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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第二部 迷宮エア編 一層

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第93話「弾かれた呪文、効いた静黙」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

緑の光が滲む通路の先に、六人は、二種類の気配を同時に感じ取った。


これまでの赤や青とは違い、壁の緑色は、どこか湿った苔のような質感を帯びていた。


一つは、ローブをまとい、杖を構えた人型。


もう一つは、四体。


腐敗した肌に、うつろな目をした、緩慢な動きの群れだった。


「ゾンビ、四体。それに、魔法使いが一人」


ネリスが、低く告げる。


「数だけなら、これまでとそう変わらないでござるが」


ワングが、刀の柄に手をかけながら言った。


「気配が、これまでと違う。特に、あの魔法使い」


ネリスが、耳をぴんと立てたまま、慎重に言う。


「油断は禁物、だな」


ダダが、盾を構え直した。


「行くぞ」


カインの合図とともに、六人は、それぞれの持ち場へと散った。


---


先に動いたのは、ゾンビの群れだった。


緩慢に見えた動きが、間合いに入った瞬間、驚くほどの速さで爪を振るう。


「重い」


ダダが、盾ごと体勢を崩しかける。


一撃ごとの威力が、これまでの雑魚とは、明らかに違っていた。


「毒、来る」


ネリスの声と同時に、爪の先から、粘ついた紫の液が飛び散った。


ダダの腕を、かすめる。


「痺れる……いや、これ、まずいやつだ」


腕に走る痛みに、ダダの顔が歪んだ。


「浄化」


ミラの声が響き、ダダの腕から、紫の変色がすっと引いていく。


「助かる」


ダダが、短く礼を言い、盾を構え直した。


その隙を突くように、別の一体が、横合いからワングへと爪を振るう。


「見えてるでござる」


ワングの刀が、爪ごと薙ぎ払った。


だが、斬られてなお、ゾンビの体は、止まらずに動き続ける。


「厄介な、しぶとさでござるな」


「頭か、心臓、潰さないと止まらないタイプかもね」


カインが、剣を構えながら言う。


三体目のゾンビが、ネリスへと爪を伸ばした。


「遅い」


ネリスが、身を低くしてかわし、爪でその胴を切り裂く。


だが、傷口から漏れ出す黒い体液が、わずかに跳ね、ネリスの足元を濡らした。


「これも、毒?」


「たぶん、そう。触れないように」


ネリスが、距離を取りながら答える。


---


「業火獄」


魔法使いの詠唱と同時に、地面から、黒い炎の柱が突き上がった。


六人のうち、三人が、その炎の余波を浴びる。


「熱っ……」


ミラが、腕を庇いながら、後ろに下がった。


「かなりの威力、でござるな」


ワングが、焼けた袖口を見て、顔をしかめる。


「食らい続けたら、まずいな」


カインも、頬をかすめた熱に、思わず顔をしかめた。


炎の余波が引いた地面には、うっすらと黒い焦げ跡が残っている。


「あの魔法使い、先に潰した方がいい」


カインが、剣を握り直しながら言った。


---


「聖絶」


ミラの詠唱が、ゾンビの群れを、白い光で包み込む。


四体の輪郭が、光の中で、大きく崩れた。


「効いてる……!」


ノリアが、驚いたような声を上げる。


「アンデッドには、こっちの方が、圧倒的にいいでござるな」


ワングが、感心したように言った。


だが、光が収まった後も、二体のゾンビは、まだ足を止めていなかった。


「もう一押し、要るか」


ダダが、盾を構え直す。


「残り、二体。私が」


ネリスが、低く身を沈め、一体の懐へと滑り込んだ。


爪が、光を反射しながら、確実に急所を捉える。


崩れ落ちるゾンビを見届ける間もなく、最後の一体が、ダダへと爪を振り上げた。


「もう、通さない」


ダダの盾が、真正面から爪を受け止める。


そのまま、力任せに押し込み、体勢を崩したところへ、カインの剣が、心臓の位置を正確に貫いた。


ゾンビの体が、糸の切れた人形のように、崩れ落ちる。


「よし、これで、残るは……」


ダダが、荒い息のまま、魔法使いの方へと視線を向けた。


---


「魔法使いの方、封じられないか」


カインが、そう言うと同時に、詠唱を放つ。


「静黙」


放った呪文は、しかし、魔法使いの前で、ふっと霧散した。


