07 入学金
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2022年 2月3日 第2稿として加筆修正
「えっ? 入学に大金貨500枚もいるの!?」
「はい。それに、年間授業料が大金貨100枚となります」
「高いっ」
「推薦入学であれば、どちらも免除されるのですが……」
いきなり入学したいと乗り込んできた少女に、事務受付の女性は品格のある学園らしく丁寧な対応をしていた。
「推薦入学って、どうしたら出来るの?」
「位の高い騎士様や魔道士様のご推薦が必要になります。あと、推薦入学に限らずですが、実技試験で合格していただかなければなりません」
実技試験はともかく、位の高い騎士……かぁ。思い出したくもないサイテーの騎士なら知ってるけど。……あ、隣の国だった。
「入学受付はいつまで?」
「来週末までとなっています。再来週から授業が始まりますので」
「そっか……」
事務室を後にし、正門へ続くサクラ並木を戻りながら、リーゼはあきらめきれないように振り返った。威厳と歴史を感じさせる大理石とレンガで出来た校舎がそこにあった。
入院して、ベッドから動けなくなって、もう諦めてた学校へ通うこと。――諦めたくない。
ミスリル鉱でナイフを打った代金、ちゃんともらっておけばよかったな。……けど、500枚はさすがにくれないか。
「リーゼ! どうだった?」
制服のスカートを揺らして、少女がひとり駆け寄ってきた。まだ着慣れない感じが初々しい。
「アメリア! 制服! かわいい!」
「あ……裏手の寄宿舎に入ったから。普段から制服を着なきゃならなくて……」
「そうなんだ! すっごく似合ってる! かわいい!」
「ありがと……」
はにかむ笑顔が、さらにかわいい。
「入学……どうだった?」
「お金が高くて無理みたい」
「そっか……」
「アメリアは推薦?」
「うん。その……すごく位の高い騎士様が推薦してくれたみたいで……」
「そっか……そんな人いないしなぁ」
「お金……高いの?」
「すっごくね。ちょっとやそっとじゃ貯まらないぐらい」
「そうなんだ……一緒に通いたいのに……」
「大丈夫、あきらめてないから」
「え?」
肩を落としたアメリアが顔を上げた。
「入学は先になっちゃうかもしれないけど、待っててよ」
「……うん! 待ってる!」
しょぼんとした顔に、パァッと笑顔の花が咲いた。こんなのかわいすぎでしょ?
取りあえず包丁を売ろう。週末は新体操を披露すればいい。そうしてお金を貯めて、いつか入学できたら……。
そう思うと、なんだかウキウキしてきた。体操も新体操もそうだったけど、目標があればがんばれる。難しい技ほど立ち向かえた。
「リーゼなら、実技試験さえ受けられれば、すぐに推薦されると思うんだけど……」
「じゃあ、先生に斬りかかっちゃおうかな? 入学させろって」
思いがけないリーゼの言葉に、ふたりの笑顔が弾けた。
◆ ◆ ◆
そのころ――。
辺境の村ロアンの鍛冶ギルドを、ひとりの商人が訪ねていた。
「かつてない切れ味の包丁を求めて参りました。柄に2つの三角と1つの丸の銘が刻まれているのですが、ご存じないでしょうか?」
長い髪で左目を隠した商人が頭を下げた。
対応に出たのは、ギルド長のオイゲンだ。
「そいつぁ、リームの打った包丁じゃな」
「リーム? リームとおっしゃられるのですか? その打ち手は」
「ああ、めんこい童でな。細っこい腕のクセにうちの一番デカいハンマーを易々と振り下ろしおる。別格じゃよ、あの娘は」
「その娘……大きな瞳が印象的で、物言いが少々生意気では?」
「なんじゃ? リームを知っておるのか?」
「いえ、心当たりが少々あるだけです」
リーゼ様だ――エリオは確信した。
「リーゼ……いえ、そのリーム様は、どちらにおいででしょう?」
「もうこの村を出て行ったぞ。包丁を売って、路銀は十分だそうだ」
オイゲンは、ガハハと大口を開けて笑った。
「なんと……一足違いでしたか……」
エリオはあからさまに落胆した。落ち込んでいるようにすら見えた。
「残念じゃったな。あの娘の打った包丁で商売したくなるのはよくわかるが、あれは自由な子じゃ」
それは重々、わかっている。
「どちらへ行かれたかご存じないでしょうか?」
「追うつもりか? 執念深いのう?」
「商人でございますから。商機を逃すわけには参りません」
「あの娘が儲け話に乗るとも思えんがのう? 危ないからと剣をあえて打たぬ変わり者じゃぞ?」
「やはり……あの方らしい……」
うれしさから、言葉がこぼれた。
「まぁ、会うのは止めん。ワシが判断することではないからの。行き先の手がかりはあるんじゃ」
「と、いいますと?」
「先日、村の門に縄で縛られた盗賊団が転がっておってな。この辺りを荒らす不届きなヤツらだったので大助かりじゃったのだが――」
オイゲンの目が、愉快そうに輝いた。
「リームの書き置きがされておった」
「では、リーム様がその盗賊団を捕らえたと?」
「そのようじゃ。ワシらに伝授したように、鍛冶の能力は、戦うことによってレベルを上げねばならぬ。奇しくもそのことを証明したんじゃな」
鍛冶の能力――つまり、鍛冶スキルが戦うことによって磨かれる? 初耳だが、今はそのことはどうでもいい。
「それで、書き置きには何と?」
「“街へ行く馬車を襲った盗賊を引き渡すね”とあった」
「街へ行く馬車……ならば、それなりに距離がある街」
「公都である可能性が高いじゃろうな」
「しかも、おそらく同行している」
「よくわかるの? 素っ気ないようで、面倒見のいい娘じゃからな。ワシらにも丁寧に技を教えてくださった」
「ありがとうございます。公都へ向かいますので、何かご入り用はありますでしょうか? 納品のお手伝いだけでも賜ります」
「お主、商売うまいのう」
「これを機に、セルジオ商会にご用命を」
商人らしく胸に手を当ててお辞儀をしながら、エリオはリーゼへ思いを馳せていた。もうすぐ、追いつく……。また、お力になれる。干渉しすぎてはならぬと思いつつも、己の生きる意味がそこにあるのだ。
【次回予告】
入学金は金貨500枚! お金に困るリーゼに凄腕商人が迫る!(笑)
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