14 正しい構え
2026年 4月29日 第2稿として大幅リライト
剣技の授業が始まるので、生徒たちは教室の後ろにあるロッカーから防具を取り出し始めました。慣れない手つきで着用する生徒たちを見回りながら、ランドリックが指導します。
「まずは、すね当てと膝当てを付けて、次に胴当てだ。胴当てはコルセットを着ける要領なので、誰かに後ろから縛ってもらえ」
――ああ、それでセーラー服のウエストが絞られてるんだ。リーゼは納得しました。
「……わぁ、リーゼの腰、細~い。紐がすごく余っちゃうよ」
アメリアが驚きの声を上げました。余分な脂肪を付けないのは、体操選手だったころからの習慣です。
「太いと動きが鈍くなるから」
「すごいなぁ……うらやましい」
「アメリアも細いよ?」
「ううん、そんなことないよ。リーゼに比べたら全然……。どうやったらこんなに細くなるの?」
「腹筋運動ってわかる? 横になって体を起こしたり、足を上げたり。それを毎日、50回ぐらいやるといいよ」
「そんなの1回もできない……」
「そ、そっか、じゃあ、ストレッチがいいんじゃない?」
「すとれっち?」
「今度教えてあげる。力いらないし、体幹……え~と、体の芯が鍛えられて、無理なく痩せられるから」
「本当? ありがとう!」
リーゼは凜星だった幼いころから身体のバランスが良く、特に力が強いわけでもないのに、筋トレを難なくこなせました。身のこなしが上手なのです。
胴当てを付けたあとは、肘当てと籠手を付ければ出来上がりです。
――こうして防具を身につけると、聖騎士学園のセーラー服が戦いを前提としたものであることがわかります。ちょっと重いけど、動きやすいし機能的です。
「着替え終わったら、体育館に集合だ。急げよ!」
はい! と、みんな元気に返事をしました。
真面目だなぁ、とリーゼは呆れ気味です。体育の授業といえば、マット運動はもちろん、創作ダンスでも模範演技をやらされていたので、なるべく目立たないようにするのがリーゼの立ち回りなのです。
◆ ◆ ◆
体育館の真ん中に、1年生21名が木剣を手に整列しました。
「剣技の手ほどきを全く受けたことがない者はいるか?」
ランドリックの問いに、おずおずと手を挙げたのは――。
「聖少女様とリーゼだけか。まぁ、そうだろうな。他の子は家に属する騎士たちから、すでに基礎を学んでいるだろう」
――そういうもんなんだ? とリーゼは少し驚きました。さすが聖騎士学園に入学する生徒たちです。
「では、まずはリーゼ、お前に基礎を教えてやろう。前に出て剣を構えてみろ」
そうでした。出来ない子も目立つんです。リーゼは観念して1歩前に出ました。
「なんだ、それで構えたつもりか?」
リーゼはただ突っ立って、右手の剣をだらりと床に向けているだけです。
「そのつもりだけど?」
後ろの生徒たちがクスクスと笑いました。「本当に何も知らないんだ」「商人が聖騎士を目指すなんて、無理無理」そんな陰口が聞こえてきます。
どうもこの学園の生徒たちはプライドが高く、家柄の低い者を見下しているようです。
(また身分の差か……)
リーゼはウンザリとしました。オーデンの孤児院でのヒドい扱いを思い出してしまいます。
「左足を引いて体を斜めにしろ。剣を腰の高さで持って、切っ先を私に向けるんだ」
「こう?」
リーゼは、言われるままに体を動かしたました。
「そうだ。なぜそうするかわかるか?」
「わかんない」
「ちょっとは考えろ」
「……動きやすい、とは思うよ」
「そうだ。剣とは、初動が大事なのだ」
ランドリックの木剣の切っ先が、リーゼの顔に突きつけられました。
「どうする?」
「払うよ」
リーゼが木剣を横に振るって、ランドリックの木剣を払いました。
「では、こうしたらどうする?」
今度はリーゼの太股に剣先が向けられました。
「やっぱり払うよ」
木剣を斜めに振るって、ランドリックの木剣を払います。
「そうだ。剣を体の中心である腰の高さに構えることで、全ての攻撃に最短で対処することが出来るのだ」
「ああ! なるほど!」
リーゼは初めて剣技が面白いと感じました。体操もそうですが、理にかなった体の動きが好きなのです。
「お前の体は細い。後ろ足を引き、体を斜めにすれば、剣1本で隠れるほどだ。鉄壁の防御といえるだろう」
言われた姿勢を取ると、木剣がとても頼もしく感じられます。
「ホントだ……斬られる気がしない」
「大きく出たな」
不敵に笑うランドリックですが、額に汗がにじみます。それもそのはず、リーゼに斬り込む隙が全くないのです。
なんてヤツだ――。言葉にならない怯えが背筋を震わせます。ランドリックは教えを続けました。
「防御だけではない。切っ先を相手に向けることによって、顔、胸、胴、足、どこへでも攻撃に移りやすい。私に斬りつけることをイメージしてみろ」
「わかった……」
リーゼは切っ先をランドリックの顔に向けました。頭の中で剣を疾らせてみます。
(ああっ! これダメ!)
イメージとはいえ、ランドリックに防御する暇を与えません。木剣が頭を打ってしまいます。
殺気を感じて、ランドリックの身がすくみました。
とんでもないヤツに剣を教えているのかもしれんな――。頬を伝う汗がそう物語っています。
ランドリックは、剣の構えを解きました。
「次はアメリアだ。剣を構えてみろ」
「は、はい」
リーゼが剣を下ろして、アメリアと代わりました。
アメリアは木剣の重みに耐えられず、細い両腕と内股の足がブルブルと震えています。
「片手剣を両手で持つとは……」
「だって、重くて……」
また生徒たちから嘲笑が漏れました。「田舎に帰った方がいいんじゃない?」「聖少女だなんて、ただの噂よ」などと、わざと聞こえるようにささやいています。
リーゼは嫌な気持ちになりました。自分がいろいろ言われるのはいいけれど、アメリアが言われるのは面白くありません。誰にだって得意不得意があるのです。
「やれやれ、これでは授業にならんな。時間があるときにリーゼに構えを教えてもらえ。いいな?」
「は、はい……」
「では、アメリアは見学。残りは全員で素振りだ!」
はい! と生徒たちの大きな声が返ってきました。
肩を落とすアメリアに、リーゼはそっと話しかけます。
「腕立て伏せってわかる?」
「うん」
「出来る?」
「……ううん、1回もできない」
「ストレッチで体幹を鍛えれば、出来るようになるよ。腰も細くなるし一石二鳥だね」
「あ……」
リーゼが悪戯っぽく笑ってくれました。それだけでアメリアは勇気づけられます。
「うん! リーゼと一緒なら、私……きっとがんばれる!」
聖少女は小さな両手を胸まで上げると、ぎゅっと握りこぶしを作ったのでした。
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