05 再び、旅へ
更新履歴
2026年 4月5日 第3稿として大幅リライト
2022年 1月20日 第2稿として加筆修正
ミスリル鉱でナイフを打ってから、数日が過ぎました。
ロアンの街の門には、身支度を調えたリームの姿があります。これまでたくさん包丁を売ったので、旅するお金が十分に貯まったのです。
衛兵のグステオや、オイゲンを始めとする鍛冶職人たちが見送りに来ました。皆、別れを寂しそうにしています。けれど、広い世界を求める若者を引き留めることは出来ません。
「じゃあみんな、またね!」
リームはひとりひとりとハイタッチすると、元気よく旅立っていきました。
「ここは鍛冶の街じゃ、遠からずまた戻ってくるじゃろう」
オイゲンのつぶやきに、皆がうんうんとうなずくのでした。
◆ ◆ ◆
リームは人気のない街道をどんどん進んでいきます。久しぶりの旅に足取りも軽やかです。
丘を越えた辺りで、道を外れた岩陰に入りました。
「ゲートマーク!」
これでいつでも転移して、ロアンの近くへ戻ってくることができます。
続いて、勇者にキャラクターチェンジしてリーゼの姿になりました。恥ずかしい変身ポーズと決め台詞も、誰も見ていなければ平気です。リームでは少し背が低くて歩幅が狭いし、自分に似ている勇者の姿がしっくりくるのです。
急ぐ旅ではないので、【マイルーム】で休みながらのんびりと進みます。お風呂もベッドもあるし、冷蔵庫には買い溜めた食べ物がいっぱい。ゴロゴロしてばかりのクマと、のっそりしたトカゲもいます。
あっという間に、数日が経ちました。
あんまり見通しのよくない森の道を抜けていると、遠くに馬車が止まっているのが見えました。
休憩かな? リーゼはそう思いましたが、様子がおかしいです。フードを被った数人の一団が、馬車を取り囲んでいるのです。
盗賊だ! 直感したリーゼは【ショートカットワード】を叫びました。
「キャラクターチェンジ! 盗賊リーニャ!」
駆け出したリーゼの体が、光に包まれました。
◆ ◆ ◆
「か、金ならあるだけ持って行ってくれ。どうか、命だけは……」
年老いた農夫が、金色の髪の少女を抱きかかえて懇願しています。
「そうはいかねぇなぁ。その娘は見たこともねぇ上玉だ。たっぷり楽しんだあと、奴隷商に売りつけてやる」
「子供になんて恐ろしいことを……」
少女をかばう老農夫の腕が震えました。怯える少女は老農夫の胸に顔をうずめています。
盗賊が剣を逆手に持ち、上段に構えました。
「じいさん、お前は売り物にならねぇ。あの世へ行きな」
「あぁ……」
老農夫が死を覚悟し、身をこわばらせたその瞬間――盗賊リーニャが目にも止まらぬ速さで駆け込んできました。馬車を踏み台にしてジャンプします。
「キャラクターチェンジ! 勇者リーゼ!」
再び【ショートカットワード】を唱えて、光の体がムーンサルト(後方2回宙返り1回ひねり)を繰り出します。盗賊と老農夫の間に、割って入るように着地しました。
「うおっ!」「なんだ!?」突然飛び込んできた光の塊に盗賊たちが怯みます。
舞い上がった砂埃がゆっくりと収まると、そこには勇者の初期服に身を包んだリーゼがいました。
“あふれる力、胸に秘め
目指すは地の果て、空の果て
どんな敵にも屈しない
勇者リーゼ、ここにあり!”
変身マクロのセリフが、魔法少女っぽいポーズと共に自動再生されました。
(恥ずかしいっ!)
リーゼは頬を真っ赤に染めました。
「なんだぁ? お前は」
「勇者だとぉ? ふざけやがって!」
「まぁ、待て、こいつも上玉だ。殺すなよ」
親玉らしき男が盗賊たちを制すると、なめるような目つきでリーゼを見ました。
「黒髪に黒い瞳は、金髪の娘より価値が高い」
「違いねぇ。ヘッヘッ、こんなことあんのかよ? みすぼらしい馬車を襲ったら、金目のガキが2人もかかりやがった」
「ゲヘヘ、幼い方が高く買うって奴隷商もいるからな」
リーゼはため息をつきました。
「サイッテー。この国にもヒドい大人がいるんだ」
これ以上ないぐらい蔑んだ半目で睨むと、腰の剣を抜きました。
「さっさとかかってきなよ。こらしめてあげるから」
「ぬかせ!」
親玉がリーゼに斬りかかりました。
リーゼはその手首をあっさりと剣で打ち付けます。
「ぐああぁっ!」
親玉が悶絶して地面に伏しました。あまりの痛みにのたうち回ります。
「あ、ゴメン。痛すぎた? 軽く打っただけなんだけど……」
リーゼが剣の刃を、手のひらでポンポンと打ちました。
「けど、感謝しなよ? この剣、刃を潰してあるんだから」
「お、お前ら! この生意気なガキをやっちまえ!」
おう! とばかりに盗賊たちが一斉に斬り込みかかりました。
リーゼは目にも止まらぬ速さで、盗賊たちの手を、足を、肩を、打ち付けていきます。
ぐあっ! ぎゃっ! ヒィッ!
あっという間に、盗賊たちが地面に転がりました。打ち付けられたところを押さえて、無様に泣きうめきます。
老農夫と金髪の少女は何が起こったのかわからず、ポカンとしています。
「お爺さん、ロープある? こいつらの手足縛っちゃってよ」
「わ、わかった、任せてくれ」
老農夫がはっとして立ち上がり、馬車の荷台へ向かいました。
「大丈夫? ケガはない?」
リーゼがしゃがんで声をかけると、少女はこくこくとうなずきました。顎を引く度に、肩まで伸びた金髪のウェーブがふわふわと揺れます。
(なに? すっごくかわいいんだけど。お人形さんみたい)
「あなたは……本当に勇者様なの?」
少女もまた、黒髪と黒い瞳のリーゼに目を奪われています。特別な子なのだと一目でわかりました。
「そうなんだけど、誰も信じないんだよね。まだ11歳で神託前だから。普通は職業を授かってないし」
「私は……信じるよ。だって……強いもの。私たちを、助けてくれたもの」
大きな青い瞳から感謝の気持ちが伝わってきます。リーゼははにかみました。
「私、リーゼ」
「私、アメリア。1つ年下の10歳だよ」
2人はにっこりと笑い合いながら、やっぱりかわいいとお互い思い合うのでした。
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