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ショタ最強

 私の体内で幼い美少年がころけている。


 ……。


 言葉にすると、なんとも淫猥いんわいなことよ。


 もう一度繰り返してみようかしら。


 私の、体内で、幼い、美少年が、ころけて、いる。


 ああん……。


「あの、お楽しみのところ恐縮ですが、ちょっとよろしいでしょうか……」

 はい、なんでしょうジョナサン。

「モモちゃん、先ほどセラフィに、タオルがどうだとか、偉そうなことをおっしゃっていましたよね?」


 ……。


 そうでした。

 

 どおりで私の質問に答えられず、恥ずかしそうに助手席のシートに丸まっていると思ったわ。

 えーと、どこだったかしら。と、ああ、ここね。

 

「セラフィ、聞こえる?」

「……。うん」


「さっきの質問はとりあえず横に置いておいて、シートの後ろを覗いてみてくれる?」

「シート?」

「椅子のことよ」


 すると観念したかのように、セラフィは濡れた下半身を隠すかのようにしながら、シートの後ろを覗き込んだ。

 そこには簡易ベッドが備え付けてある。まあ、ベッドといっても幅はほとんどない、長さだけが立派な代物だけれどね。


「そこに袋が置いてあるの、わかるかな?」

「……。うん」

「そしたらそれを開けてごらん」


 袋の中身は私のお泊りセット。

 今はお風呂とかシャワーが設置されているサービスエリアもあるので、こうして着替えや洗面道具をまとめておいている。


「タオルはわかるかな?」

 私の声に素直に従うセラフィは、お泊りセットからタオルを一枚引きずり出したんだ。

 すると、私のTシャツも顔を出した。


 セラフィの身なりは生成りの穴あき布を頭からかぶって腰を紐で巻いたものだけ。ちなみに下着の様子までは見えない。


「そしたらセラフィ、身体をタオルで拭いてから、出てきた白い布を頭からかぶってごらん」

「わかった……」


 さすがに大きいけれど、これは仕方がないわね。

 セラフィが私のTシャツをかぶると、まるで女の子がワンピースを着ているみたい。

 あらやだ、可愛いわね。


 などと、私が興奮している間にもセラフィは濡れた服とシートを拭いたタオルの置き場に困っている。

 そっか、濡れたシートは気持ち悪いよね


「セラフィ、洗濯は知っている?」

「知ってる」

「なら、後で洗濯をしに行きましょう。とりあえず気持ち悪いだろうから、濡れたタオルと服はそこにおいて、隣のシートに移りなさい」

「となり?」

「こちらですよセラフィ」

 私の声に合わせるようにジョナサンがナビ画面に右矢印を示して見せてくれる。


 が、いまいちびびっているセラフィ。

 

「あー、真ん中の荷物の山は乗り越えていいわよ」

 私の言葉にセルフィは頷いてから、仕事用具を山積みしてあるセンターコンソールを、注意深く乗り越えていったんだ。


「ほっ……」


 運転席のシートで、明らかにセラフィがリラックスしたのがわかる。

 それはそうよね。

 長距離を運転する車両の運転席はまさにリラックススペース。人間工学をこれでもかと駆使したコックピットだもの。


 そろそろ大丈夫かな。

「それじゃセラフィ……」


 すると、セラフィに語り掛けようとする私の言葉をジョナサンが遮った。

「まずは我々からの話をしてあげなければ、セラフィも心を開いてくださらないと思いますよ。不躾ぶしつけなモモちゃん」


 ……。


 むかつくけれどジョナサンの言うとおりよね。

 私は深呼吸をしてから、セラフィにもう一度語り掛けた。


「それじゃ、まず私たちのことから話すね」


「じゃあ、モモちゃんとジョナサンは違う世界からやってきたの?」

 どうやら私の与太話にセラフィはうまい具合に引っかかってくれたみたい。

 

「そうなの。でさ、気づいたら黒煙が見えたから、慌ててここまで来たの」

 私が何気なく発した『黒煙』という響きに、セラフィは一瞬身を硬直させてしまう。


 が、先に私達の話を聞いたからであろう。セラフィは言葉を続けたんだ。

 

