第94話「宿した名前、選ばれる資格」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
蓋を持ち上げると、中には、四つの品が並んでいた。
肘から先ほどの長さの、細身の杖。
丸められた、古びた羊皮紙。
銀の鞘に納まった、見事な拵えの短剣。
そして、金色に輝く、一枚のプレート。
「今回は、また、豪華でござるな」
ワングが、目を見開く。
「杖に、短剣に、書き物まで」
カインが、覗き込みながら言った。
「今までで、一番、詰め込まれてる箱でござるな」
ワングが、感心したように、箱の中を、もう一度、覗き込む。
「大きさが、倍だった分、中身も、それなりに、ってことかな」
ミラが、静かに、付け加えた。
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「杖、持ってみていい?」
ノリアが、真っ先に、手を伸ばす。
「気をつけて」
ミラが、静かに、声をかけた。
杖を手に取ると、ノリアは、しばらくその感触を、確かめるように、握り直した。
「軽い。それに、なんだか、指に馴染む」
「馴染む、って、どういう感じでござるか」
ワングが、聞く。
「うまく言えない。でも、悪いものじゃない、と思う」
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短剣は、鞘から、わずかに覗く刃だけでも、これまで見たどの武器とも違う、静かな輝きを放っていた。
「これも、すごいな」
ダダが、感心したように、鞘の飾りを、そっとなぞる。
「拵え、細かい。ただ者の得物じゃないでござるな」
ワングが、腕を組みながら、言った。
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「羊皮紙とプレート、何が書いてあるんだろう」
ネリスが、覗き込む。
見慣れない筆致の文字が、両方に、びっしりと綴られている。
「私たちには、読めそうにないね」
ミラが、首を振った。
「プレートの方、金の質感が、なんというか、只者じゃない気配がするでござる」
ワングが、プレートを、光にかざしながら、言う。
「気配って、見た目でわかるものなの」
ネリスが、聞き返す。
「わかるとは言わぬでござるが、長く迷宮に潜っていると、なんとなく、そういう勘は、育つでござるよ」
「なんとなく、って、頼もしいんだか、頼りないんだか」
ダダが、苦笑した。
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「拙者が、見てみるでござる」
ワングが、進み出る。
「真贋の瞳」
淡い光が、まず杖を、静かに包んだ。
しばらくして、光が、収まる。
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「……魔導師の杖、と読めるでござる」
ワングが、静かに、言う。
「魔導師の、杖」
カインが、繰り返す。
「そのまんまの名前、というか」
「輪郭だけは、見える。ただ、それ以上は、わからない」
ワングが、慎重に、付け加えた。
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続けて、短剣にも、光をかざす。
「こちらは……君主の短剣、でござるな」
「君主の、短剣」
ダダが、聞き返す。
「君主って、王様とか、そういう」
ノリアが、首を傾げる。
「そこまでは、わからないでござる。あくまで、名前だけ」
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羊皮紙とプレートにも、順に、真贋の瞳をかざしてみる。
だが、こちらは、輪郭すら、はっきりしなかった。
「説明書、みたいなものかもしれない、というのは、なんとなく、感じるでござるが」
ワングが、正直に、言う。
「文字までは、読み取れない」
「無理しなくていい」
カインが、静かに、言った。
「持ち帰って、鑑定してもらおう」
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翌日、六人は、四つの品を抱え、アプレイザルの窓口へと向かった。
窓口には、見慣れた鑑定士が、待っていた。
「今日は、また、盛りだくさんですね」
鑑定士が、袋の中身を見て、少し、目を丸くした。
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「まず、こちらから、片付けましょうか」
鑑定士が、以前預かっていた、ワングの刀を、台の上に置く。
「銘が、判明しました」
「銘、でござるか」
ワングが、身を乗り出す。
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「『氷姫』、と読みます」
鑑定士が、静かに、告げる。
「氷の鋭さと力を、使い手に与える、という言い伝えのある一振りです」
「氷姫……」
ワングが、刀身を、そっと見つめる。
「これより上、というと、どのくらいの位でござろうか」
「例えば、妖刀・村正のような、伝説級のものが、さらにその上、という位置づけになります」
鑑定士が、答えた。
「村正、まではいかずとも、十分すぎる代物、ということでござるな」
ワングが、静かに、頷いた。
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「爪の方は」
鑑定士が、ネリスの二つの爪を、並べて置く。
「一長一短、という結論に、変わりはありません。場面によって、使い分けられるのが、理想です」
「使い分け……両方、持ち歩く、ってことですよね」
ネリスが、確かめるように、聞く。
「はい。ただ、装備枠の問題は、こちらでは、解決できません」
鑑定士が、申し訳なさそうに、言った。
「そこは、悩みの種のままか」
ダダが、苦笑した。
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「続いて、短剣です」
鑑定士が、銀の鞘を、丁寧に台へ置く。