「効かない、か」


カインが、舌打ちする。


「拙者も」


ワングが、続けて刀を振るうが、魔法使いの姿は、するりと躱される。


「動きも、読みにくいでござるな」


---


「私も、いく」


ノリアが、前に出る。


先ほどから、ノリアの放つ火の呪文は、ことごとく、魔法使いの前で弾かれていた。


まるで、攻撃系の呪文だけを、見切っているかのような動きだった。


「また、弾かれるかもしれないけど」


ノリアが、板を握り直しながら、小さく息を吸う。


「静黙」


放たれた呪文が、今度は、まっすぐに魔法使いへと吸い込まれていった。


---


「入った……!」


ノリアが、目を見開く。


魔法使いの体が、大きくよろめいた。


杖を支えに、かろうじて体勢を保っている。


「攻撃は見切られてても、そっちは、読まれてなかったんだな」


ダダが、感心したように言う。


「今のうちに」


カインの声に、六人の視線が、一斉にノリアへと集まった。


---


「終焉」


短い一言とともに、ノリアの手のひらから、光と闇が入り混じった奔流が放たれる。


それは、魔法使いだけでなく、残っていたゾンビも、地面ごと飲み込んだ。


轟音とともに、視界が真っ白に染まる。


---


光が収まると、そこにあったのは、深くえぐれた、すり鉢状の地面だった。


魔法使いの姿も、ゾンビの群れも、跡形もなく消えている。


「……クレーター、でござるか」


ワングが、呆然と、その光景を見つめる。


「地面が、丸ごと、なくなってる」


ダダが、穴の縁を、そっと覗き込んだ。


「私、こんなつもりじゃ……」


ノリアが、自分の両手を、信じられないというように見つめる。


「威力、上がってる、って話は聞いてたけど」


ミラが、静かに言う。


「ここまでとは、思わなかったよね」


「うん」


カインが、深く抉れた地面を見ながら、頷いた。


「加護、恐ろしいな」


「拙者の右手も、ノリア殿の呪文も、まだまだ底が見えぬでござるな」


ワングが、ため息交じりに言った。


「これだけの威力を、ちゃんと使いこなせるようになったら、名前も、変わってくるんじゃないか」


ダダが、ふと思いついたように言う。


「名前?」


ノリアが、聞き返す。


「魔術師、って柄でもなくなってきてる気がしてな。もっと、こう……」


ダダが、言葉を探すように、腕を組む。


「その辺りは、アプレイザルで、また詳しく聞けばいいでござろう」


ワングが、話をまとめるように言った。


「今は、まだ、実感が追いついてない」


ノリアが、自分の両手を、もう一度、じっと見つめた。


六人は、しばらくの間、目の前のクレーターを、無言のまま見つめ続けていた。


---


「これ、この先、進めるのか」


ダダが、抉れた地面の縁を、そっと踏みしめながら言う。


クレーターの向こう側には、うっすらと緑の光が漏れる、小さな扉が見えていた。


「あそこが、ポイントの部屋、みたいだね」


ミラが、指差す。


「回り込むしかなさそうでござるな」


ワングが、崩れた地面の端を、慎重に辿りながら進んだ。


六人は、抉れた穴を避けながら、少しずつ、緑の光の方へと近づいていく。


---


扉をくぐると、そこには、赤や青のポイントと同じように、壁に囲まれた小部屋が広がっていた。


部屋の中央には、これまでよりも一回り大きな、装飾の施された箱が一つ。


「今回は、一つだけ、か」


カインが、箱に近づきながら呟く。


「大きさは、これまでの倍くらいある、けどね」


ノリアが、箱の縁を覗き込みながら言った。


「罠、確認する」


ネリスが、いつものように、しゃがみ込む。


爪の先で、箱の縁を、そっと叩いてみせた。


かすかな光の線が、蓋の輪郭に沿って、うっすらと浮かび上がる。


「一応、ある。でも、複雑な作りじゃない」


しばらく手を動かした後、小さく、かちりという音が鳴った。


「解除、完了」


先ほどの戦いの余韻が、まだ体のどこかに残っているのか、六人の間には、これまでとは少し違う、張り詰めた静けさが漂っていた。


「開けるのは、これで大丈夫、ってことだよな」


カインが、確認するように尋ねる。


「うん、大丈夫」


ネリスが、頷いた。


六人は、揃って箱の前に集まり、蓋に手をかけた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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