第92話「量られた力、測れない力」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
クロスロードに戻ると、六人はまず、アプレイザルの窓口へと向かった。
「刀と、爪の装具を、見ていただきたくて」
カインが、布に包んだ二つの品を、台の上に並べる。
見慣れた鑑定士が、それぞれを手に取り、光にかざした。
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「まず、刀からですね」
鑑定士が、刃の反りを確かめながら、静かに言う。
「攻撃力は……今、ワングさんがお使いのものと比べて、桁が違います」
「桁、でござるか」
ワングが、思わず聞き返した。
「はい。それと、もう一つ」
鑑定士が、柄の部分を指でなぞる。
「これは、侍であれば、魔力を込めることもできる作りです」
「魔力を、込める……?」
ワングが、右腕と刀を交互に見比べる。
「拙者は、そういう戦い方を、したことがないでござる」
「今すぐ使いこなす必要は、ありません。ただ、その素質を持った刀だ、ということです」
鑑定士の言葉に、ワングは、しばらく何も言えずにいた。
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「爪の方は」
鑑定士が、続けて、装具を手に取る。
「今、ネリスさんがお使いのものより、切れ味も耐久も上です」
「じゃあ、こっちにした方がいい?」
ネリスが、身を乗り出す。
「ただ、魔力的な付加機能は、こちらには、ありません」
「付加、機能……」
ネリスが、指先で、爪の縁をそっとなぞった。
今使っている爪には、わずかながら、麻痺を誘う付与がかかっている。
さらに罠を見抜くことが3回ではあるが、見抜ける。
純粋な威力を取るか、搦め手を残すか。
「一長一短、でござるな」
ワングが、小さく呟いた。
「うん……悩む」
ネリスが、二つの爪を、しばらく見比べたまま、動かなかった。
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「無制限で、武器を持ち運べたら……」
ダダが、ぽつりと漏らした一言に、六人が同時に頷いた。
「それ、みんな思ってたよな」
カインが、苦笑する。
「装備枠、っていうのは、案外、厳しい制約でござるな」
ワングが、腕を組みながら言った。
「今すぐ決めなくても、いいですよ」
鑑定士が、二つの品を、それぞれ布に包み直しながら言う。
「どちらも、預かっておくこともできます」
「じゃあ、少し、考えさせてください」
ネリスが、そう答えて、二つの品を、丁寧に受け取った。
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「そういえば」
カインが、ふと思い出したように言う。
「エアに潜ってから、レベル、ちゃんと確認してなかったよな」
「言われてみれば」
ミラが、頷いた。
「せっかくなので、こちらでも、確認していきますか」
鑑定士が、台を示す。
六人は、順番に、台へと手を乗せていった。
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まず、ダダから。
光が、台の上で、いつもより長く灯った。
「盾役、レベル20ですね」
「20……」
ダダが、自分の手を、じっと見つめる。
続いて、ネリス。
「斥候、こちらもレベル20です」
「二人とも、揃って区切りの数字か」
ダダが、小さく笑った。
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「次は、ノリアさんですね」
「レベル16です」
「第七階梯、終焉が5回。第六階梯が7回。第五階梯以下が9回、上限です」
「上限まで、来たんだ、第五階梯」
ノリアが、自分の板を、そっと撫でる。
続いて、ミラ。
「レベル17ですね」
「第七階梯、神域が7回。第六階梯以下は、9回、上限です」
「私も、上限か」
ミラが、静かに息をついた。
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「ワングさんは、レベル19です」
「19、でござるか」
「第六階梯が、3回。石化眼、反魔結界、それに、滅却光。加えて」
鑑定士が、板の記録を確かめる。
「帰郷の扉が、使用可能になっています」
「帰郷の……扉?」
ワングが、聞き返す。
「エアの内部から、直接、街へと戻れる術です。稀に、深く潜った術者に、宿ることがあります」
「それは……かなり、便利でござるな」
「ええ。ご存じの副作用もあるので使いどころは、慎重に考えるべきでしょうが」
鑑定士が、続ける。
「第五階梯が、6回。第四階梯以下は、9回、上限です」
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「最後、カインさんですね」
台に手を乗せると、光が灯る。
「レベル14です」
