表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
33/129

09 商談

更新履歴

2026年 4月15日 第3稿として大幅リライト

2022年 2月11日 第2稿として加筆修正

 リーゼは再び、聖騎士学園のサクラ並木にやって来ました。今度はエリオを連れています。


「ゴランのおじさんから、いくらもらったの?」

「大金貨600枚です」

「そんなに!? 入学金より100枚も多いんだけど!?」

「私の取り分を1割足して550枚と申し上げたのですが、切りが悪いので600枚でよいとおっしゃられました」

「切りが悪いからって50枚も増えるの!? 大金貨だよ!? 意味わかんないんだけど?」

「あの方にしてみれば、大金貨など小銭のようなものなのです」

「はぁ……あるところにはあるんだね、お金って」

「使いどころをわかっておられる方なのです」



  ◆  ◆  ◆



 数日前のことです。

 エリオは、とある厳めしい屋敷を訪れていました。広大な敷地に数え切れぬほどの衛兵が目を光らせ、築いた財と敵の多さが察せられます。

 天井が高く、大理石がふんだんに使われた応接室で、エリオは屋敷の主を待っていました。


「ゴラン様がお越しになられました」


 初老の執事が扉を開いて告げると、エリオは即座にソファから身を起こしました。深々と頭を下げます。


「構わん。楽にしてくれ」


 ドカドカと部屋に入ったゴランは、大ぶりなソファに身を沈めます。エリオも腰を下ろしました。


「久しぶりだな、エリオ殿。元気にしておったか?」

「はい。ゴラン様も意気軒昂なご様子でなによりです」

「心配事は絶えぬがな!」


 ゴランは豪快に笑いました。ゴランはロアンの鍛冶ギルドの時とは違って、マントを羽織った貴族の装いです。


「“闇の大穴”の事でございますね?」

「そうだ。知っての通り、我が妻、リィンの剣による封印が限界に来ている。それまでに新たな封印を施さねばならない」

「……ゴラン様に代わる聖剣の打ち手は、見つかったと察しますが?」


 ゴランの眉がピクリと動きました。


「耳聡いな。ロアンにでも立ち寄ったか?」

「お察しの通りです。今日は、その聖剣の打ち手の代理で参りました」

「……なんだと?」

「ミスリルナイフの鍛冶代金ですが、大金貨500枚でいかがでしょう?」

「随分ふっかけるな。あの娘がそんな金を望むとは思えんが?」

「一心同体とも言える友人が、聖騎士学園への入学を望んでおります。その入学金を工面する為です」

「他人の入学金を用立てるというのか?」

「一心同体とも言える……と、申し上げましたが?」

「男か? 男は入学できぬぞ?」


 エリオは苦笑しながら頭を振りました。


「男に貢ぐ年ではありません。同い年の少女です」

「話が見えんな」

「簡単なことです。優れた剣の使い手には、腕の立つ鍛冶屋がそばにいるもの。それは、リィン様のために聖剣を打ったゴラン様がよくご存じかと」

「リーム殿と、その少女の関係もそうだというのか?」

「その少女は――」


 エリオは前髪を上げ、赤い左目を見せました。


「勇者です。この目で見抜きましたので間違いありません」

「……なんだと? 300年振りに勇者が現れたというのか?」

「はい。名をリーゼ様と申します」

「……では、強いのか? そのリーゼとやら」

「我が従者を歯牙にもかけませぬ」


 ゴランの鋭い目が、一瞬だけ見開きました。エリオの従者が強者であることを、ゴランは知っています。影として、エリオの裏の言いつけを一手に引き受けているのです。


「面白い! 其奴そやつが聖騎士になりたいと?」

「いえ、残念ながら……興味があるのは可愛らしい制服のみです」

「制服……だと?」


 ゴランがまた豪快に笑いました。


「肩当て代わりの大きな襟が気に入ったか? 機能と美しさを追求した妻を褒めねばならぬな!」

「勇者らしく、正義感の強いお方です。聖剣の持ち手とはなり得ませんが、学園に囲い込んで損はないかと」


 ゴランが背もたれに身を預けて、不満そうにフンと鼻を鳴らしました。


「……全てお主の思惑通りに進むようで、面白くないな」

「商談が滞りなく進むのは、良きことでは?」

「リーゼとやら、金ではなく、ワシが推薦してやってもよいぞ?」

「リーゼ様は格を求めておられません。ただ、普通の学園生活を送りたいだけなのです。勇者であることは、ご内密にしていただきたい」

「なるほど……その為に我が金がいるか。お主が何者であるかも内密にせねばならぬからな」

「その通りでございます。一介の旅商人が、自らの財で大金貨500枚を用意するなど、あってはならないのです」

「貸しだな」

「仰せのままに。私はリーゼ様の為なら全てをなげうつこともいといません」


 ゴランの動きが止まりました。ゆらりと背もたれから身を乗り出して、エリオを見据えます。


「エリオ殿が全てをなげうつと? それほどの者か?」

「無垢で、正直な方です。私はただ……あの方がこれから何を目にし、何を学んで、世界とどう関わるのか、見届けたいだけなのです」


 ゴランは悟りました。変わった――と。世を憂いて、どこか拗ねていた者はもうここにはいません。

 ゴランは勢いよく立ち上がりました。


「その話、乗ってやろう! 金を持って行け!」

「では、私の取り分を含めて、大金貨550枚をお願いいたします」

「商人め。切りが悪い! 600枚用意してやる」

「ありがたく頂戴いたします」


 エリオは立ち上がり、頭を垂れました。



  ◆  ◆  ◆



 客人が去った応接室の窓から、日暮れの海とハーバルの街並みが見えます。明かりが灯っていく窓の向こうに日々の暮らしがあり、守るべき幸せがあります。

 “闇の大穴”がある北に向かって、ゴランは語りかけました。


「入学した勇者が、聖騎士を見出してくれるかも知れぬ。これも……お前が導いてくれた奇跡か?」


 紛うことなき聖騎士であった妻の面影が、金色の髪をなびかせて、そっと微笑んでくれたような気がしました。

【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 応援して下さる方、ぜひとも

 ・ブックマーク

 ・高評価「★★★★★」

 ・いいね

 を、お願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