25 レイのプロポーズ
夜。
大神殿。
楽しかった喧騒も終わり、
地下食堂も静かになっていた。
「のだぁ〜……」
レイは満腹だった。
パン。
スープ。
焼き菓子。
修道女たちが張り切りすぎた結果、
めちゃくちゃ食べさせられた。
「苦しいのだぁ……」
「食べすぎです」
ミリヤが苦笑する。
地下食堂にはもう二人だけだった。
蝋燭の灯り。
静かな夜。
「のだぁ」
レイは椅子にだらっと座った。
なんだか妙に落ち着く。
王城は豪華だ。
綺麗。
快適。
美人侍女も多い。
でも。
神殿は少し違う。
もっと生活感がある。
温かい。
「……」
ミリヤは片付けをしていた。
白い修道服。
柔らかい雰囲気。
レイはぼんやり見ていた。
「のだぁ」
「?」
「ミリヤぁ」
「はい?」
「吾輩、最初めっちゃ怖かったのだぁ」
ミリヤが少し驚く。
レイがそんなことを言うの珍しい。
「異世界来た時ですか?」
「うむ」
レイは天井を見る。
「痛いしぃ」
「知らない世界だしぃ」
「狼いるしぃ」
「魔狼ですね」
「怖かったのだぁ」
レイは苦笑した。
「でも神殿来てぇ……」
少しだけ目を細める。
「みんな優しかったのだぁ」
ミリヤは静かに聞いていた。
「ご飯くれてぇ」
「話聞いてくれてぇ」
「笑ってくれてぇ」
レイは頭を掻いた。
「なんかぁ……」
少し恥ずかしそうに笑う。
「嬉しかったのだぁ」
ミリヤは微笑んだ。
「良かったです」
「のだっ♡」
レイはまた調子に乗った。
「やはり吾輩、愛され系イケメンなのだぁ♡」
「台無しです」
「のだぁ!?」
ミリヤは笑った。
本当に変な人。
王都では今や伝説。
【異界の大天才】
【文化革命家】
【王家の寵臣】
そんな扱い。
でも。
目の前のレイは。
神殿でダラダラして、
卵料理喜んで、
ホラーで人泣かせて笑ってた頃と、
あまり変わらない。
「……」
ミリヤは少しだけ安心していた。
レイが遠い存在になりすぎなくて。
「のだぁ」
レイは立ち上がった。
「そろそろ帰るのだぁ」
「王城まで送らせますね」
「うむっ♡」
そして。
少し沈黙。
「……」
「……」
レイはなんとなく、
ミリヤを見た。
優しい。
可愛い。
落ち着く。
「……」
元の世界。
レイはモテなかったわけじゃない。
顔は良い。
でも。
自分からちゃんと誰かを好きになったこと、
あまりなかった。
めんどくさいから。
引きこもりだったから。
「……のだぁ」
レイは少し迷った。
そして。
「ミリヤ」
「はい?」
レイは近づいた。
そして。
ぎゅっ。
「ひゃっ!?」
突然ハグされたミリヤが真っ赤になる。
「レ、レイ様!?」
「のだぁ」
レイはそのままぽつりと言った。
「こんなおじさんでよければぁ……」
「……!」
「吾輩と結婚しませんのだぁ?」
静寂。
ミリヤの顔が一気に赤くなる。
「えっ」
「のだぁ」
レイは妙に真面目だった。
「お金は多分問題ないのだ」
「そ、そういう問題じゃ……!」
「あと顔も良いのだぁ♡」
「今それ言います!?」
ミリヤは完全にパニックだった。
心臓がうるさい。
レイはハグしたまま。
「うむぅ……」
ぼんやり呟く。
「ミリヤといると落ち着くのだぁ」
「……っ」
「神殿も好きなのだぁ」
ミリヤは言葉を失った。
レイは適当。
怠け者。
性格もだいぶ変。
でも。
こういう時だけ、
妙に真っ直ぐ。
「……」
レイは少し不安そうだった。
珍しく。
「……嫌だったのだぁ?」
その顔。
ちょっとだけ。
本当に捨てられそうな大型犬みたいだった。
「……っ」
ミリヤは耐えきれなかった。
「ず、ずるいです……」
「のだ?」
「そんな顔されたら……」
レイは首を傾げた。
ミリヤは顔真っ赤のまま俯く。
「……少し考える時間ください」
「のだっ♡」
レイの顔が明るくなる。
「脈ありなのだぁ♡」
「違います!!」
「のだぁ!?」
ミリヤは涙目だった。
本当に調子狂う。
真面目だと思ったらふざける。
ふざけてると思ったら真面目。
「……でも」
ミリヤは小さく笑った。
「レイ様らしいですね」
「うむっ♡」
レイは満足そうだった。
そして。
「のだっ♡」
またぎゅーっと抱きしめる。
「レイ様ぁ!?」
「柔らかいのだぁ♡」
「雰囲気返してください!!」
地下食堂に笑い声が響く。
そしてレイは。
帰りの馬車で。
「のだぁ〜♡」
めちゃくちゃニヤニヤしていた。
なお。
王城へ帰った瞬間、
エルティア王女に、
『今日は何話ですの!?』
と捕獲されることになる。




