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13.式典

 小柴百貨店は、今年開業三年目を迎え、今日は祝いの式典が行われる。

 前回視たダイヤモンドは、そこで発表されるもので、招待状を受け取った私も出席することになっていた。


 式典用の着物は、お祝いの意味も込めて濃藍(こいあい)色の生地に鶴の文様をあしらったもの。

 あまり派手にならないように気をつけた。


「緊張するね」


 百貨店を見上げた大樹様は、緊張気味に自分の首をさすっている。式典には婚約者をぜひ連れてきてと小柴様から言われてしまった。

 大樹様に相談したところ、一緒に行くと答えてくれたので、同伴してもらっている。


「大丈夫ですか?」

「ああ。あまりこういう華やかな世界とは無縁だからね」


 霊術師は、あまり公の場に参加することはない。もちろん私もそれは同じだ。

 今回は、小柴様にどうしてもと頼まれたことと、かなり大規模な式典で出席者も多いから、目立たず問題もないだろうと出席を決めた。


 百貨店の最上階にある催事場で式典が行われる。

 招待された人のみが参加できるもので、そこそこの著名人が集まるようだ。


 会場に到着した後、まずは小柴様に挨拶をしようとさがし始める。グラスを持った招待客とぶつからないように気をつけなければならないほど、人が多い。

 やっと彼女を見つけた時には、少し疲れてしまった。


「まあまあ、犬塚さん!ようこそいらっしゃいました」


 フリルがたくさん付いた深紅(しんく)のドレスを身にまとった彼女は、この会場で一番目立っている。


「小柴様、本日はご招待ありがとうございます」


 頭を下げると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「今回の式典の成功は犬塚さんのおかげですもの。今日は楽しんでくださいね」

「ありがとうございます」


 小柴様は目ざとく大樹様に気がついたようで、ニンマリと笑みを浮かべた。


「あらあら、この方が犬塚さんの婚約者さん?」

「初めまして、久龍 大樹と申します」

「初めまして。小柴 響子と申します」


 彼女は近づくと、私の耳元でささやいた。


「すてきな婚約者さんねぇ」

「ありがとうございます」

「ふふ、赤津様さんに言い寄られても、そっけなくしている理由が分かったわ」


 大樹様に聞こえないように配慮してくれたのには感謝するが、全く困ったご婦人である。

 安堵したのもつかの間、彼女に腕を取られた。


「さあさあ、こちらですよ」

「あ、あの?」


 引っ張られるように連れて行かれた先は、会場の中央に展示されていた真っ白なドレスのもとだった。


 ドレスのスカート部分は、とても繊細な細工が施されたレースが幾重にも重なっている。

 一瞬で目を惹く美しさに、私も目を奪われた。


「これが西の外つ国の花嫁衣装なんですのよ。それからこっちに入ってるのが、ダイヤモンド!」


 ドレスの隣に置いてあるショーケースには、キラキラと光るダイヤモンドの指輪やネックレスなどが展示されていた。


「綺麗……」


 その美しさに私はため息をもらす。

 以前、小柴様を視た時にどんなものかわかったが、実物はその何倍も輝いている。まるで夜空の星のようだ。


「お気に召しましたか?」

「申し訳ございません。つい見とれて……」

「ふふ、お気持ちは分かりますわ」


 彼女はショーケースをサッとなでた。


「お客様もとても興味深く見てくださっているんです。

 お買い上げを考えている方々もいっしゃいますわ」

「そうなんですね」

「ええ。それもこれも犬塚さんのおかげです」


 こういう仕事は自分としても嬉しいし満足できる。役に立てたと感じるし、罪悪感もない。


「とても綺麗だね」


 横から大樹様がショーケースを覗き込んでいる。


「はい」

「私達の結婚式もウェディングドレスにするかい?」

「え?」


 思いもよらない提案に私は目を瞬かせた。


「あら、いいお話ね!!その時はうちに準備させてほしいわ」


 提案に乗っかった小柴様は、興奮気味にドレスや装飾品の話をしている。

 それをボンヤリと見つめる私は、ひとごとのように感じていた。


 結婚式……私は大樹様と結婚をする。

 結婚、婚約者、そう言葉にしていたにもかかわらず、現実が目の前に広がると、途端にそれが夢のようになる。

 純白のドレスを着た花嫁になれるほど、自分は立派な人間なのだろうか?


 小柴様への挨拶も済んだので、後は好きにさせてもらうことにした。

 大樹様と軽く食べ物をつまみながら、式典の様子を眺める。


 多くの人がウエディングドレスとダイヤモンドの装飾品に注目している。今後どんどん流行っていくのだろう。


 グラスを片手に他にも視線をさまよわせていると、ある人物と目が合った。かなり気まずい相手である。

 彼は私に気がつくと笑みを浮かべて近づいてきた。


「やあ、天音さん。今日もすてきなお召し物ですね。美しいあなたにとてもよく似合っています」


 余計な言葉とともに話しかけてきたのは、他でもない赤津 俊人だ。


「ありがとうございます」


 当たり障りのない返事をしたが、大樹様に気付かれないように彼を睨む。

 しかし、全く気にした様子もなく大樹様にまで声を掛け始めた。


「ああ、お久しぶりです。久龍さん」

「お久しぶりです。赤津さん」


 大樹様も普通に対応しているが、私はいたたまれない気持ちになる。おかしい。私はなにも悪いことはしていないのに。

 全部、赤津様のせいだ。


 二人は笑顔で会話をしているが、もうやめて欲しい。


「天音さんにはいつもお世話になっております。こんなすばらしい婚約者がいるだなんて、久龍さんは幸せ者ですね」

「こちらこそ、天音がいつもお世話になっております。そうですね、私にはもったいないほどの婚約者ですよ」

「ご謙遜(けんそん)を。久龍さんのお噂はよく聞きしますよ。素晴らしい人格者だと」

「いえいえ、私など、ただの若輩者です」


 二人は普通に会話しているだけなのに、空気が重い。後ろめたさのせいでそんな風に感じてしまうのだろうか?

 誰かこの空気をなんとかして欲しい。

 そう願っていた私の耳に、とても懐かしい声が届いた。


「赤津さん、こんなところにいらっしゃったんですね」


 小鳥がさえずるような可愛らしい声、天音と優しく呼んでくれた彼女の声によく似ていた。

 そして、大樹様の小さな呟きが聞こえる。


「琴音……?」


 一瞬、息が止まった。

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