第96話「確かめられた資質、選びとる代償」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、3話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
アプレイザルの窓口に、六人分の気配が、並んだ。
「エアで、色々ありまして」
カインが、順を追って、これまでの経緯を、説明していく。
十二の牙、新しい得物、ノリアの杖、そして、帰り道の襲撃。
鑑定士は、時折、頷きながら、静かに、聞き入っていた。
「新しい武器を、まとめて試された、初日に、それだけの出来事とは」
鑑定士が、記録紙に、何かを、書き留めながら、言う。
「濃い一日でした」
ミラが、苦笑した。
「怪我人は、今は」
鑑定士が、心配そうに、聞く。
「もう、大丈夫。あの後、しっかり、休みました」
ノリアが、答えた。
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「まず、ノリアさんの、状態から、確認しましょうか」
鑑定士が、記録紙を、机に、広げる。
「レベル、16。変わっていません」
「変わって、ない……」
ノリアが、自分の手のひらを、見つめる。
「各階梯の、使用回数も、確認します」
しばらくして、鑑定士が、顔を上げた。
「こちらも、変化なし。すべて、以前のままです」
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「杖の力、解放したのに?」
ダダが、身を乗り出す。
「はい。数字の上では、何も、動いていません」
鑑定士が、静かに、答えた。
「じゃあ、あの光は、何だったんだ」
カインが、聞く。
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「一つ、考えられることが、あります」
鑑定士が、記録紙を、指で、なぞりながら、続ける。
「ノリアさんの階梯の伸び方、以前から、少し、独特でした」
「独特、って」
ノリアが、聞き返す。
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「本来なら、魔術師は、階梯ごとに、ある程度、決まった順序で、伸びていくものです。ですが、ノリアさんの記録は、その並びに、いくつか、ばらつきがありました」
鑑定士が、続ける。
「もしかすると、ノリアさんは、もともと、魔術師ではなく、魔道師だったのでは、と思います」
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「もともと……魔道師?」
ノリアが、目を、見開く。
「そう考えると、これまでの、ばらつきにも、説明がつきます。魔術師の型に当てはめようとしていたから、伸び方が、少しいびつに見えていた」
鑑定士が、静かに、言う。
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「じゃあ、杖の力を、解放したことで、何が」
ミラが、聞く。
「変わったのは、数字ではなく、認識だと、思います」
鑑定士が、答えた。
「もともと、魔道師だった自分が、ようやく、そう名乗れるように、確定した。そういうことでは、ないでしょうか」
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「数字は、変わらないけど、確定した……」
ノリアが、その言葉を、繰り返す。
「それだけでも、大きな一歩でござろう」
ワングが、静かに、頷いた。
「うん。なんとなく、しっくりくる」
ノリアが、小さく、頷いた。
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「続いて、そちらの、短剣とプレートですね」
鑑定士が、ミラの持つ短剣に、目を、向ける。
「プレート、こちらで、読めますか」
カインが、金色のプレートを、差し出す。
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鑑定士が、プレートを、しばらく、見つめる。
「……申し訳ありません。こちらでは、読み取れません」
「やっぱり」
カインが、小さく、息を吐く。
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「試しに、ミラさん、もう一度、見てもらえますか」
鑑定士が、促す。
ミラが、プレートを、受け取り、視線を、落とす。
その表情が、静かに、変わった。
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「……読める」
ミラが、小さく、呟く。
「読める、って、本当か」
ダダが、覗き込む。
「文字が、浮かび上がってくる、みたいな感じ」
ミラが、プレートを、じっと、見つめたまま、続けた。
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「なんて、書いてある」
カインが、聞く。
ミラが、ゆっくりと、読み上げる。
「『其方が、さらに力を望むなら、剣の力を、開放するが良い。ただし、それなりの、見返りは求められる』」
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その場に、しばらく、沈黙が、落ちた。
「見返り、ですか」
鑑定士が、静かに、口を開く。
「先ほどの、ノリアさんの件ですが」
「はい」
「レベルも、使用回数も、まったく変わらないまま、というのは、実は、かなり珍しいことです」
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「珍しい……」
ミラが、繰り返す。
