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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第二部 迷宮エア編 一層

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第95話「解き放つ力、囁きかける刃」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

エアの門をくぐる六人の手には、これまでと違う得物が、それぞれ、握られていた。


「氷姫、持つの、今日が初めてでござるな」


ワングが、鞘の上から、刀身を、そっと撫でる。


「爪の方も、まだ、慣れてない」


ネリスが、指を、何度か、開いたり閉じたりする。


「杖、重くはないけど、なんだか、落ち着かない」


ノリアが、細身の杖を、両手で、抱え直した。


「短剣は、誰が」


カインが、聞く。


「私が、持っておく」


ミラが、腰に、短剣を、下げながら、答えた。


「使う予定は、ないけど、持ち歩くだけなら」


---


しばらく進むと、ネリスの耳が、ぴくりと、動いた。


「来る。あの気配」


「十二の牙、か」


カインが、剣の柄に、手を、かける。


赤黒い毛並みが、通路の奥に、姿を、現す。


六つの頭が、十二の頭に、変わる、おなじみの敵だった。


---


「型、いつも通りで」


カインが、短く、告げる。


「今日は、新しい得物、試すいい機会でござるな」


ワングが、静かに、刀を、抜いた。


---


「拙者から、いくでござる」


ワングが、地を、蹴る。


並んだ二頭の懐へ、一気に、間合いを詰めた。


「はあっ!」


刀が、二つの首を、同時に、薙ぐ。


一気に、二頭というか、四つの頭が消し飛んだ。


---


刃が、走った瞬間、細かな氷の粒が、あたりに、舞った。


四つの首、二つが二組、凍りついたまま、断たれて、崩れ落ちる。


「一刀両断、でござるか」


ワングが、自分の手にした刀を、静かに、見つめ直した。


「今までと、手応えが、まるで、違うでござる」


---


「私も!」


ネリスが、隣の一頭へ、爪を、振るう。


これまでより、はるかに、浅い動きで、二つの首が、深々と、切り裂かれた。


「軽い。それに、切れ味が、段違い」


ネリスが、爪を、見つめながら、呟いた。


---


「残り、三頭!」


カインが、叫ぶ。


「私が、まとめて」


ノリアが、杖を、両手で、構える。


「業火弾」


---


放たれた炎が、通路いっぱいに、広がった。


いつもより、明らかに、大きく、そして、鋭い勢いで。


三頭が、揃って、その炎に、飲み込まれる。


崩れ落ちるまで、瞬きほどの、時間しか、かからなかった。


---


「終わった……」


カインが、剣を、下ろしながら、呟く。


「これ、今までと、明らかに違うでござるな」


ワングが、刀を、鞘に、納めながら、言う。


「威力、跳ね上がってる」


ダダが、崩れた敵の跡を、見回しながら、続けた。


「三つの武器、変わっただけで、こんなに」


---


「杖、すごい」


ノリアが、自分の両手を、じっと、見つめる。


「私も、力入れたつもりは、なかったのに」


その声には、少しの、戸惑いが、混じっていた。


---


戦いの余韻が、まだ、残る中、ノリアの表情が、ふと、変わった。


「……なに、これ」


「どうした」


カインが、聞く。


「杖が……話しかけてくる、気がする」


ノリアが、杖を、両手で、しっかりと、握り直した。


---


「話しかける、って」


ミラが、身を乗り出す。


「言葉、じゃない。でも、伝わってくる。『私の力を、解き放て』って」


ノリアが、静かに、続けた。


「解き放て……力を?」


カインが、繰り返す。


「本当に、聞こえてるのか、それ」


ダダが、慎重に、聞く。


「聞こえてる、というより……そう、感じる」


ノリアが、杖を、見つめたまま、答えた。


---


「怖くはないのか」


ワングが、静かに、問う。


「怖くはない。悪いものじゃない、って気がする」


ノリアが、皆を、見回す。


「試してみたい。だめ、かな」


---


一瞬、沈黙が、落ちる。


「信じられるなら」


カインが、静かに、言った。


「やってみよう。危なそうなら、すぐ、皆で、支える」


「うん」


ノリアが、頷いた。


---


杖を、胸の前に、抱き寄せる。


目を、閉じる。


「解き放つ」


その一言と同時に、杖全体が、淡い光を、帯び始めた。


---


光は、ノリアの手を、包み、腕を、伝い、体全体へと、広がっていく。


風もないのに、髪が、わずかに、揺れた。


