表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/129

14 正しい構え

 剣技の授業が始まるので、生徒たちは、教室の後ろにあるロッカーから、防具を取り出して、装着し始めた。


 生徒を見回りながら、ランドリックが着け方を指導していく。


「まずは、すね当てと膝当てを付けて、次に胴当てだ。胴当てはコルセットを着ける要領なので、誰かに後ろから縛ってもらえ」


 ああ、それでセーラー服のウエストが絞られてるんだ。リーゼは納得した。


「……わぁ、リーゼの腰、細~い。紐がすごく余っちゃうよ」


 アメリアが感嘆の声を上げた。


「無駄な脂肪があると、動きが鈍くなるから」

「すごいなぁ……うらやましい」

「アメリアも細いよ?」

「ううん、そんなことないよ。リーゼに比べたら全然……。どうやったらこんなに細くなるの?」

「腹筋運動ってわかる? 横になって体を起こしたり、足を上げたり。それを毎日、何十回もやるといいよ」

「腹筋……1回もできない……」

「そ、そっか、じゃあ、ストレッチがいいよ」

「すとれっち?」

「今度教えてあげる。力いらないし、体幹……え~と、体の芯が鍛えられて、無理なく痩せられるから」

「本当? ありがとう!」


 リーゼ――いや、楠未凜星は幼いころから身体のバランスが良く、特に力が強いわけでも無いのに、筋トレを難なくこなした。天賦の才だとコーチが喜んだものだった。


 胴当てを着けたあとは、頭を守る髪飾り(サークレット)を髪に留め、肘当てと籠手を着ければ出来上がり。


 こうして防具を着けると、聖騎士学園のセーラー服が戦いを前提にしたものだってことがわかる。ちょっと重いけど、動きやすいし、機能的。


「着替え終わったら、体育館に集合だ! 急げよ」


 はい! と、みんなが元気に返事をした。真面目だなぁ、体育の授業なんか、適当に手を抜けばいいのに。リーゼは、マット運動から創作ダンスまで、模範演技をよくやらされたので、なるべく目立たないようにするのが身についていた。



  ◆  ◆  ◆



 体育館の中央に、1年生21名が木剣を手に整列した。


「剣技の手ほどきを全く受けたことがない者はいるか?」


 ランドリックの問いに、おずおずと手を挙げたのは――


「聖少女様とリーゼだけか。まぁ、そうだろうな。他の子は家に属する騎士たちから、すでに基礎を学んでいるだろう」


 そういうもんなんだ? さすが聖騎士学園に入学する生徒だなぁ。と、リーゼは他人事のように思った。


「では、まずはリーゼ、お前に基礎を教えてやる。前に出て剣を構えてみろ」


 ああ、そうだった。出来ない子も目立つんだよね。リーゼは観念したように一歩前に出た。


「なんだ、それで構えたつもりか?」


 リーゼは、ただ突っ立って、右手の剣をだらりと床に向けてるだけだった。


「そのつもりだけど?」


 後ろの生徒たちがクスクスと笑った。

「本当に何も知らないんだ」「商人が聖騎士を目指すなんて、無理無理」と陰口が聞こえた。


 どうもこの学園の生徒たちは、プライドが高く、家柄の低い者を見下しているらしい。

 また、身分の差か……。リーゼはウンザリした。オーデンでの孤児院のヒドい扱いを思い出してしまう。


「左足を引いて体を斜めにしろ。そして、剣を腰の高さで持って、切っ先を私に向けるんだ」

「こう?」


 リーゼは、言われるままに体を動かした。


「そうだ。なぜそうするかわかるか?」

「わかんない」

「ちょっとは考えろ」

「……動きやすい、とは思うよ」

「そうだ。剣とは、初動が大事なのだ」


 ランドリックが木剣の切っ先を、リーゼの顔に突きつけた。


「どうする?」

「払うよ」


 リーゼが木剣を横に振るって、ランドリックの木剣を払った。


「では、こうしたらどうする?」


 今度は、リーゼの太股に剣を向けた。


「やっぱり払うよ」


 木剣を斜めに振るい、ランドリックの木剣を払った。


「そうだ。剣を体の中心である腰の高さに構えることで、全ての攻撃に最短で対処することが出来るのだ」

「ああ! なるほど!」


 リーゼは初めて剣技が面白いと思った。体操もそうだが、理にかなった体の動きが好きなのだ。


「お前の体は細い。後ろ足を引き、体を斜めにすれば、剣1本で隠れるほどだ。鉄壁の防御といえるだろう」

「ホントだ……斬られる気がしない」


 自然と、何もしていなかった左手が、右手の剣とバランスを取るように、胸の高さに引き寄せられた。


「大きく出たな」


 不敵に笑いながらも、実際に全く隙がないことに、ランドリックは気づいていた。


(何てことだ……斬り込める気がしない……)


 額に汗がにじむのを感じながら、ランドリックは教えを続けた。


「防御だけではない。切っ先を相手に向けることによって、顔、胸、胴、足、どこへでも攻撃に移りやすい。私に斬りつけることをイメージしてみろ」

「わかった……」


 リーゼの眼光が鋭くなった。頭の中で、ランドリックの顔へ、胸へ、剣をはしらせてみる。


(ああっ! これダメ!)


 イメージとはいえ、どの箇所にも剣が無残に突き刺さった。ランドリックは剣で防御するいとまもない。

 その気配を察して、ランドリックは身がすくんだ。


(こいつは……とんでもないヤツに剣を教えてるのかもしれんな)


 構えを少し教えただけで、もう気圧されるとは……。これで聖魔法が使えれば、いつでも聖騎士になれるのではないか?


「次はアメリアだ。剣を構えてみろ」

「は、はい」


 片手剣の重みに耐えられず、アメリアの両手と内股の足はプルプルと震えた。


「片手剣を両手で持つとは……」

「だって、重くて……」


 また、生徒たちから嘲笑が響いた。「田舎に帰った方がいいんじゃない?」「聖少女だなんて、ただの噂よ」とかなんとか。


 自分がいろいろ言われるのはいいけど、アメリアが言われるのは嫌な気持ちになる。誰だって、得意不得意があるのに。


「やれやれ、これでは授業にならんな。アメリアは時間があるときにリーゼに構えを教えてもらえ。いいな?」

「は、はい……」

「では、アメリアは見学。残りは全員で素振りだ!」


「はい!」生徒たちの大きな声が返ってきた。


 リーゼは、アメリアの剣をそっと降ろすと尋ねた。


「腕立て伏せってわかる?」

「うん」

「出来る?」

「ううん……1回もできない」

「ストレッチで体幹を鍛えれば、出来るようになるよ。腰も細くなるし一石二鳥だね」


 リーゼは、人差し指を立てて、見せながら言った。


「まずは、腕立て伏せ1回出来るようになろっか?」

「……うん! リーゼと一緒なら、私……きっとがんばれる!」


 聖少女は、健気に握りこぶしを作った。


【次回予告】

リーゼとアメリアの学園生活は続きます。徐々に嫌がらせも増えて……?


【大切なお願い】

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 応援して下さる方、ぜひとも

 ・ブックマークの追加

 ・評価「★★★★★」

 を、お願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