06 公都へ
更新履歴
2026年 4月8日 第3稿として大幅リライト
2022年 1月26日 第2稿として加筆修正
「た、頼む、降ろしてくれ! 行かないでくれ!」
両手首を縛られて、街道沿いの大木に吊された盗賊たちが懇願しています。リーゼが数えると8人いました。
海賊たちの視線の先には、さっきまで殺そうとしていた老農夫がいます。
「その縄の結び目は、お主らの重さで締め付けるので、まず解けぬ。運良く街道を守る騎士が通りがかるのを祈るのじゃな」
「そんな! 助けてくれ!」
このまま放っておけば、死んでしまうかもしれません。リーゼは老農夫の袖を引っ張りました。
「ね、ここまでしなくてもよくない?」
老農夫が困った顔をしました。
「リーゼ殿はお優しいな。じゃが、ワシとアメリアは、そなたほど強くない。逃げ出されて、こいつらに報復されては困るのじゃ」
「……そっか、そうだよね。運良く騎士さんに捕まることを祈るしかないか」
「そういうことじゃ」
「頼む! 助けてくれ!」
「報復なんかしねぇ! 許してくれ!」
叫ぶ盗賊たちに耳を貸すことなく、リーゼたちは馬車に乗り込みました。老農夫の手綱に促されて、年老いた馬が古ぼけた馬車を引いていきます。
盗賊たちは、ますます大きな声で助けを懇願しました。
リーゼは盗賊たちを見張らせようと、グレープを小さなサイズのまま、こっそり放ちました。驚いたことにグレープは、のそのそと茂みに入ると体の色を草と同じに変えました。
(えっ!? そんな能力あったの!? 炎吐くだけじゃないんだ!)
グレープがチロチロと細長い舌を出しました。まるで、得意げに笑っているかのようです。
夜になっても盗賊が吊されているようなら、アカべぇに頼んでロアンの街の門に置いてきてもらうつもりです。盗賊とはいえ、死んでしまうのはあんまりですから。
ゴトゴトと揺れながら、ゆっくりと馬車は進んでいきます。
「ね、どこに向かうの?」
「公都ハーバルじゃよ。お前さんはどこへ行くのじゃ?」
「決めてない。……けど、ハーバルでいいかな。公都っていうぐらいだから大きな街なんでしょ?」
「もちろんじゃ。数えきれるぬぐらい店があって賑やかじゃし、海もあるぞ」
「海!? 行く行く! 久しぶりに見たい!」
「そうか、そうか。お前さんが一緒なら心強いわい。アメリアも退屈せんでいい」
「リーゼと一緒だなんてうれしい」
「私も」
肩を並べて座るふたりが、にっこりと微笑み合いました。
◆ ◆ ◆
それから数日後――。緩やかな山道を抜けると、遠くに真っ青な海が広がりました。
「うわぁ~っ! 海だ~っ!」
リーゼの瞳が水面に負けないぐらいキラキラと輝きます。ずっと病床にいたので、もう何年も海を見ていなかったのです。ゲームや動画の中ではない、本物の波の輝きに心が躍ります。
「ね、砂浜ある? 泳げる?」
「もちろんじゃ。ハーバルのビーチは、他国から観光客が来るほどの名所じゃぞ」
「そうなんだ! ね、一緒に泳ご?」
リーゼの誘いに、アメリアはちょっと躊躇したものの、すぐに首を縦に振りました。
「……うん。リーゼと一緒なら」
思いもよらない返事に、老農夫が目を細めました。引っ込み思案で運動が苦手な孫娘が泳ぐなどと、うれしい驚きだったのです。
山の斜面から入江を囲むように、巨大な壁が築かれています。
「あれが、公都ハーバルじゃよ」
「大きい……」
リーゼが目を見張りました。小高い山道から覗く街並みは石造りで、オーデンの何倍もの広さがあります。緑も多くて、とっても過ごしやすそうです。
◆ ◆ ◆
門兵に身分証を求められたので、リーゼはオーデンの孤児院でもらった聖天使エリーゼ教会の身分証を出しました。通れるかどうかドキドキしましたが、あっさり通してくれました。
「聖天使教会の子じゃったのか。……これも、エリーゼ様のお導きかもしれんな」
「え?」
「いや、何でもないて。それより、その歳で教会を出るのは珍しいのう」
「世界を……いろいろ見て回りたかったからね」
「そうか……ルクシオール王国では肩身が狭かったじゃろうからな。ここではどんな宗教も自由じゃから、気兼ねせんでいいぞ」
「そうなんだ? いい国だね。けど、信者ってわけでもないんだよね」
「そうなのか?」
「うん。お腹空いて、しばらく置いてもらって、お友だちがいっぱいできたって感じ」
「わはは、いっぱしの旅人じゃな」
大通りに出ると、たくさんの人でにぎわっていました。騎士、村人、商人、冒険者、船乗り、色んな人たちが行き交っています。オーデンと違って、ドワーフや、獣人も多いです。建物の背も高くて、3階建て、4階建てが当たり前でした。
「すごいすごい!」
久しぶりの都会にキョロキョロしていると、リーゼの視線がお喋りしながら歩く女の子たちに釘付けになりました。
「制服だ……」
女の子たちが着ているのは、明らかにセーラー服でした。腰回りがきゅっと絞られていますが、特徴的な襟の形とリボンは紛れもなくセーラー服です。
「聖騎士学園の制服だよ」
「聖騎士学園?」
「ネイザー公国中から、聖騎士の素養がある子を集めて、勉強させてるの。私も……入学するんだ」
「えっ!? アメリアも!?」
「うん……ぜんぜん強くないんだけど、聖魔法が使えるから」
「そうだったんだ……」
この国にも学校がある。制服が着られる――。中学に入ったら着られるはずだったセーラー服は、リーゼの憧れだったのです。
「私も入学したい! 制服着たい!」
リーゼは思わず、両手を握りしめて立ち上がったのでした。
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