10 実技試験
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2023年 2月27日 第2稿として加筆修正
お金の力ってすごい。今回は、いきなり学園長室に通された。恰幅のいい白髪の学園長さんと向き合って、ソファに座ってる。ニコニコしてるので、歓迎されてるみたい。
「大金貨500枚は、すでにセルジオ商会から支払われております。入学されるのはそちらのお嬢さんで間違いないでしょうか?」
「そうです。リーゼ様とおっしゃられます」
横に座ってるエリオが答えた。学園長さんと同じくニッコニコだ。
「リーゼ様ですね。保証人はあなた様が?」
「はい。リーゼ様の金銭的な保証は、セルジオ商会と、私、エリオが引き受けます」
「それなら安心ですね。セルジオ商会は、隣国では有数の商会ですからな」
「ネイザー公国でも、徐々に商いを増やさせて頂いております」
「王族の方々とも親しくされているとか?」
「親しいなどと、とんでもありません。ただの御用聞きでございます」
「はっはっはっ、ご謙遜を」
リーゼが小声でエリオに尋ねた。
「ね、保証人ってなに?」
「リーゼ様が授業料を支払えない場合に、肩代わりするということです」
「なにそれ? 聞いてないよ。なんでエリオが?」
「形だけです。誰か大人が保証しなければ、入学は叶いません。ご辛抱を」
……まぁ、ちゃんと払えばいいことだし、いいか、とリーゼは納得した。けど、なんだかエリオがお父さん代わりになったみたいなんだけど?
「それでは、ご入学手続きはこれで終わり……と、申し上げたいところなのですが……」
「まだ、何か?」
「剣技指導長のランドリックが、実技試験を行いたいと申しまして」
学園長の背後に立っていた女騎士が、腕組みしたまま口を開いた。
「本学園は、有力な騎士や魔道士の推薦による入学が基本だ。商人が格を求めて入学されても困る。よって、そこの少女、リーゼの剣技がどの程度のものであるか改めさせてもらおう」
「実技試験は免除されるとうかがっておりますが?」
「どのような圧力をかけたか知らんが、試験、授業は私の裁量で行われる。何人の指図も受けん」
金による入学が気に入らないのか、女騎士の眉が吊り上がっている。年は30前後。傷跡だらけの太い腕が、歴戦の勇士であることを物語っている。
「というわけでして、いかがでしょう? これから体育館で試験というわけには?」
「どうされますか? リーゼ様」
エリオの問いに顔をしかめたが、普通の学校じゃないし仕方ないかと、リーゼは諦めた。
「いいけど、ちゃんとした剣技とか知らないよ?」
◆ ◆ ◆
体育館は屋根のある闘技場といった趣だった。2階には観客席があり、実技試験のことを聞きつけたのか、100人近い生徒の姿がすでにあった。
リーゼが入ってくるなり、生徒たちがどよめいた。
「黒髪に黒瞳よ」
「商人のコネで入学しようってんでしょ? 格を買おうだなんて、卑しい」
「先生にコテンパンにされて、諦めればいいのよ」
蔑んだ視線を浴びせられても、リーゼは動じなかった。体操の競技会でも才能を妬んだ子たちからの陰口は聞こえたし、直接的な嫌がらせも受けた。
(ちょっと懐かしいな、この感じ)
うっすらと笑みを浮かべると、客席の陰口がますます勢いを増した。
「何笑ってんのよ、薄気味悪い」
「さっさと負けて、店の売り子でもしてればいいのよ」
「聖騎士になろうだなんて、おこがましい」
居ても立ってもいられず、金髪の少女が観客席の最前列の手すりに駆け寄った。
「リーゼ……リーゼ!」
精一杯の大きな声だった。
「アメリア!」
気づいたリーゼが、アメリアの下へ駆け寄った。
「その……がんばって。リーゼなら、きっと合格するよ」
「うん。一緒に学校通おうね」
アメリアは知っている、リーゼが桁違いに強いことを。けど、ランドリック剣技指導長も、この学園で比ぶ者のない剣の使い手だ。元トップランクの冒険者だとも聞いている。
「な~に? あの田舎者と仲がいいワケ?」
「あーあー、金だけが自慢の商人とお似合いねぇ」
アメリアまで陰口を叩かれるのを聞いて、リーゼは面白くなかった。オーデンでもそうだったけど、貴族はいつも平民を見下してる。イジメとかありそう。
ランドリックが木剣を手に現れ、体育館の真ん中まで歩みを進めた。
「剣を抜け。試験は、私相手にどこまで戦えるかだ」
リーゼはランドリックに向き直ると、静かに尋ねた。
「その剣でいいの?」
「何?」
「双剣使いじゃないの? 腰に剣が2本あるし」
「目ざといな。お前相手に受けの剣はいらぬ。一撃で倒れるのだからな」
「そっか」
リーゼも剣を抜いた。
「何だその剣は? 刃が潰れているではないか」
「人を傷つけるのがイヤだから」
「それで聖騎士になろうというのか? 格だけを求める商人め」
ランドリックの歯ぎしりが聞こえてきそうだ。
「格なんかいらないよ。ただ、制服を着て、学校に通いたいだけ」
「あぁ? 訳のわからぬ事を……かかってこい!」
「……いくよ」
体育館の端から真ん中まで、距離は十分にある。
リーゼは両足を揃えて胸を張り、剣を持つ右手を天に掲げた。
何の真似だ? ランドリックは疑問に思ったが、それは床の演技を始める合図だ。
(みんなが見てる前で演技するのは久しぶり)
「お願いします!」
1つ大きな息をすると、リーゼの小さな体が飛び出した。それは――誰の目にも留まらぬ速さだった。
【次回予告】
いよいよ始まった実技試験。久々の体操シーン+剣技が始まります!
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