11 最高難易度
2026年 4月20日 第2稿として大幅リライト
凜星には夢の技がありました。それは、いつか挑戦したいと思っていた最高難易度Hの技。もちろん11歳の身には――まして、病床の体では到底叶うことのない願いです。ですが、生まれ変わってリーゼとなって、ムーンサルトが楽々とこなせるようになった今、挑戦する時が訪れたのです。
「お願いします!」
小さな体が駆け出しました。
――速い! ランドリックが目を見張ります。今まで見たどの騎士よりも、どの盗賊よりも、どの魔物よりもたちまち距離を詰めてきます。まるで、稲妻が走ったかのように。
わずか数歩で走れる限りの速さに達したリーゼは、さらに加速するためにロンダートを繰り出します。剣を持っているので床には手をつかず、勢いだけで体を側転させます。続けて、テンポ宙返りを3連続。――テンポ宙返りは床に手を付けない後方展開(バク転)で、回る度に速度が上がっていきます。
「目くらましか! なめるなよ!」
ランドリックが木剣を水平になぎ払いました。――けれど、リーゼの体はすでにそこになかったのです。
――上か! 左右ではないと直感したランドリックが見上げました。視線の先には、宙を舞うリーゼがいます。
後方抱え込み2回宙返り2回ひねり――シリバスです。
理解を超えた動きに、ランドリックの動きが止まりました。大柄な自分の背丈を遙かに超えた、剣すら届かぬ先で、小さな体が2回転しながら2回ひねられているのです。みっともなく口を明けて、見送るしかありませんでした。
ランドリックの背後に着地したリーゼは、満足そうに両手を天に広げます。
「出来た! 最高難易度!」
国際大会の映像でしか見たことのない技を、自らの力で繰り出すことが出来たのです。これまでに感じたことのない高揚感で包まれました。
はっと、我に返ったランドリックの鼻先に、リーゼの剣先が突きつけられました。
「うっ……」
「これでいい?」
「……見事だ。剣技……とは言えんが、実戦なら私は殺られていた。思わず見入ってしまったよ」
「じゃあ、合格?」
ランドリックは木剣を下げ、右手を差し出しました。
「もちろんだ。お前に剣を教えるのが楽しみだよ」
「よろしくね、ランドリック先生」
リーゼも右手を差し出しました。2人は固い握手を交わしたしたのです。
その光景に拍手をしたのは、2階席から見ていたアメリアと、体育館の隅から見ていたエリオだけでした。
アメリアは、ほっと胸をなで下ろします。リーゼが実技試験に落ちるわけがないと思いながらも、剣の先生が相手なので、少しだけ不安だったのです。
「リーゼはすごいなぁ……。ああいう子が聖騎士になるんだろうなぁ」
などと、のんきにつぶやきました。自分が聖騎士になれるとは、まるで思っていないようです。
体育館がざわめく中、陰口をしていた女の子たちの中に、アメリアと同じように、一際輝く金色の髪をした女の子がいました。ストレートロングをサイドポニーにまとめていて、歳はアメリアより少し上のようです。
「フン、あれでは剣技ではなく曲芸ね」
鋭い眼光をリーゼに投げかけると、取り巻きの女の子たちが我先に同意しました。
「まったくですわ。サーカスにでも行けばいいですのに」
「高貴な我が学園に相応しいとは思えませんわ」
「シャルミナ様なら惑わされることなく、一刀のもとに斬り捨てたでしょうに」
シャルミナと呼ばれた少女が立ち上がりました。
「行くわよ」
「は、はい!」
取り巻きたちを従えて、シャルミナが体育館を後にします。美しく整えられた爪を噛む口元から、密かな声が漏れました。
「あの速さ、身のこなし……まずい。聖騎士になるのは私でなければならないのに……」
余計な芽は摘まなければ――。歪むシャルミナの顔に、後ろに続く女の子たちが気づくことはありませんでした。
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