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アクトコーナー  作者: 乱 江梨
第一章 学園改革のメソッド
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学園改革のメソッド12

「じゃ、帰ります」

「えっ?……あ、うん。……って私たちも帰るよ」



 まるで何事も無かったかのように靴箱へ踵を返した透巳に、明日歌たちは慌ててついていく。明日歌は歩を進める前に百弥を一瞥したが、真剣な様子の彼の邪魔をしないよう、声をかけることは無かった。



「ほな俺も帰ろかな」

「アンタはついてくんな」



 何故がF組生徒に便乗しようとした薔弥に、明日歌はいつも通りの冷たい声でツッコむ。だがそんな明日歌の声は薔弥の耳にのみ入っていないようで、表情一つ変えず透巳たちについていく。


 校舎から出たことで、透巳たちの身体を西日が照らす。眩しい空から逃げるように視線を下に移した透巳は、校門前にいるある人物の存在に気づく。


 途端、透巳の動きが止まる。透巳が先頭を歩いていたので、後ろにいた明日歌は突然止まった透巳の背中にぶつかってしまう。

 ぶつかった痛みで顔を顰めつつ、透巳の後ろから校門を覗いた明日歌は彼が静止した理由をすぐに理解した。



「あっ!透巳くーん!おかえりぃ!」



 その可愛らしい声を張り上げて大きく手を振った小麦は、他校の制服を着ていることもあって随分と注目を浴びている。猫耳パーカーを着て大声を上げているというだけで、目立つために十分な原因は揃っているのだが。


 透巳は数秒固まった後、すぐに我に返って小麦の元へ走り出した。周りの生徒たちの視線が集まる中、透巳は何の躊躇いもなく小麦に抱きつく。



「あははっ!ねこちゃんがいる……なんで?」

「「…………」」



 蕩ける様な満面の笑みで小麦を捕らえた透巳のせいで、小麦の頬は簡単に熱を持つ。その様子を目の当たりにした明日歌たちは、見慣れない透巳の雰囲気に目を見開く。F組生徒たちは一度小麦に会ったことがあるので透巳のこの変わりようも知っているはずなのだが、それでも衝撃的なものはいつまでも色褪せないのである。



「透巳くん来なかったから今日は私が迎えに来たよ!」

「あぁ、ごめんね。今日は少し大事な用が出来ちゃって」



 小麦が在籍していた書道部が廃部となった後、透巳と小麦は互いの学校の中間地点で待ち合わせてから下校していた。だが今日は透巳がなかなか待ち合わせ場所に来なかったので、小麦が痺れを切らして迎えに来たという訳である。


 

「あっ、皆さんこんにちは!」

「この間ぶりだね、小麦ちゃん」



 眩いほどの笑顔を明日歌たちに向けた小麦。彼女の本来の性格を明日歌たちが目の当たりにするのにはかなりの時間を要するだろう。そもそも小麦が本来の大人しい性格で()()()()()この世で透巳ただ一人なので、当たり前のことではあるのだが。



「じゃあ、俺たちはここで」

「みんなバイバーイ!」



 あまりにもあっさりとした別れだったが、あのラブラブカップルに何かツッコむ程の勇気を持つ者はいなかったようだ。

 明るく手を振る小麦に、明日歌たちは当惑しつつ軽く手を振って返した。それが嬉しかったのか、小麦は一瞬ハッとすると今日一番の笑みを向けてその場を去る。


 そんな小麦の笑みに明日歌たちが気を取られていると、薔弥が突然口を開く。



「なぁ……一件落着って、どういうことやと思う?」

「は、何それ?」



 唐突に訳の分からない質問をしてきた薔弥に全員が首を傾げる。



「透巳くんが言うとったやろ?〝一件落着〟って」

「……あー、確かそんなこと言ってたわね」



『一件落着、かな』



 薔弥に指摘されたことで、明日歌たちはあの時の透巳の言葉を朧気に思い出した。百弥の殺意を消すことに成功した後に放った透巳の一言だが、薔弥が一体それのどこに疑問を感じているのか理解できず明日歌は増々首を傾げる。



「それがどうかしたの?」

「おかしいやろ。一件落着って、何にも落着しとらんっちゅうのに」

「え、でも……」

「確かにあの百弥を止めたっちゅうんは称賛に値するなぁ。けど今回のはただのきっかけにすぎん。百弥がこれからどないな選択をするか。結末はそれからやろ?それにや、明日歌たちが調べとるこの学園の謎はまだ少しも解決しとらん。透巳くんは大して興味ないのかもしれへんけど、わざわざ明日歌たちの前で一件落着なんて言うやろか?透巳くんそんなアホな子や無いやろ?」



