05 再び、旅へ
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2022年 1月20日 第2稿として加筆修正
ミスリル鉱でナイフを打ってからしばらくして、リームはロアンの街を出ることにした。たくさん包丁を売ってお金が貯まったので、また旅に出る時が来たのだ。
街の門では、衛兵のグステオや、オイゲンを始めとする鍛冶職人たちが見送りに来ている。皆、別れが寂しそうだが、旅立つ者を引き留めることは出来ない。
「じゃあみんな、またね! またね!」
リームはひとりひとりとハイタッチすると、元気よく門を出た。ここは鍛冶の街だ、遠からずまた戻って来るだろう――。その後ろ姿は、見送る者たちを皆、笑顔にした。
◆ ◆ ◆
足取り軽く丘を越えると、リームは道の外れの岩陰に入った。
「ゲートマーク!」
これで、いつでもロアンの街へ来られる。続いてキャラクターチェンジして、リーゼの姿に戻った。やっぱり元の自分とそっくりのこの姿が、一番しっくりくる。種族も人だし。
一人旅に不便はなく、むしろ快適。【マイルーム】のおかげでお風呂もベッドもあるし、冷蔵庫には買い溜めた食べ物がいっぱい。ゴロゴロしてばかりのクマと、のっそりしたトカゲもいる。
――そんな感じで、街道沿いを何日歩いただろう? 風景を楽しみながらのんびり進んでいると、遠くに馬車が止まっているのが見えた。
休憩かな? そう思ったけど、様子がおかしい。フードをかぶった数人の一団が取り囲んでいる。
盗賊だ! リーゼはそう直感して、【ショートカットワード】を叫んだ。
“キャラクターチェンジ! 盗賊リーニャ!”
駆け出したリーゼの体が、光に包まれた。
「か、金ならあるだけ持って行ってくれ。どうか、命だけは……」
金色の髪の少女を抱きかかえながら、年老いた農夫が懇願していた。
「そうはいかねぇなぁ。その娘は見たこともねぇ上玉だ。たっぷり楽しんだあと、奴隷商に売りつけてやる」
「子供になんて恐ろしいことを……」
少女の肩を抱く老農夫の腕が震えた。少女は怯えて老農夫の胸に顔をうずめている。
盗賊が剣を逆手に持ち、上段に構えた。
「じいさん、お前は売り物にならねぇ。あの世へ行きな」
「あぁ……」
老農夫が死を覚悟し、身をこわばらせたその瞬間――盗賊リーニャが目にも止まらぬ速さで馬車を踏み台にジャンプした。
“キャラクターチェンジ! 勇者リーゼ!”
再び【ショートカットワード】を唱えながら、リーニャが宙を舞う。光の体がムーンサルト(後方2回宙返り1回ひねり)を繰り出し、盗賊と老農夫の間に割って入った。
「うおっ!」「なんだ!?」突然飛び込んできた光の塊に盗賊たちが怯んだ。
舞い上がった砂埃がゆっくり収まると、そこには勇者の初期服に身を包んだリーゼがいた。
“あふれる力、胸に秘め
目指すは地の果て、空の果て
どんな敵にも屈しない
勇者リーゼ、ここにあり!”
変身マクロのセリフが、魔法少女っぽいポーズと共に自動再生された。
(恥ずかしいっ!)
リーゼは、真っ赤になりながらも剣を抜いた。
「なんだぁ? お前は!」
「勇者だとぉ? ふざけやがって!」
「まぁ、待て、こいつも上玉だ。殺すなよ」
親玉らしき男が盗賊たちを制すると、なめるような目つきでリーゼを見た。黒髪に黒い瞳、金髪の娘より価値が高い。
「違いねぇ。ヘッヘッ、こんなことあんのかよ? みすぼらしい馬車を襲ったら、金目のガキ2人目だ」
「ゲヘヘ、幼い方が高く買うって奴隷商もいるからな」
リーゼはため息をついた。
「サイッテー。この国にもヒドい大人がいるんだ」
これ以上ないぐらい蔑んだ半目を向けた。
「さっさとかかってきなよ。こらしめてあげるから」
「ぬかせ!」
親玉が斬りかかった。リーゼは、その手首をあっさりと剣で打ち付けた。
「ぐああぁっ!」
親玉が悶絶して倒れ込んだ。あまりの痛みに、目が飛び出そうなぐらい見開いてる。
「あ、ゴメン。痛すぎた? 軽く打っただけなんだけど……」
リーゼは剣の刃を、ポンポンと手のひらで打った。
「けど、感謝しなよ? この剣、刃を潰してあるんだから」
「お、お前ら! この生意気なガキをやっちまえ!」
おう! とばかりに盗賊たちが一斉に斬り込みかかった。
リーゼは目にも止まらぬ速さで、盗賊たちの、手を、足を、肩を、打ち付けていく。
ぐあっ! ぎゃっ! ヒィッ!
あっという間に、無様に泣き叫ぶ盗賊たちが地面に転がった。
何が起こったのかわからない老農夫と金髪の少女は、ただポカンとしているだけだ。
「お爺さん、ロープあるかな? こいつらの手足縛っちゃってよ」
「わ、わかった、任せてくれ」
はっとして老農夫が立ち上がり、馬車の荷台へ向かった。
「大丈夫? ケガはない?」
リーゼがしゃがんで声をかけると、少女はこくこくとうなずいた。首を引く度に、肩まで伸びた金髪のウェーブが揺れる。
なに? すっごくかわいいんだけど? お人形さんみたい。
「あなたは……本当に勇者様なの?」
少女は感謝の眼差しでリーゼを見つめている。
黒髪と黒い瞳だなんて……特別だ。こんなにきれいでかわいい子、見たことない。
「そうなんだけど、誰も信じないんだよね。まだ11歳で、神託前だから」
「私は……信じるよ。だって……強いもの。私たちを、助けてくれたもの」
リーゼは照れて、少しはにかんだ。
「私、リーゼ」
「私、アメリア。1つ年下の10歳だよ」
にっこりと笑い合うお互いを見て、やっぱりかわいいと思い合う2人だった。
【次回予告】
金髪の少女アメリアとリーゼは、これから一緒に旅をすることに?
【大切なお願い】
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