06 公都へ
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2022年 1月26日 第2稿として加筆修正
「た、頼む、降ろしてくれ! 行かないでくれ!」
両手首を縛られた上に、街道沿いの大木に吊された盗賊たち(数えると8人もいた)が懇願した。
海賊たちの視線の先には、さっきまで殺そうとしていた老農夫がいる。
「その縄は、お主らの重さで締め付けられるので、まず解けぬ。運良く街道を守る騎士が通りがかるのを祈るのじゃな」
「そんな! 助けてくれ!」
このまま放っておけば、死んでしまうかもしれない。リーゼは老農夫の袖を引っ張った。
「ね、ここまでしなくてもよくない?」
老農夫は困った顔をした。
「リーゼ殿はお優しいな。じゃが、ワシとアメリアは、そなたほど強くない。逃げ出されて、こいつらに報復されては困るのじゃ」
「……そっか、そうだよね。運良く騎士さんに捕まることを祈るしかないか」
「そういうことじゃ」
「頼む! 助けてくれ!」
「報復なんかしねぇ! 許してくれ!」
叫ぶ盗賊たちを置いて、馬車が遠ざかっていった。
リーゼは盗賊たちの見張りのため、グレープを小さいサイズのまま、こっそり放っておいた。
グレープはのそのそと茂みに入ると、草と同じ色に変わった。えっ!? そんな能力あったの!? 炎吐くだけじゃないんだ!
盗賊とはいえ死んじゃうのはあんまりだから、夜、アカべぇに頼んで、こっそり【ゲート】でロアンの街の門に置いてきてもらおう。街を守ってるグステオおじさんはビックリするだろうけど、盗賊が捕まって喜ぶはず。ちゃんと捕まるかどうかも、グレープに見張っててもらおうかな。
ゴトゴトと揺れながら、ゆっくり馬車は進んでいく。
「ね、どこに向かうの?」
「公都ハーバルじゃよ。お前さんはどこへ行くのじゃ?」
「決めてない。……けど、ハーバルでいいかな。公都っていうぐらいだから大きな街なんでしょ?」
「もちろんじゃ。数えきれるぬぐらい店があって賑やかじゃし、海もあるぞ」
「海!? 行く行く! 久しぶりに見たい!」
「そうか、そうか。お前さんが一緒なら心強いわい。アメリアも退屈せんでいい」
「リーゼと一緒だなんてうれしい」
「私も」
肩を並べて座るふたりは、にっこりと微笑みあった。
◆ ◆ ◆
それから数日後、緩やかな山道を抜けると目の前に海が広がった。
「うわぁ~っ! 海だ~っ!」
リーゼの瞳がキラキラと輝いた。ずっと病床にいたので、もう何年も海を見ていない。見たのはゲームの中や、テレビやネットの動画の中だけ。本物の波の輝きに心が躍った。
「ね、砂浜ある? 泳げる?」
「もちろんじゃ。ハーバルのビーチは、他国から観光客が来るほどの名所じゃぞ」
「そうなんだ! ね、一緒に泳ご?」
リーゼの誘いに、アメリアはちょっと躊躇したものの、すぐに首を縦に振った。
「……うん。リーゼと一緒なら」
老農夫は、思いも寄らない返事に目を細めた。引っ込み思案で運動が苦手なアメリアが泳ぐなどと、うれしい驚きだった。
山の斜面から入江を囲むように、巨大な壁が築かれている。
「あれが、公都ハーバルじゃよ」
大きい……オーデンの何倍もある。小高い山道から覗く街並みは石造りで、緑が多く、どこまでも広がっていた。
◆ ◆ ◆
門兵に身分証を求められたので、聖天使エリーゼ教会の身分証を出した。
通れるかどうかドキドキしたが、あっさり通してくれた。
「聖天使教会の子じゃったのか。……これも、エリーゼ様のお導きかもしれんな」
「え?」
「いや、何でもない。それより、その年で教会を出るのは珍しいのう」
「世界を……いろいろ見て回りたかったからね」
「そうか……ルクシオール王国では肩身が狭かったじゃろうからな。ここではどんな宗教も自由じゃから、気兼ねすることはない」
「そうなんだ? いい国だね。けど、信者ってわけでもないんだよね」
「そうなのか?」
「うん。お腹空いて、しばらく置いてもらって、お友だちがいっぱいできたって感じ」
「わはは、いっぱしの旅人じゃな」
大通りに出ると、たくさんの人でにぎわっていた。騎士、村人、商人、冒険者、船乗り、様々な人たちが行き交っている。オーデンと違い、ドワーフや、獣人も多い。建物の背も高く、3階建て、4階建てが当たり前だ。
すごいすごい――久しぶりの都会にキョロキョロしていると、リーゼの視線がお喋りしながら歩く女の子たちに釘付けになった。
「制服だ……」
女の子たちが着ているのは、明らかにセーラー服だった。腰回りがきゅっと絞られているが、特徴的な襟の形とリボンは紛れもなくセーラー服だ。
「聖騎士学園の制服だよ」
「聖騎士学園?」
「ネイザー公国中から、聖騎士の素養がある子を集めて、勉強させてるの。私も……入学するんだ」
「えっ!? アメリアも!?」
「うん……ぜんぜん強くないんだけど、聖魔法が使えるから」
「そうだったんだ……」
この国にも学校がある。制服が着られる――中学に入ったら着られるはずだった、憧れのセーラー服が。
「私も入学したい! 制服着たい!」
リーゼは思わず、握りこぶしを作って立ち上がった。
【次回予告】
公都ハーバルにたどり着いたリーゼは、制服を着るために聖騎士学園へ入学することを決意! 果たしてうまく行くのか?
【大切なお願い】
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