07 入学金
更新履歴
2026年 4月11日 第3稿として大幅リライト
2022年 2月3日 第2稿として加筆修正
「えっ? 入学に大金貨500枚もいるの!?」
「はい。それに、年間授業料が大金貨100枚となります」
「高いっ」
「推薦入学であれば、どちらも免除されるのですが……」
いきなり入学したいと乗り込んできたリーゼに、事務受付の女性は品格のある学園らしく丁寧に対応していました。
「推薦入学って、どうしたら出来るの?」
「位の高い騎士様や魔道士様のご推薦が必要になります。あと、推薦入学に限らずですが、実技試験に合格していただかなければなりません」
リーゼは小さな腕を組んで唸ってしまいました。実技試験はともかく、位の高い騎士や魔道士の推薦などもらえるわけがありません。
「入学受付はいつまで?」
「来週末までとなっています。再来週から授業が始まりますので」
「そっか……」
正門へ続くサクラ並木を戻りながら、リーゼは名残惜しそうに振り返りました。大理石とレンガで出来た校舎が威厳を感じさせます。
病気になって、ベッドで動けなくなって、もう叶わないと受け入れていた学校へ通うこと。――あきらめたくありません。
「ミスリルナイフの代金、ちゃんともらっておけばよかったな。……って、大金貨500枚はくれないか」
「リーゼ! どうだった?」
制服のスカートを揺らしながら、少女が駆け寄ってきました。まだ着慣れない感じが初々しいです。
「アメリア! 制服! かわいい!」
「寄宿舎に入ったから、普段から制服を着なきゃならなくて……」
「そうなんだ! すっごく似合ってる! かわいい!」
「ありがと……」
肩をすくめてはにかむ笑顔が、さらにかわいらしさを引き立てます。
「入学……どうだった?」
「お金が高くて無理みたい」
「え……」
「アメリアは推薦?」
「うん。その……すごく位の高い騎士様が推薦してくれたみたいで……」
「そっか……そんな人いないしなぁ」
「お金……高いの?」
「すっごくね。ちょっとやそっとじゃ貯まらないぐらい」
「そうなんだ……一緒に通いたいのに……」
金色の長いまつげが、大きな青い瞳に影を落としました。
「大丈夫、あきらめてないから」
「え?」
アメリアが顔を上げると、リーゼが胸の前で両手をぐっと握っています。
「入学は先になっちゃうかもしれないけど、待っててよ!」
「……うん! 待ってる!」
リーゼはこれからどうするか作戦を立てます。
(取りあえず包丁を売ろう。週末は新体操を披露すればいい。そうしてお金を貯めて、いつか入学できたら……)
なんだかワクワクしてきました。体操も新体操も難しい技ほど立ち向かえましたし、目標があれば、がんばれる子なのです。
何か思案していたアメリアが口を開きました。
「リーゼなら、実技試験さえ受けられれば、すぐに推薦されると思うんだけど……」
「じゃあ、先生に斬りかかっちゃおうかな? 入学させろって」
「え……」
思いがけないリーゼの言葉に、アメリアが目を丸くしました。その表情がかわいらしくて、リーゼの顔がほころびます。アメリアも落ち込む様子のないリーゼに安心して、屈託のない微笑みを返すのでした。
◆ ◆ ◆
そのころ――。辺境の街ロアンの鍛冶ギルドを、ひとりの商人が訪ねていました。
「かつてない切れ味の包丁を求めて参りました。柄に2つの三角と1つの丸の銘が刻まれているのですが、ご存じないでしょうか?」
頭を下げた商人は、左目を長い髪で隠しています。応対に出たのはギルド長のオイゲンでした。
「そいつぁ、リームの打った包丁じゃな」
「リーム? リームとおっしゃられるのですか? その打ち手は」
「ああ、めんこい童でな。細っこい腕のクセにうちの一番デカいハンマーを易々と振り下ろしおる。別格じゃよ、あの娘は」
「その娘……大きな瞳が印象的で、物言いが少々生意気では?」
「なんじゃ? リームを知っておるのか?」
「いえ、心当たりが少々あるだけです」
エリオは確信しました。リーゼ様だ――と。
「リーゼ……いえ、そのリーム様は、どちらにおいででしょう?」
「もうこの村を出て行ったぞ。包丁を売って、路銀は十分だそうだ」
ガハハと大口を開けて、オイゲンが笑いました。
「なんと……一足違いでしたか……」
エリオはがっくりと肩を落としました。あからさまに落胆した様子が見て取れます。
「残念じゃったな。あの娘の打った包丁で商売したくなるのはよくわかるが、あれは自由な子じゃ」
そんなことは言われるまでもありません。エリオにしてみれば、そばにいたい気持ちを抑えているのですから。
「どちらへ行かれたかご存じないでしょうか?」
「追うつもりか? 執念深いのう」
「商人でございますから。商機を逃すわけには参りません」
「あの娘が儲け話に乗るとは思えんぞ? 危ないからと剣をあえて打たぬ変わり者じゃ」
「やはり……あの方らしい……」
「まぁ、探すのは止めんよ。ワシが判断することではないからの。行き先の手がかりはあるんじゃ」
「と、いいますと?」
「先日、街の門に縄で縛られた盗賊団が転がっておってな。この辺りを荒らす不届きなヤツらだったので大助かりじゃったのだが――」
オイゲンの目が、愉快そうに輝きました。
「リームの書き置きが添えておった」
「では、リーム様がその盗賊団を捕らえたと?」
「そのようじゃ。ワシらに伝授したように、鍛冶の能力は戦うことによってレベルを上げねばならぬ。奇しくもそのことを証明したんじゃな」
鍛冶の能力――すなわち鍛冶スキルが戦うことによって磨かれるとは、エリオにとって初耳です。ですが、今はどうでもよいことでした。
「それで、書き置きには何と?」
「“街へ旅する馬車を襲った盗賊を引き渡すね”とあった」
「街へ旅する馬車……街へ……」
「公都のことじゃろう。近くの街なら旅とは書かん」
「リーム様は……おそらく同行されてますね」
「ああ、ワシもそう思う。素っ気ないようで、面倒見のいい娘じゃからな。ワシらにも丁寧に鍛冶の技を教えてくださった」
「ありがとうございます」
エリオは胸に手をあて、深々と頭を下げました。
「すぐに公都へ向かいます。何かご入り用はありますでしょうか? 納品のお手伝いだけでも賜ります」
「お主、商売うまいのう」
「これを機に、セルジオ商会にご用命を」
にこやかな微笑みを浮かべながらも、エリオはリーゼへ思いを馳せていました。もうすぐ追いつく、またお力になれる――。干渉しすぎてはいけないと思いつつも、再会の時を心待ちにしているのです。
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