「これまでの記録では、転職や、力の開放には、多くの場合、何らかの変化――特に、レベルの低下が、伴うことが、知られています」
鑑定士が、続けた。
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「ノリアさんの場合は、もともと、魔道師だった自覚が、確定しただけだったので、変化がなかった、と考えられます。ですが、ミラさんの場合は」
「私の、場合は」
ミラが、身構える。
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「短剣の、来歴を、お伝えします」
鑑定士が、記録紙を、めくる。
「以前、お伝えした通り、この短剣は、『聖アリアの剣』。かつて、ロードであったアリアが、持っていたとされる品です」
「はい」
「ですが、記録をさらに、辿ると、アリアは、最初から、ロードだったわけではないようです」
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「最初は、違う……?」
カインが、聞く。
「聖騎士。まず、そこから、始まったと、記録にあります」
鑑定士が、答えた。
「聖騎士が、君主――ロードへと至った、という道筋です」
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「聖騎士から、ロード」
ミラが、静かに、繰り返す。
「聖騎士も、ロードも、いずれも、ノストス系の魔法を使える上、その威力は、専任の僧侶と、同等の水準に、達すると言われています」
鑑定士が、続けた。
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「じゃあ、悪い話じゃ、ないんじゃ」
ダダが、聞く。
「戦闘力も、回復力も、両方、伸びる、ってことだよな」
「はい。ただ」
鑑定士が、少し、間を置く。
「型としては、侍や、万能士のような、特殊職に、近いものになります。専任の僧侶ほどの伸びやすさは、望めません」
「侍と、同じ、系統か」
ワングが、静かに、呟く。
「拙者の、歩みが、参考になるやもしれぬでござるな」
「そうした、力と役割を、大きく広げる転職では、レベルが、下がる可能性が、高いと、記録にあります」
鑑定士が、続けた。
「目安としては、おおよそ、半分ほどまで、下がった例が、多いようです」
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「下がる……」
ノリアが、小さく、呟いた。
先ほどの、自分の場合との違いに、気づいたのだろう。
「私の場合は、変わらなかったけど、ミラの場合は」
「同じとは、限らない、ってことか」
カインが、静かに、続けた。
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「決めるのは、ミラさん自身です」
鑑定士が、静かに、言う。
「今すぐでなくても、構いません」
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ミラは、しばらく、短剣を、見つめていた。
「聖騎士も、ロードも」
ミラが、ゆっくりと、口を開く。
「回復も、戦うことも、両方、できる、ってことだよね」
「そうなります」
鑑定士が、頷いた。
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「今までは、後ろで、支えることしか、できなかった」
ミラが、皆を、見回す。
「レベルが、下がっても、その先で、もっと、皆の力になれるなら」
「無理は、しなくていい」
カインが、静かに、言う。
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「無理じゃない。これは、私が、選びたいこと」
ミラが、短剣の柄に、そっと、手をかけた。
その目に、迷いは、もう、残っていなかった。
「力を、開放する」
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短剣が、静かに、淡い光を、帯び始めた。
光は、ミラの手を、包み、腕を、伝い、体全体へと、広がっていく。
「ミラ!」
カインが、思わず、声を、上げる。
「大丈夫……たぶん」
ミラが、目を、閉じたまま、答えた。
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光が、ゆっくりと、収まっていく。
ミラは、その場に、静かに、立っていた。
何が、どう変わったのか、その場にいる誰にも、まだ、わからなかった。
「ミラ、大丈夫か」
ダダが、恐る恐る、声をかける。
「大丈夫。ただ……」
ミラが、自分の手のひらを、見つめながら、静かに、答えた。
「何かが、確かに、変わった気が、する」
「レベル、確認、できますか」
カインが、鑑定士に、聞く。
「今、確認します」
鑑定士が、水晶に、手をかざす。
しばらくして、静かに、口を、開いた。
「レベル、9。以前の、半分ほどまで、下がっています」
鑑定士が、続けて、記録紙に、目を、落とす。
「そして、職業についても、記録が、更新されています。『ロード』――君主です」
「ロード……」
ミラが、静かに、その名を、繰り返す。
聖騎士を、経ることなく、直接、その先へと、至ったらしかった。
その言葉に、ミラが、小さく、息を、吐いた。
「半分、か……思ったより、ずっと、大きいな」
ダダが、低く、呟く。
「わかってたこと」
ミラが、静かに、答える。
「ここからだよ」
「拙者たちも、支えるでござる」
ワングが、静かに、言った。
「うん」
ミラが、頷いた。
その顔には、迷いよりも、確かな覚悟が、浮かんでいた。
いかがでしょうか?
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