 薔弥の疑問に反論しようとした明日歌だが、その前に薔弥に論破されてしまう。だが薔弥の言い分は尤もで、明日歌たちも思わず疑問に思ってしまった。


 確かに今回死人は出なかった上、百弥に自分のことを考えさせる機会を作ることが出来た。だがそれは最初の一歩に過ぎない。百弥のことに限って一件落着と言うのなら、彼が自身の信念について理解できた時が最適だ。


 その上明日歌たちは、透巳が人の価値観や気持ちに敏感だということを承知している。だからこそそんな透巳が、この学園の粛正を目標に奮闘している明日歌たちを前にして、そんな無責任なことを言うだろうか?という疑問が生じてしまったのだ。



「透巳くんの一件って、何なんやろな?」



 だが透巳があの発言を零したのは事実。なので薔弥は、一体透巳が()()()()()一件落着と呟いたのかという疑問を抱いているのだ。


 ********


「透巳くん、今日機嫌良いね」

「ん?俺はねこちゃんがいればいつでも機嫌良いよ?」

「……誤魔化さないで」

「誤魔化されてもいいって気にならなかった?」



 手を繋ぎながら自宅への帰路に就いている透巳と小麦。二人が伸ばす影の距離は近く、まるでそれ自体が一つの影のようである。


 そんな温かい雰囲気を放ちながら、小麦は透巳の顔を覗き込んでそう指摘した。だが透巳は耳障りのいいことを言って素知らぬふりだ。


 揶揄う様に言った透巳に、小麦はプクっと頬を膨らませて恨めし気に恋人を見上げる。透巳の言ったことが図星だったからだ。好きな相手に自分のおかげで機嫌がいいだなんて言われれば、誰だって嬉しいだろう。だが小麦は負けじと尋問を続ける。



「なったけど、それとこれとは話が別だから……何か良いことでもあったの?」

「まぁ、それなりにね。強いて言うなら友達が出来たかな」

「友達?透巳くんに?」



 強いて言えばということは、上機嫌の直接の理由ではないのだろうと小麦は僅かに思考する。だがそれよりも透巳に友人が出来たことが気になったのか、小麦は上機嫌の原因に関して追及することは無かった。

 小麦はゆっくりと目を瞬きさせていて、相当驚いていることが丸分かりである。



「うん。割といい子だと思うよ」

「ふーん……あの人たちは友達じゃないの?」

「明日歌先輩たちのこと?」



 先に知り合った明日歌たちを差し置いて別の友人が出来たことに、小麦は思わず首を傾げる。透巳はあまり友達を作ろうとしないので、何故百弥とは友人になろうと思ったのか小麦は疑問を抱いたのだ。


 透巳が尋ね返すと小麦は静かに首肯する。



「うーん、どうなんだろ?よく分からない」

「分からないの?」

「うん。でも俺明日歌先輩たちのこと結構好きだよ」



 今の発言を明日歌が聞けば泣いて喜ぶだろう。友人というレーベルそのものに執着がない透巳は、明日歌たちが友人だろうがそうで無かろうがどちらでも良いと考えるタイプなので、彼女たちとの関係性を指すものが思いつかなかったようだ。



「でも透巳くんにとってのそういう人たちが増えて嬉しい」

「そう?俺はねこちゃんに友達が増えたら嫉妬でおかしくなるかも」

「もう……私だって嫉妬しないわけじゃないんだからね」



 透巳の気持ちは小麦にとって天に昇るほど嬉しいものだが、自分だってそれ程の好意を透巳に向けていることを忘れられているような錯覚に陥り、彼女は不満気な相好を露わにする。

 だがやはりそれは透巳にとって喜ばしいこと以外の何物でもないので、彼は蕩ける様な笑みで小麦の頭を撫でた。


 随分と糖分過多なやり取りをしつつ、透巳たちは自宅へと帰ったのだった。


 ********


「ヒントやってもええで」

「「ヒント??」」



 百弥の事件から一日後。またしても昼休み時間に多目的教室に集まった昨日の面々。だが昨日と違うのは、明日歌が呼んでもいないのに薔弥がここにいるという点だ。


 来て早々そんなことを言い始めた薔弥に各々が首を傾げる。一体何のヒントかも分からない状態での発言だったからだ。



「俺たちの親父が、何でこないな学園を作り上げたのか。その答えのヒントや」

「どういう風の吹き回し?」



 昨日は全く明日歌の話に聞く耳を持たなかったというのに、急に態度を一変させた薔弥。どんな心境の変化があったのかと、明日歌は怪訝そうな声で尋ねた。



「あの百弥の殺意を消した透巳くんに感謝しとき。昨日のあれがおもろかったから、報酬には十分やったっちゅう訳や」

「……なるほどね…………そういえば今まではどうやってたのよ?」



 透巳はあんなものが報酬になるのかと少々驚いていたが、薔弥を昔から知っている明日歌たちからすればそれ程珍しいことではないようだ。


 ふと、明日歌は昨日のことで疑問を抱き薔弥に尋ねた。昨日は透巳が対処したから良かったものの、百弥のあれは昨日今日始まったことではない。今までの百弥の暴走は一体どうやって対処していたのだろうかと、明日歌は首を傾げる。



