陸の王者が本気出す
この世界に干渉しないと私とジョナサンの物語は進まない。
まあ、ストーリーとしてはよくできているわよね。すごいね私の夢。
それじゃあ、具体的にこの世界にどう干渉していくのか。
「これはちゃんとしておかないとね」
「セラフィのためでもありますから」
私とジョナサンは、ピーナッツバターサンドイッチでおなかがいっぱいになったのか、うとうととまどろんでいるセラフィを運転席に乗せたまま、ゆっくりと走り出したんだ。
セラフィと出会った場所に向かって。
少しの後、目を覚ましたセラフィも、どうやら私たちの目的に気が付いた様子。
でも、セラフィはサイドガラスから外を眺めながら押し黙ったまま。
「あのね、セラフィ……」
「モモちゃん、ジョナサン……」
私とセラフィは同時に互いに対して声をかけた。
「モモちゃん、タオルもらってもいい?」
「ええ、好きなだけ使いなさい」
私はクレーンの先に『掘削装置』を取り付け、セラフィが指さしたところにグラブバケットを使って土を掴み上げ、ゆっくりと穴を掘っていく。
その間、セラフィは焼けた脂質と蛋白質の塊を数え、その違いを見つけ、それぞれの焼けてないところをタオルでそっと拭ってやっている。
それぞれの名前を呼びながら。
私もジョナサンも見たんだ。
最初はその惨状に嘔吐しそうになり、涙を浮かべたセラフィを。
その後、それを飲み込み、歯をかみしめ、ゆっくりと焦げた物体たちの横にひざまずいたセラフィを。
無言で涙を流しながら、かつては家族であったであろうそれらを拭うセラフィを。
「酷だとも思いましたけれど、モモちゃんの言うとおりにしてよかったですね」
「結果オーライよ。畜生……」
セラフィの家族たちを埋葬した後、彼は焼け跡から何かを持ち出してきた。
「モモちゃんとジョナサンにお礼をしなきゃ」
無理してこしらえた笑顔を伴いながら。
一方、私たちもその間に別のことに気付いていた。
焼けた死体が綺麗すぎる。
それらはまるで何の抵抗もしなかったかのように焼かれている。
それにセラフィが簡単に財産を見つけてきた。
それはその前に誰もそれらに手を付けていないということ。
そこから導かれる結論はシンプルなもの。
セラフィの家族たちは、殺されてから焼かれた。
少なくとも彼らの財産目的以外の理由で。
多分、賊の狙いは……。
「セラフィ、そこで寝るといいわ」
すっかりセラフィの定位置となった運転席の後ろにあるベッドを、私はセラフィに勧めてあげる。
人間は身体を伸ばして寝るのが一番。エコノミー症候群とかも怖いしね。
「いいの?」
「いいわよ」
「どうぞ」
私の返事にジョナサンも返事を重ねる。
「ありがと」
そうけなげに私達にお礼を言うと、セラフィはベッドに横たわった。
が、セラフィは落ち着かない様子。私の枕に顔をうずめてしまっている。
「どうしたの、セラフィ?」
……。
「あのね、お母さんの匂いがする」
そう……。
しばらくの後、やっと落ち着いたのであろう。
セラフィは眠りについた。
「ねえジョナサン」
「なんですかモモちゃん」
「私達、なんでここにいるんだろ?」
「それを言うなら、なんで私、こんなに自律して発言しているんでしょう?」
「不思議だよね」
「不思議ですね」
……。
「ねえジョナサン」
「なんですかモモちゃん」
「私はこの世界が夢だと思っているんだけれどさ」
「それはよござんした。現実逃避って大事ですものね」
やけに突っかかってくるわね。
「でね」
「なんですか?」
「どうせ夢なら、セラフィに付き合ってもいいんじゃないかと思っちゃったんだけれどさ」
「夢じゃなくても、お付き合いしてよろしいんじゃないですか?」
「じゃ、夜が明けたらセラフィの考えを聞こう」
「アホですか」
「なんで?」
「幼い少年を自分と同じ土俵に乗せようだなんて、情けないと思いませんか?」
あ。
「アホなりに気が付きましたか?」
うん。
「ならば、明日はひとっ走りですね」
そうだね。セラフィが嫌がらない限りはね。
そう、セラフィに決めさせるんじゃない、セラフィに選ばせてあげよう。それが大人として最低限の義務だよね。
私達がいくつかの選択肢を生み出してやればいいんだ。セラフィにとっての。
その晩、私達。
というか、私の身体は突然の攻撃に晒された。
私の身体は雷に打たれ、炎に焼かれ、水に包まれ、風に嬲られた。
続けて矢や槌や剣や火薬が襲ってくる。
「モモちゃん、覚悟はできていますか?」
「大丈夫よジョナサン。セラフィのあんな姿を見ちゃったんだもの」
私と私の愛車は「もらい事故でも事故は事故」を矜持としてきた。
これまでは誰も傷つけないようにと大人の心を持って走ってきた。
でも、この世界ではそれを捨てよう。
ベッドで安らかに眠るセラフィを狙う賊が、今ここにいるのだから。
私はセラフィを起こさぬよう十分に注意しながら、最も効率的なコースをたどり、賊をフロントグリルによって砕き、タイヤによって巻き込み潰していった。
かつて運転講習時に聞かされ恐怖を抱いた音。
肉がつぶれ骨が砕け空気が抜けるように叫ぶ音。
私はそんな音が止むまで、私の身体を回転させるように走らせていった。
辺りが静寂に包まれた中、ジョナサンの声が無機質に響く。
「レベルが上がりました」
ジョナサン、その結果はこの場を片づけてから聞くことにするわ。
この場をきれいに片づけてからね……。