「こちらは……『聖アリアの剣』、という名で、記録に残っています」
「聖、アリアの剣」
カインが、繰り返す。
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「アリアという名の、ロードが、かつて持っていた品、とされています」
鑑定士が、続けた。
「ロード、というのは」
ミラが、聞く。
「詳しい記録は、こちらにも、多くは残っていません。ただ、単なる剣士や騎士とは、また違う立場だった、ということだけは、わかっています」
「わからないことの方が、多いんですね」
カインが、静かに、言った。
「はい。古い時代の職業名は、今と、一致しないことが、しばしばあります」
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「では、杖の方も」
鑑定士が、細身の杖を、両手で、そっと持ち上げる。
「こちらは、『コーネリウスの魔杖』、と記録にあります」
「コーネリウス……」
ノリアが、目を見開く。
「過去、最も強力な魔法使いだった、とされる人物の名です」
鑑定士が、静かに、続けた。
「その人が、使っていた杖……」
ノリアが、杖を、もう一度、見つめ直す。
その手が、わずかに、震えていた。
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「そして、羊皮紙とプレートですが」
鑑定士が、二つを、並べて置く。
「内容は、ほぼ同じことが、記されています」
「同じ、こと」
カインが、身を乗り出す。
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鑑定士が、記録紙を、静かに、読み上げた。
「『本品が認めた使用者・装備者は、かつての使用者・装備者と、同等な職を得ることだろう』」
一瞬、誰も、口を開かなかった。
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「同等な、職……」
ミラが、静かに、繰り返す。
「ロードとか、最強の魔法使い、みたいな」
ネリスが、確かめるように、言う。
「額面通りなら、そうなります」
鑑定士が、答えた。
「ただ、それが、具体的に、どういう仕組みで、何を意味するのかは、私どもにも、断定できません」
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「認めた使用者、っていうのが、また、引っかかるでござるな」
ワングが、腕を組む。
「誰でも、なれるわけじゃない、ってことだよな、少なくとも」
ダダが、続けた。
「そういうことに、なりそうです」
鑑定士が、静かに、頷いた。
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「試してみないと、わからない、ってことですよね」
カインが、確かめるように、聞く。
「そうなります。ただ」
鑑定士が、少し、言葉を、選ぶ。
「これほどはっきりと、由来と効能が判明する品は、私も、そう多くは見てきていません。慎重に、扱われることを、お勧めします」
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窓口を離れ、外に出る。
夕暮れには、まだ、少し早い時間だった。
「同等な職、か」
カインが、空を見上げながら、呟く。
「ロードと、最強の魔法使い」
ミラが、静かに、続けた。
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「誰が、持つか、決めないといけないでござるな」
ワングが、言う。
「うん。だけど」
ノリアが、杖を、そっと、両手で包む。
「今すぐには、決められない。重すぎる」
「重い、な。正直」
ダダも、静かに、頷いた。
「そもそも、認められる、っていうのが、条件なんだよな」
カインが、腕を組みながら、言う。
「欲しいと思っただけじゃ、たぶん、駄目でござろう」
ワングが、答える。
「じゃあ、何が、条件なんだろう」
ネリスが、聞く。
「それも、わからない」
カインが、正直に、答えた。
「わからないことだらけだけど、悪い話じゃない、とは思う」
ミラが、静かに、言う。
「うん。少なくとも、呪いの類じゃなさそうだし」
ノリアも、頷いた。
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「焦って決めることじゃない」
カインが、皆を、見回しながら、言う。
「そうだな」
ダダが、答える。
「わからないことは、わからないまま、少しずつ、確かめていけばいい」
その言葉に、六人は、それぞれ、小さく頷いた。
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「預けておく、っていう手もあるけど」
カインが、鑑定士の言葉を、思い出しながら、言う。
「どうする」
「持って、行こう」
ダダが、迷いなく、答えた。
「置いたままじゃ、いつまで経っても、わからないままだ」
「拙者も、同じ意見でござる」
ワングが、続けた。
「刀も、爪も、短剣も、杖も。実際に、迷宮の中で、確かめてみないことには、始まらないでござろう」
「うん。机の上で悩んでても、答えは出ない気がする」
ネリスも、頷いた。
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「じゃあ、明日は」
カインが、皆を、見回す。
「四つとも、持って、潜ろう」
「潜ろう」
六人の声が、揃った。
夕暮れの光が、通りを、静かに染めていく。
かつて誰かが纏っていた名前が、この先、誰の肩に、落ち着くのか。
それは、まだ、誰にも、わからなかった。
答えを探す場所は、鑑定所の窓口ではなく、迷宮の奥にある。
六人は、そのことを、あらためて、確かめ合っていた。
いかがでしょうか?
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