事の発端はやはり
第3章開始
時は流れ、晩夏。
とはいえうだるような暑さが改善されれことは未だなく、時折吹く涼しい風がまるで暑さにあえぐ人々をからかっているようで憎たらしい。
そんな日の朝‥‥‥‥
「せいっ!!」
「むんっ!!」
ガキィィィィン!!
草原にて、短い声と共に金属のぶつかり合う音が響く。
黒づくめの影が拳の一撃が防がれたと判断するや否や即座に後ろへと下がる‥‥‥ことはなく、防御のために掲げられた大剣によってできた死角をうまく利用しながら背後へと回りこみ、そこから次なる一撃を放つ。
だが読んでいたのだろう。
その一撃は身をそらすことによって躱される。
そしてそこへ反撃とばかりに大剣が薙ぎ払われた。ただ巨大故に剣のリーチは広く、それ故黒づくめの影のその位置は完全にキルゾーンだ。
だがそれを、黒づくめはかがむことによって避けて見せた。
だが、そこまで。
かがんだ影に蹴りが放たれたのである。
それを腕を掲げることによって何とか直撃は防ぐも、かがんだ姿勢では勢いは殺せず、体勢を崩され、地面へと転がる。
その首元に、大剣が突き付けられた。
「‥‥‥‥‥‥まいりました」
そして心底悔しそうに、黒づくめ、イアは負けを認めたのだった。
□□□
次なる街を目指して旅をするセフィリア、イア、ゴスペルの一行。
とはいえ、その次なる街は、実は明確に定まっていない。最終目的地はもちろん学院がある王都へ向かうことになるだろうが、それすらなかった以前はどこへ向かうかわからない、当てのないぶらり旅の予定だったのだから。
それでもイアを最強にするという、旅の目的はある。
先の、イアとゴスペルの模擬戦はその為である。
セフィリアが相手をするという選択肢も、ないではなかったが、いくらセフィリアに傷をつけられてからと言って、だから模擬戦で互角の戦いができますかといえばそれはない。
そもそも、イアがセフィリアに傷をつけることに成功したギルド闘技場での模擬戦。あれはセフィリアもかなり手を抜いていたのだ。もしもセフィリアが本気で戦いを挑んだのであれば、おそらくイアは1秒とかからずただの肉塊へと変わっている。
といった理由から、旅の道中、訓練として行う模擬戦の相手はゴスペルが務めることとなった。
更にイアは、初日の訓練で行った破城込はもちろん、例のラビッツ狩り(近接縛り)を毎日こなしている。極めつけはセフィリア印の魔術薬。
ギルドの魔道具などを使って測ったわけでもないから正確な数字はわからないが、それでも今のイアは、すでにそんじょそこらの銀級冒険者とは格が違う強さを手にしていた。
その証明としては先ほどのゴスペルとの立ち合いで負けたとはいえ、ほぼ互角の戦いを演じたこともそうだし、なにより今では銅級クラスの魔物であれば、一人でも倒すことができるようになっている。
きっと今のイアを見て、「実は一ヶ月ほど前までは辺境の村娘だった」などと言われても誰も信じまい。
それだけ、イアは急成長を続けていたのだ。
「おつかれ様」
「セフィリアさん」
と、そこへ、魔力薬が入ったボトルをもってセフィリアが帰ってきた。
それを受けとり飲み干すイアを見ながら、セフィリアは薬を持っていたのとは反対の手を後ろに隠したまま実に嬉しそうな笑顔浮かべながら口を開く。
「イア、今日はいいものが捕れたぞ!」
「いいもの?」
「‥‥‥‥‥‥イアちゃん、俺もだいぶん分かってきたんだけどよ。 こういう時、大概とんでもないものが‥‥‥‥‥」
「それ以上言っちゃダメ! 本当にそうなっちゃう気がするから!」
「お、おう?」
感覚でフラグを理解した少女、イアである。
もっともそれは無駄な努力に終わることになるのだが。
「ほら見ろ! イアにプレゼントだぞ!」
