだろう」


そう。

この男、なじんではいるもののあくまで王都までの付き添いなのである。

傭兵団が壊滅したことから、王都にある我が家へと帰るまでの同行者として共にいるだけで、それ以降もセフィリアとイアと共に旅をするわけではないのだ。


だからあくまで、自分でできることは自分でという線引きは作っているらしい。



ふ~ん、と聞いておきながらあまり興味なさそうな返事をしながら、セフィリアは何かを見つけたのか一つの店に駆け寄るとそこに置かれていた品の一つを拾い上げた。

店は雑貨屋で、様々な品が統一性もなく置かれた商品棚からセフィリアが手にしたのは青い水晶玉があしらわれた髪留めであった。


店主は老婆で、髪留めを手にしてまじまじと眺めるセフィリアを見てほほ笑むと、説明を口にした。


「その髪留めは昔、私がある村でまじないの品として売られていたのを買ったものでねえ。 その青い水晶に込められた意味は”安全”。 何事もなく過ごせるようにと大切な人に贈る為の物なの」


その説明にセフィリアは興味深そうに聞き返す。


「ほ~? 恋人か何かに送るのか?」

「いいえ、それはどちらかといえば兄弟や姉妹に送るものよ。 他には、自分の弟子に送るなんてこともあったみたいねぇ」


その言葉にセフィリアとイアの2人が反応する。

そして顔を見合わせると、お互いに示し合わせたかのように声をそろえて


「「これをくれ(ください)!」」

「はーい、ありがとうねえ」


老婆は笑顔のまま、セフィリアとイアから銀貨1枚づつを受け取ると、セフィリアに青水晶の髪留めを、そしてイアに赤い水晶の髪留めを差し出した。


イアはつけられた水晶の色が青ではないことに首をかしげる。

そんなイアに老婆はクスリと笑って、その色の意味を話す。


「貴方たちはお互いに髪留めを送るつもりだったんでしょう? 貴方のお師匠様は青い髪留めのままでいいわ。 貴方の碧眼によく似あっているもの。 貴方が送る髪留めも、お師匠様の瞳に合わせた方がいいでしょう? そして赤い水晶に込められた意味は”親愛”。 これも恋人に送るものとは違うけれど、大切な人への想いを伝える代わりによく送られたものだわ。 どう? あなたにピッタリでしょう?」


老婆の言葉に、イアは笑顔で頷くのだった。





その日の夜。


セフィリアとイアは女同士ということもあり、宿の同じ部屋で互いの髪をいじっていた。

寝る前なのだが、早速買った髪留めをつけてみようとイアがセフィリアに頼んだのだ。


髪留めなのだが、ゴムでまとめるタイプのもので2人とも長い髪をそのまま降ろしていたのを、今は1つにまとめてポニーテールにしていた。



「‥‥よしっ、これでいいんじゃないか?」

「うん! ありがとっ、セフィリアさん! それで‥‥‥どうかな?」

「似合ってると思うぞ?」


「そっか~? ふふん~♪」



セフィリアの返事にイアの頭にできた金色の尾がご機嫌に揺れる。

それを見ながらセフィリアは、同じく自身の髪を束ねる赤い髪留めを触る。そしていい買い物をしたなと微笑むのだった。







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