「一つ、上がったのか」
カインが、自分の手を見た。
「呪文の方は……あれ」
鑑定士が、板の記録を、二度確かめる。
「新しく覚えた呪文も、回数の増加も、ありません」
「増えて、ない……?」
カインの声に、戸惑いが滲んだ。
「レベルは上がっているのに、呪文が伴っていない、というのは」
鑑定士が、言葉を選びながら言う。
「私の知る限りでは、あまり例のないことです」
カインは、しばらくの間、自分の手のひらを、無言で見つめていた。
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「万能士だから、ってことも、あるのかな」
ミラが、気遣うように言う。
「分からない。ただ、皆が伸びてる分、置いていかれてる感じは、する」
カインが、正直に、そう答えた。
「置いていかれてる、は、違うでござる」
ワングが、静かに口を挟む。
「エランドが、名指しで、拙者らを呼んだ。カイン殿には、まだ渡されていないだけで、渡されないと決まったわけではないでござろう」
「そう、だといいけど」
カインが、小さく頷いた。
だが、その表情には、まだ拭いきれない曇りが残っていた。
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「気になるなら」
ダダが、話を変えるように言う。
「今の力、一度、確かめに行ってみるか」
「確かめに?」
ネリスが、聞き返す。
「レベルも上がったし、加護もある。数字の上だけじゃなくて、実際に、どれだけ変わったか確認しておきたい」
ダダの提案に、六人は顔を見合わせた。
「賛成」
ノリアが、真っ先に頷く。
「拙者も、異存ないでござる」
「私も」
ミラが、静かに続いた。
「新しい爪、まだ決めてないけど……今の装備でも、いいよね」
ネリスが、確かめるように言う。
「もちろん」
カインが、頷いた。
その顔から、先ほどまでの曇りが、少しだけ薄れていた。
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エアの入り口をくぐり、六人は、赤い四角のポイントへと、改めて足を向けた。
すでに一度踏破した場所であれば、今の実力との差が、はっきり分かるはずだった。
「前は、ここの雑魚にも、結構、手こずったよな」
ダダが、通路を進みながら言う。
「うん。今日は、どうかな」
ノリアが、板を握り直した。
やがて、通路の先に、以前も遭遇した、鎧姿の亡霊の群れが現れる。
「来る」
ネリスの声と同時に、六人は、迷いなく散開した。
ダダの盾が、先頭の一体を弾き飛ばす。
以前よりも、明らかに一撃の重みが違った。
「軽い」
短くそう呟いたきり、ダダは、二体目、三体目と、続けざまに弾き返していく。
「業火弾!」
ノリアの呪文が、群れの中心で炸裂した。
以前は数体しか巻き込めなかった範囲が、今は残りの敵をほぼ飲み込んでいる。
「これは……」
ノリア自身、驚いた声を上げた。
その隙に、ワングとカインが、残った一体へと同時に踏み込む。
刀と剣が、ほぼ同時に、亡霊の胴を貫いた。
「終わった、な」
ダダが、盾を下ろしながら言う。
戦いの跡を見回すと、以前の記録よりも、明らかに短い時間で決着していた。
「数字だけじゃ、分からなかったけど」
ミラが、静かに言う。
「体で分かると、また、違うね」
「うん」
カインが、頷いた。
その声には、先ほどまでの曇りとは違う、静かな手応えが滲んでいた。
「呪文が増えなくても、剣は振れる」
カインが、自分の剣を見つめながら、そう呟いた。
六人は、その言葉に、それぞれ小さく頷き、赤い通路の奥へと、さらに足を進めていった。
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奥へ進むと、以前は少し苦戦した、大柄な骨の戦士が、通路の先に立ちはだかった。
「あれも、確か、前は三人がかりだったよな」
ダダが、盾を構えながら言う。
「今回は、どうする?」
ネリスが、爪を構えながら尋ねた。
「まず、俺とワングで、様子を見る」
カインが、前に出る。
骨の戦士が、大剣を大きく振りかぶった。
その一撃を、ワングが、右腕で軽く受け流す。
以前なら弾き飛ばされていたはずの衝撃が、今は、するりと逸れていくだけだった。
「これも、加護でござろうか」
「かもな」
カインが、隙をついて、骨の戦士の脇腹を斬りつける。
ノリアの詠唱が、追い打ちをかけるように響いた。
「火花炎」
炎が、骨の戦士の輪郭ごと、崩し始める。
「今のうちに」
ミラの声に合わせ、ネリスとダダが、左右から同時に踏み込んだ。
骨の戦士は、大きく体勢を崩し、そのまま、砂のように崩れ落ちていった。
「前より、確実に、楽になってる」
ダダが、額の汗を拭いながら言う。
「うん。数字だけの話じゃ、なかったね」
ミラが、静かに頷いた。
いかがでしょうか?
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