「百弥が小学生の頃は俺が一発かませば何とかなったんやが、中坊になってからアイツ力つけてもうて、ひ弱な俺じゃあどうにもならへんかったなぁ」

「じゃあどうやって……」



 小学生の力などたかが知れている。そもそも百弥は透巳と違い、武道の経験もないのだ。そんな子供が年上の薔弥の力に抗う術など無い。だが中学生になると段々と立場が変わって来たのか、薔弥でも止められなくなってきていた。そもそも薔弥は百弥のあれを面白がっている質なので、最初から期待する様な戦力ではないのだ。



「丁度その頃やったなぁ。百弥にとっての最終兵器と出会ったんのも」

「「最終兵器?」」

「ま、百弥のことを手懐けることのできる唯一の存在やと思うてくれてええで」



 あの百弥を手懐けてしまう最終兵器。文字に起こすと異彩を放っているが、透巳は恐らく赤松ささのことだろうと何となしに考える。

 一方の明日歌たちはささに会ったことが無いので、その事実には辿り着いていないようだった。



「ふーん……で、そのヒントって?」



 これ以上問い詰めてもどうせかわされるだろうと思った明日歌は話を元に戻した。薔弥はニヤリと片方の口角を上げると口を開く。



「ヒントは、俺らの母親や」

「……それだけ?」

「あとはお前らでがんばりぃ」



 明日歌の問いにさっさと退室することで答えた薔弥。あまりにも少なすぎるヒントに明日歌たちはため息を漏らす。


 薔弥たちの母親ということは、理事長夫人ということになる。それがどう関係するのかは自分たちで調べろということなのだろう。



「なんか、明日歌先輩って薔弥先輩の前だと性格かなり違いますね」

「明日歌はアイツに苦手意識があるからな。自分のペースを崩されるんだろう」

「なるほど」



 透巳の明日歌に対する第一印象は、自由奔放に尽きた。だが薔弥と対峙する明日歌はいつも警戒心丸出しで、彼の前で笑顔を浮かべたところを透巳は見たことが無かったのだ。


 そんな透巳の疑問を解消してくれたのは、この中で一番明日歌との付き合いが長い遥音だった。



「私の話はいいよぉ。それよりもアイツらの母親って、(みお)先生のことだよね?」

「あれ、知ってるんですか?」



 明日歌の口から固有名詞が出たことで、彼女が薔弥たちの母親について多少の知識があることを透巳は悟り、意外そうに尋ねた。



「うん。確か中等部の国語の先生だったと思うよ」

「へぇ、先生だったんですね」

「うん……私は会ったことないから知識としてしか知らないけど」

「え、会ったことないんですか?」



 初等部からこの学園にいる明日歌が、中等部の国語教師に会ったことが無いという矛盾点に透巳は思わず首を傾げた。



「その人の授業受ける直前に、澪先生自殺しちゃったんだよね」

「つまり……四、五年前ですか?」

「うん。丁度この学園がおかしくなる少し前ぐらいなんだよね」



 〝自殺〟という単語で一瞬顔を顰め、ピクリと反応した透巳。授業を受ける直前ということは、明日歌たちが中学一年生になったばかりか、小学生を卒業する頃なので透巳は年月を確認した。



「つまり薔弥先輩が澪先生のことをヒントにしたのは間違いじゃないってことですか」

「うーん。でもさ、おかしいんだよね」

「何がですか?」



 薔弥たちの母親が自殺した後にこの学園の様子が変わったということは、彼女の死こそが全ての原因の可能性がある。だからこそ薔弥はそれをヒントにしたということだ。


 だが明日歌には引っ掛かる点があるのか、難しい表情で顎をつかむ。



「その澪先生の自殺理由……生徒からの苛めが原因なんだよね」



 明日歌から聞かされた事実に透巳は少々目を見開いた。だが同時に、明日歌がおかしいと称した理由を透巳は少しも理解できないのだった。




 次は明日更新予定です。


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