これってチートよね?
この世界の朝は何という気持ちの良さなのだろう。
私を包む空気は、かつて山岳地域のサービスエリアで迎えた朝の、冷やりと心地よい大気を思い出させる。
「モモちゃん、修復完了ですよ」
「ええ、ありがとう」
「それから、昨日食らった攻撃とレベル上昇によって、いくつかのスキルが解放されていますよ」
「そっか。それじゃセラフィが目覚める間にチェックしておきましょう」
続けてこれまではカモメのキャラクターが映っていたモニターに文字の羅列が映し出される。
まずは戦闘によるスキル解放。
『打撃無効』
『剣撃無効』
『槍撃無効』
『弓撃無効』
『爆撃無効』
『雷撃無効』
『火炎無効』
『水没無効』
『風撃無効』
どうも一度食らった攻撃は二度と通用しなくなるみたいね、私って。
微妙に魔法攻撃らしいのが混じっているけれど、細かいことは気にしないようにしようっと。
続けてレベルアップによるスキル開放
『台車成型追加』
『衝角生成』
なんでしょこのスキルは?
「『シャーシモールド』は、モモちゃんが思い描く『被牽引車両』を一種類データ登録できるスキルです。レベルが上がるごとに登録できる台数が増えるみたいですね」
へえ、それはいいわね。なんといってもトレーラーを牽引してこそのトラクタヘッドだものね。
「『ラムチャージ』はその名のとおり、バンパー部に体当たり用の『衝角』を生成するスキルです」
そりゃまた物騒なスキルだわね。組事務所にダンプ特攻どころの騒ぎじゃないわ。
「それから記憶領域の一部が解放されましたので、それについて説明しますね」
ええ、お願い。
解放された記憶によると、どうやら私の身体は特別な元素で構成されているらしい。
先ほどジョナサンが報告してくれた『修復』はこの元素に由来するんだって。
つまり、攻撃を食らって身体が損壊したとしても、それらは時間経過によって自動修復するということ。
この元素は二つの挙動を見せる。
ひとつは、修復のように、一旦再生部分をこの元素が満たし、そこから適切な分子構造に変化し定着するというもの。
もう一つはクレーン生成や今回入手したスキル『シャーシモールド』で見せる挙動。
これらの場合はこの元素のままで構成されるため、生成と分解が可能なのだという。
特筆すべきは、車内装備も一定時間で再生されるということ。
驚くことに、昨日セラフィが食べたピーナッツバターサンドのような食事も一定時間で再生されるらしい。
ただ、元が残っている間は再生は始まらない。
つまり今、温冷蔵庫の中にピーナッツバターサンドが再生しているということは、セラフィが、食べたピーナッツサンドを無事消化吸収したということを示している。
それは在庫を増やすことはできないということ。
まあいいわ。
どうせ私、食事不要だし。
私の燃料は特別な元素をエネルギー変換することにより生み出されるそうなんだ。
ちなみにオイル系統などもすべてそう。
これはメンテナンス業者殺しよね。
って、この世界に車両の修理屋さんなんかいないのだろうけれどさ。
今のところジョナサンの記憶が解放されたのはこの程度。
なぜ私がこの世界に転生したのかという理由はまだわからない。
昨日私を、いや、多分セラフィを襲った賊の目的もよくわからない。
皆殺しにしちゃったし。
それに、あいつらの死体を探ろうとしたところ、ほとんどの死体がしばらくの後に塵のように消えていってしまったから。
様々な色の小さな宝石のようなものを一つずつ残して。
一体だけ残った死体も、何かの情報になるようなものは何も身につけていなかった。
お財布のようなものはあったけれどね。
こいつは身ぐるみ剥いで、適当に埋めておいたのさ。
あら、目覚めたようね。
車内後部にセットされたベッドの上で、セラフィが可愛く伸びをした。
幼い少年の身体には、この車載ベッドも結構大きく見える。
「モモちゃん、ジョナサン?」
不安そうに起きだしたセラフィに、私たちはそれぞれの姿をモニターに順番に移しながら挨拶をしてあげる。
まずは私の姿で。
「おはよう、セラフィ」
すると一瞬で不安が掻き消えたようにセラフィが笑顔を浮かべた。
「おはよう、モモちゃん!」
続けてカモメのキャラクターが画面に映る。
「おはようございます。セラフィ」
「ジョナサンもおはよう!」
うん。すっかりなじんだようね。
しっかし可愛いなあ。
白いTシャツはセラフィの両肘までを覆い、そのかわり首元は大きく開いている。
そんな姿で、優しい銀色の髪をなびかせながら、蒼い瞳で可愛らしく微笑みかけてくるのよ!
ああたまらないわ!
もう! こんなのショタ属性じゃなくてもショタ大爆走に決まっているでしょ!
「落ち着いて下さい変態さん」
誰が変態さんよ!
って、ええ、ちょっと興奮しすぎたわねジョナサン。
セラフィは布の底に何かを張ったような簡単なサンダルを履いている。
これはもっとちゃんとしたのをプレゼントしてあげたいなあ。
それじゃ、朝食としましょう。
「セラフィ、また温冷庫から好きなの選びさい。栄養が偏るといけないから、ピーナッツバターサンドは選んじゃダメよ」
セラフィはベッドから運転席にぽすんと腰を落ち着けると、昨日と同じように温冷庫から、いつの間にか復活しているピーナッツバターサンドを不思議そうに眺めながら、今度は焼きカレーパンを取り出したんだ。
ほう、お目が高いねえ。それは冷やしても美味しい特製カレールー入りの逸品なのよ。
でもこのパンはセラフィにはちょっと辛いかも。
「横の透明なボトルに水が入っているから、それも飲みなさい」
「ボトル?」
はい、出番ですよジョナサン先生。
「これはこうやって開けるのですよ」
ジョナサンはモニターにペットボトルを映し出すと、キャップの外し方を図解入りでセラフィに解説してあげたんだ。
「辛い!でも美味しい!」
テレビの雛壇芸人あたりがコメントしやがったら、むかついてテレビを叩き壊したくなる衝動に駆られるような陳腐なセリフも、セラフィが美味しそうに呟くと、可愛さ百倍。
私とジョナサンは、セラフィが朝食を終えるのを待ってから、昨晩二人で決めたことをセラフィに伝えたんだ。
「セラフィ」
「なあに?」
セラフィがモニターをまっすぐに見つめてくる。
「私達はなぜこの世界に来たのかわからない。でもね、キミとこうして知り合うことができた」
「前置きが長いですよモモちゃん」
うるさいわね。
私だって緊張しているのよ。
セラフィもそんな緊張した表情を私達に見せないでよ。
「だからね、私達はキミと一緒に行動させてもらいたいの。キミにこの世界について教えてもらいたいんだ。いいかな?」
一瞬不思議そうな表情を見せるセラフィ。
続いて、その表情が柔らかく崩れていく。
うえ! 泣くな! 泣くなよセラフィ!
「いいの? 一緒にいてもらっていいの?」
「違う、私達がキミと一緒にいたいんだ」
その後しばらく私達は、モニターに抱きついて泣いているセラフィが落ち着くのを待ったんだ。