「ノリア!」


カインが、思わず、駆け寄りかける。


「大丈夫……たぶん」


ノリアが、目を、開けたまま、答えた。


---


光が、収まっていく。


ノリアは、その場に、変わらず、立っていた。


「……何か、変わった、感じは、するのか」


ダダが、恐る恐る、聞く。


「する。でも、うまく、言えない」


ノリアが、自分の手のひらを、開いたり、閉じたりする。


「魔道師、に、なった気がする」


---


「魔道師……」


ミラが、静かに、繰り返す。


「詳しいことは」


「わからない。感じる、だけ」


ノリアが、正直に、答えた。


その声には、戸惑いと、それでも、確かな落ち着きが、同居していた。


「見た目、何か、変わったか」


ダダが、ノリアを、しげしげと、見つめる。


「変わって、ないと、思う」


ノリアが、自分の格好を、見下ろす。


「格好は、変わらないのに、中身だけ、変わった、感じ」


「そういうもの、なんでござろうな、きっと」


ワングが、静かに、頷いた。


「拙者も、初めて刀を持った時、見た目は、何一つ、変わらなかったでござる」


---


「アプレイザルに、戻ってから、確かめよう」


カインが、皆を、見回す。


「賛成。今、ここで、悩んでても、答えは、出ない」


ダダが、頷いた。


「戻る」


六人の声が、揃った。


---


来た道を、慎重に、引き返し始める。


「今日は、もう、十分すぎる収穫だな」


カインが、苦笑しながら、言う。


その油断が、後になって、悔やまれることになった。


---


不意に、通路の陰から、見慣れない獣が、飛び出してきた。


長い牙を、剥き出しにした、これまで見たことのない型だった。


「来る!」


ネリスの声が、届くより、早く。


「きゃあっ!」


後衛にいた、ノリアの肩に、牙が、深く、食い込んだ。


---


「ノリア!」


カインが、叫ぶ。


「大丈夫……!」


ノリアが、痛みに、顔を、歪めながらも、答える。


その間にも、獣は、次の獲物を、探すように、身をひねっていた。


---


「私が」


ミラが、腰の短剣を、咄嗟に、抜き放つ。


使うつもりなど、なかった一振りだった。


だが、他に、手が、届かなかった。


---


短剣を、獣の首元へ、突き立てる。


刃は、思いのほか、深く、易々と、突き刺さった。


一撃で、獣が、力なく、崩れ落ちる。


「効いた……」


ミラが、自分の手にした短剣を、呆然と、見つめた。


---


「ノリア、傷、見せて」


ミラが、急いで、駆け寄る。


「浄光」


淡い光が、ノリアの肩を、静かに、包んでいく。


「痛みは……少し、和らいだ」


ノリアが、息を、整えながら、答えた。


「傷、深いけど、今の一回で、だいぶ、塞がった」


ミラが、傷口を、確かめながら、言う。


短剣を、鞘に、戻そうとした、その瞬間。


「……これも」


ミラの表情が、静かに、変わった。


---


「どうした」


カインが、聞く。


「短剣が……話しかけてくる」


ミラが、短剣を、見つめたまま、答える。


先ほどの、ノリアと、同じ、響きだった。


---


「なんて」


ダダが、身構える。


「『プレートを、確認しろ』って」


ミラが、静かに、告げた。


「プレート……」


カインが、繰り返す。


短剣と、杖に、添えられていた、あの金色のプレートを、六人は、まだ、荷袋に、収めたままだった。


---


「今、ここで、確認するのは」


ワングが、慎重に、言う。


「まずは、ノリア殿の、傷を、優先すべきでござろう」


「賛成」


カインが、頷く。


「プレートも、大事だけど、怪我人を、放っておくわけには」


---


「戻ろう」


カインが、皆を、見回す。


「戻ろう」


六人の声が、揃った。


---


杖と、短剣。


どちらも、確かに、何かを、語りかけてきた。


その意味を、まだ、誰も、正確には、掴めていなかった。


「杖も、短剣も、同じような、言葉を、返してきた」


カインが、歩きながら、静かに、言う。


「偶然、じゃない、気がするな」


「うん。何かの、仕組みが、あるんだと思う」


ノリアが、頷いた。


「今日は、答えを、急がない方がいい」


ミラが、静かに、続ける。


「わかったことだけ、持ち帰って、あとは、専門の人に、任せよう」


「それがいい」


カインが、頷いた。


クロスロードへ向かう足取りは、行きよりも、ずっと、慎重なものになっていた。


いかがでしょうか?


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よろしくお願いいたします。

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