表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/129

05 再び、旅へ

更新履歴

2022年 1月20日 第2稿として加筆修正

 ミスリル鉱でナイフを打ってからしばらくして、リームはロアンの街を出ることにした。たくさん包丁を売ってお金が貯まったので、また旅に出る時が来たのだ。


 街の門では、衛兵のグステオや、オイゲンを始めとする鍛冶職人たちが見送りに来ている。皆、別れが寂しそうだが、旅立つ者を引き留めることは出来ない。


「じゃあみんな、またね! またね!」


 リームはひとりひとりとハイタッチすると、元気よく門を出た。ここは鍛冶の街だ、遠からずまた戻って来るだろう――。その後ろ姿は、見送る者たちを皆、笑顔にした。



  ◆  ◆  ◆



 足取り軽く丘を越えると、リームは道の外れの岩陰に入った。


「ゲートマーク!」


 これで、いつでもロアンの街へ来られる。続いてキャラクターチェンジして、リーゼの姿に戻った。やっぱり元の自分とそっくりのこの姿が、一番しっくりくる。種族も人だし。


 一人旅に不便はなく、むしろ快適。【マイルーム】のおかげでお風呂もベッドもあるし、冷蔵庫には買い溜めた食べ物がいっぱい。ゴロゴロしてばかりのクマと、のっそりしたトカゲもいる。


 ――そんな感じで、街道沿いを何日歩いただろう? 風景を楽しみながらのんびり進んでいると、遠くに馬車が止まっているのが見えた。

 休憩かな? そう思ったけど、様子がおかしい。フードをかぶった数人の一団が取り囲んでいる。


 盗賊だ! リーゼはそう直感して、【ショートカットワード】を叫んだ。


“キャラクターチェンジ! 盗賊リーニャ!”


 駆け出したリーゼの体が、光に包まれた。



「か、金ならあるだけ持って行ってくれ。どうか、命だけは……」


 金色の髪の少女を抱きかかえながら、年老いた農夫が懇願していた。


「そうはいかねぇなぁ。その娘は見たこともねぇ上玉だ。たっぷり楽しんだあと、奴隷商に売りつけてやる」

「子供になんて恐ろしいことを……」


 少女の肩を抱く老農夫の腕が震えた。少女は怯えて老農夫の胸に顔をうずめている。

 盗賊が剣を逆手に持ち、上段に構えた。


「じいさん、お前は売り物にならねぇ。あの世へ行きな」

「あぁ……」


 老農夫が死を覚悟し、身をこわばらせたその瞬間――盗賊リーニャが目にも止まらぬ速さで馬車を踏み台にジャンプした。


“キャラクターチェンジ! 勇者リーゼ!”


 再び【ショートカットワード】を唱えながら、リーニャが宙を舞う。光の体がムーンサルト(後方2回宙返り1回ひねり)を繰り出し、盗賊と老農夫の間に割って入った。


「うおっ!」「なんだ!?」突然飛び込んできた光の塊に盗賊たちが怯んだ。


 舞い上がった砂埃がゆっくり収まると、そこには勇者の初期服に身を包んだリーゼがいた。


 “あふれる力、胸に秘め

  目指すは地の果て、空の果て

  どんな敵にも屈しない

  勇者リーゼ、ここにあり!”


 変身マクロのセリフが、魔法少女っぽいポーズと共に自動再生された。


(恥ずかしいっ!)


 リーゼは、真っ赤になりながらも剣を抜いた。


「なんだぁ? お前は!」

「勇者だとぉ? ふざけやがって!」

「まぁ、待て、こいつも上玉だ。殺すなよ」


 親玉らしき男が盗賊たちを制すると、なめるような目つきでリーゼを見た。黒髪に黒い瞳、金髪の娘より価値が高い。


「違いねぇ。ヘッヘッ、こんなことあんのかよ? みすぼらしい馬車を襲ったら、金目のガキ2人目だ」

「ゲヘヘ、幼い方が高く買うって奴隷商もいるからな」


 リーゼはため息をついた。


「サイッテー。この国にもヒドい大人がいるんだ」


 これ以上ないぐらい蔑んだ半目を向けた。


「さっさとかかってきなよ。こらしめてあげるから」

「ぬかせ!」


 親玉が斬りかかった。リーゼは、その手首をあっさりと剣で打ち付けた。


「ぐああぁっ!」


 親玉が悶絶して倒れ込んだ。あまりの痛みに、目が飛び出そうなぐらい見開いてる。


「あ、ゴメン。痛すぎた? 軽く打っただけなんだけど……」


 リーゼは剣の刃を、ポンポンと手のひらで打った。


「けど、感謝しなよ? この剣、刃を潰してあるんだから」

「お、お前ら! この生意気なガキをやっちまえ!」


 おう! とばかりに盗賊たちが一斉に斬り込みかかった。

 リーゼは目にも止まらぬ速さで、盗賊たちの、手を、足を、肩を、打ち付けていく。


 ぐあっ! ぎゃっ! ヒィッ!


 あっという間に、無様に泣き叫ぶ盗賊たちが地面に転がった。

 何が起こったのかわからない老農夫と金髪の少女は、ただポカンとしているだけだ。


「お爺さん、ロープあるかな? こいつらの手足縛っちゃってよ」

「わ、わかった、任せてくれ」


 はっとして老農夫が立ち上がり、馬車の荷台へ向かった。


「大丈夫? ケガはない?」


 リーゼがしゃがんで声をかけると、少女はこくこくとうなずいた。首を引く度に、肩まで伸びた金髪のウェーブが揺れる。


 なに? すっごくかわいいんだけど? お人形さんみたい。


「あなたは……本当に勇者様なの?」


 少女は感謝の眼差しでリーゼを見つめている。


 黒髪と黒い瞳だなんて……特別だ。こんなにきれいでかわいい子、見たことない。


「そうなんだけど、誰も信じないんだよね。まだ11歳で、神託前だから」

「私は……信じるよ。だって……強いもの。私たちを、助けてくれたもの」


 リーゼは照れて、少しはにかんだ。


「私、リーゼ」

「私、アメリア。1つ年下の10歳だよ」


 にっこりと笑い合うお互いを見て、やっぱりかわいいと思い合う2人だった。

【次回予告】

金髪の少女アメリアとリーゼは、これから一緒に旅をすることに?


【大切なお願い】

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 応援して下さる方、ぜひとも

 ・ブックマークの追加

 ・評価「★★★★★」

 を、お願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