セフィリアが隠していた手を出す。
「ピイ――――――――――!!」
「「なっ!?」」
「ほら、可愛くないか!? このちっこいドラゴン!!」
嫌な意味で期待を裏切らないセフィリア。
セフィリアが見せたもの。
それは哀れにも尻尾を掴まれ、宙ぶらりんになった黒い幼いドラゴンであった。
□□□
「セフィリアさん、この子は?」
「た、たまたま見つけて‥‥‥‥ 訓練後の食事用にと獲物を探してそこらへんを探してたらこっちを見てるこいつを見つけたもんだからその、イアのペットにでもちょうどいいかなあ~なんて‥‥‥」
「で?」
「で、って‥‥‥‥ ほら、ドラゴンを従えているともなれば、色々と箔もつくだろ? それに普通にドラゴンは強いし‥‥‥‥ 黒色でイアにも合うかなあと思って連れてきた」
「ア"ァ?」
「つ、捕まえてきました‥‥‥‥」
黒い子供ドラゴンを抱きながら、セフィリアを正座させ、自身は仁王立ちで事情聴取をしているのはイアだ。
ゴスペルはイアが怒ったと察した時点でさっさと避難している。
ドラゴンはといえばイアに抱かれているのだがそのイアの尋常でない怒気に完全に委縮してしまっている。
実力だけが上下関係の全てではない‥‥‥‥‥その証明である。
「はぁ‥‥‥‥。 もう。 そもそもこの子の親だっているんでしょう? もし親が襲ってきたらどうするの?」
イアがあきれ顔でそういったのに対し、セフィリアはどや顔でぬけぬけと
「ドラゴン(の肉)はうまいぞ!!」
などと言い、イアから無言での本気アイアンクローを頂戴するのだった。
とはいえ、ドラゴン。
このドラゴンをただ捕まえてきたからとこのまま連れていくなりするわけにもいかない。
ひとまずセフィリアの説教は中断して、ゴスペルも交え、ドラゴンについて話し合うことにする。
「それで、この子はなんてドラゴンなの?」
「分からん」
「え?」
「いや、似たドラゴンなら知ってるんだけどな? そいつは眼が赤いんだよ」
「ああ、ブラックドラゴン、だっけか? 確か魔法を多用し、攻撃力も高い強力な竜だったか。 確かに黒色に赤眼って聞くな」
セフィリアの言葉に同意を示すゴスペル。そしてそれを聞いたセフィリアは頷き、不思議そうにドラゴンの顔を見つめる。
「だろう? だがこいつの眼は‥‥‥‥‥」
「金色だね」
「キュ~~~~?」
3人の疑問など知らず、ドラゴンはイアの金髪に興味津々らしく、肩によじ登ってそこにかかる髪をガジガジと噛んでいる。
「‥‥‥‥‥ういやつめ」
「キュッ♪」
イアがドラゴンの頭を指先でなでてやると、ドラゴンは嬉しそうに頭を指にこすりつけてきた。
そんな様子を見ているとこのドラゴンの正体などどうでもいいことのように思えてきて‥‥‥‥‥
「ん? 何か近づいてくるな」
「‥‥‥‥‥‥」
嫌な予感しかしない言葉をセフィリアが呟く。
ゴアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!
それがまるで合図だったかのように、咆哮と共に空に浮かぶ僅かな雲を割って突如として巨大な影が現れた。
翼を広げたその大きさはゆうに10mを超えるのではなかろうか。遠くて正確にはわかりかねるが、それにしても、巨大であった。
その影の正体に心当たりがありすぎるイアとゴスペルは油を刺し忘れた機械のようにぎこちない動作でギギギッと顔を事の現況、セフィリアへとむけた。
「あ、あれってそのドラゴンの親じゃないか!? 色とかそっくりだぞ!!」
「「だろうね(な)!!」」
「キュキュキュ!!」
分かったぞ!と言わんばかり叫ぶセフィリアに2人は半ばやけくそ気味に吠えたのだった。
さあ。
黒い竜は空を割り、いよいよ3人の元へとやってくる。