「あのね、いきなり何かが襲ってきたの。お父さんたちは戦い始めたの。お母さんとおばさんがボクに『あなたはここに隠れていなさい』と言って、地下室にボクを隠したの。あとはわからないの。何も聞こえなくなっちゃったの……。何も見えなくなっちゃったの……」


 ここまでが限界。


 こんな話、ここまでしか聞けない。

 涙に身体を丸めてしまうセラフィの姿を見てられない。


 どうやらジョナサンも同じ想いのよう。

「わかりました。セラフィ、それじゃ、三人でこれからどうするか考えましょう。でもその前にやることがありますよね?」

 すると、気丈なことに、涙をこらえながらもセルフィがおもてを上げた。 

「やること?」

 ふふ。そうよ、まずはやることがあるよね。

 可愛らしい音を静かにさせなきゃね。


 私はセラフィに、センターコンソールを片づけさせ、そこにあるふたを開けさせたんだ。

 

「『腹が減っては戦ができぬ』って私の世界では言うのさ」

 私の言葉に不思議そうな表情を見せるセラフィ。


 私がセラフィに開けさせたのは車載温冷蔵庫の蓋。

 

「好きなのを食べていいわよ。おなかがすいているのでしょ?」

 そう、静かにさせるのはセラフィのおなかから響く、『ぐう』という音。

 

「好きなの?」

 セラフィは袋のひとつをおずおずと持ち上げた。

「これってどうすればいいの?」

 ほら、ジョナサンの出番だよ。


 セラフィはその後、ジョナサンがナビ画面に表示するガイダンスに従って、私が冷やしておいたピーナッツバターサンドイッチを袋から取り出し、恐る恐る口に運ぶ。


「おいしい!」


 最初は驚き、続けて必死の形相で、最後はとても幸せそうな表情を浮かべながら、セラフィは可愛らしくサンドイッチを頬張ったんだ。


 そんな姿を眺めながら、ふと私は疑問に思った。

 私は全くおなかがすいていない。

 

 それに、燃料も減る気配がない。というか、窒素酸化物燃焼触媒装置なんかは既に動いてもいないようだけれど。

 するとジョナサンが不思議そうにつぶやいた。


「あれ、モモちゃんは何も覚えていないのですか?」

「覚えていないって何を?」

「神様から授かったことですけれど」


 ……。


 なによそれ。

 初耳なんですけれど。


「いやいや、私の記憶媒体に記録されているということは、モモちゃんも確かに聞いているはずですよ?」

「なんで?」


 するとジョナサンが私に答える前に、ピーナッツバターサンドイッチですっかり満足し、心が打ち解けたのであろうか、セラフィが横から私達に聞いてきた。

 

「ねえ、モモちゃんとジョナサンってお友達なの?」


 なんだろね?

 と、新たな質問に困った私を差し置いて、ジョナサンが自慢げに答えやがった。


「私はモモちゃんの『記憶デバイス』でもあります。つまり、私はモモちゃんの一部なのです」


 そうなの?


「そうですよ、って、今まで気づいていなかったのですか?」


 いやさっぱり。


 するとジョナサンは生意気にもため息をついて見せた。


「私の記憶領域にはいくつものプロテクトがかけられているのです。それを解除するのはモモちゃんだと思っていたのですが……。ちっ」


 お前、最後の舌打ちが聞こえたよ。


 というか、じゃあなんでレベルが上がっただの、なんやからが解放されたのだと口走ったの君は?


 と、モニター上に「あっ」という表情を浮かべたカモメの表情が浮かんだんだ。


「そういえばそうですね。あれって無意識ですよ。もしかしたら、モモちゃんはレベルを上げることによって記憶が解放されるようにいじくられたのかもしれませんね!」


 なんだよそのロールプレイング主人公設定は。


 横でぽかんとしているセラフィ。


 つまり、記憶を取り戻すにはこの世界に干渉しなければならないということね……。

「そういうことでしょうね」


 そう、わかったわ。


 ちなみにジョナサンのイメージキャラクターがカモメだということもわかった。

 とりあえず今日はこれが収穫だったということにしよう。


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