第44話(3-4) 秘密を知る者
「待ってくれ、俺には人質としての価値なんてないぞ」
とりあえず、ありきたりな言葉で背後のエルシレーヌをを説得してみる。
それに呼応して摂政のプロイツェンがこちらへと向き直り、話を引き継ぐ。
「左様です。恐喝的交渉には断固として応じず、それがこの帝国の外交方針ですからな。たとえここで我々両名が殺害されることになってもエルシレーヌ様がそれと引き換えに自由の身となることはございません」
それはやりすぎじゃないか、と俺の心中は穏やかではなかったが、どうやらテロリストには屈せず、がこの国の基本方針らしい観念することにしよう。
「ふん、つまらん」
唐突にエルシレーヌは俺の喉元に突きつけていたナイフを下ろした。
「ずいぶんと度胸のある客人ではないか、話ぐらいは聞こう」
どうやら試されていたようだ、ナイフから殺意が感じられなかったのはそのせいだ。
プロイツェンが何事も無かったかのように話を再開する。
「それではお茶を用意させますかな、冷めた料理は下げさせていただきます」
「どうぞ、お好きなように」
塔の下で待機していた部下に合図を送ると程なくしてお茶の用意が運ばれてきた。なかなかの早さだ、どうやら始めからお茶の準備をさせていたらしい。元からエルシレーヌから情報を引き出す自信があったということか。
お茶の準備が終わり各々がテーブルに座ったところでプロイツェンが口火を切った。
「単刀直入にお聞きします。大規模魔法の発動条件を教えていただけますかな」
「そんなものを聞いてどうする。報復に使われるような知識を与えると思うのか」
「実は敵国の再侵攻の情報を掴んでおります」
プロイツェンの言葉にエルシレーヌの表情が強張った。
「そんなでまかせを、私が信じるとでも」
「信じる信じないはお任せいたします。そして事実として侵攻ルート上にはエルフの里がある」
なるほど、話が読めてきた。つまりエルフが、少なくともエルシレーヌが帝国を攻めるのは本意ではないということか。
「それじゃあ、帝国軍相手に大規模魔法を行使したのも実は脅されていたとか」
発言してからしまった、と思ったがどうやら図星だったらしい、エルシレーヌにものすごい形相でにらまれてしまった。
しかし直ぐに、ふぅ、と一息つくと、
「確かに帝国侵攻に協力しなければ里を焼くと、脅されました。また人間とエルフの間には長い確執があり、帝国との協調路線を取れなかったのも事実です。しかしここで私が大規模魔法についての知識を喋ればあなた方は、それを敵軍に使うおつもりでしょう」
非難のまなざしが突き刺さる。だがここで引き下がるわけにはいかない。
「実はもう既に一度、大規模魔法を発動させて、敵軍を消滅させてます。でもそれ以来再現することが出来ないのでその理由を教えてほしい」
エルシレーヌが思わず絶句した。どうやら彼女の予想外の返答だったようだ。
「分かりました。どうやらあなたは資格を持つ者らしいですね、私の知る限りをお伝えしましょう」