↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第二部 迷宮エア編 一層

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/237

第90話「加護の行方、譲れぬ役目」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

クロスロードの受付窓口に立つと、リゼットは六人の顔を順に見た。


「ギルド長に、少し伺いたいことがあって」


カインが切り出す。


「かしこまりました。少々お待ちください」


リゼットが、奥へと引っ込む。


六人は、待合のベンチに腰を下ろす構えを見せた。


だが、腰を下ろすより先に、リゼットが戻ってきた。


「今すぐ、とのことです」


「今すぐ……?」


ダダが聞き返す。


「はい。奥の応接室へどうぞ、と」


その即応ぶりに、六人は顔を見合わせた。


「予約なしで、こんなに早く通ることなんて、あったか?」


ネリスが、小さく首を傾げる。


「ない」


ダダが即答した。


---


応接室の扉を開けると、ルーシェナはすでに椅子に腰かけ、六人を待っていた。


いつもの気さくな笑みではなく、どこか値踏みするような目つきだった。


「早かったな。話は、エアのことだろう」


「もう、ご存知なんですか」


カインが、驚いた声を出す。


「証を得た者が、エアの一層で何かを持ち帰ってくる。それくらいは、ギルド長の耳に入る仕組みになっている」


ルーシェナが、静かに脚を組み替えた。


「話してみろ。順番に、な」


促され、六人は一人ずつ、エランドから告げられた加護について語っていった。


ダダの防御の底上げ、ネリスの道案内、ミラの治癒強化。


ノリアの魔力増強と、その先にあるという何か。


ワングの「失った右手の代わり」という、まだ意味の分からない言葉。


そして、カインだけがまだ何も渡されていないこと。


ルーシェナは、黙って最後まで聞いていた。


---


「道案内、治癒、防御――そのあたりは、過去にも例がある」


ルーシェナが、指を折るように数え上げた。


「エアに潜った者が、似たような加護を受け取ったという記録は、アーカイブにも残っている」


「じゃあ、珍しいことじゃない、ってことですか」


ネリスが尋ねる。


「その三つに関しては、な」


ルーシェナが、そこで一度、言葉を切った。


「厄介なのは、ノリア。お前の分だ」


「私、ですか」


ノリアが、自分を指差す。


「魔法の加護は、判断が難しい」


ルーシェナが、静かに言った。


---


「お前の呪文の覚え方は、元から筋が通っていない」


「そんな、こと……」


ノリアが言い返そうとして、言葉に詰まる。


「怒るな。事実の話をしている」


ルーシェナが、手のひらを軽く上げた。


「各階梯、攻撃系の呪文しか覚えていない。しかも、火属性のものばかりだ」


「言われてみれば……」


ノリアが、自分の手のひらを見下ろす。


「加えて、静黙と眠霧、それに真贋の瞳。この三つを、なぜお前が覚えられたのか。系統だった説明が、今のところできない」


「その三つに、何か共通点が?」


ノリアが聞き返す。


「あれば、とっくに調べ上げている」


ルーシェナが、短く答えた。


「共通点が見えないから、厄介だと言っている」


その言葉に、ノリアは何も返せず、板を握る手にわずかに力を込めた。


---


「拙者と、カイン殿は……」


ワングが、右腕にちらりと目をやりながら言う。


「万能士も、片手を失った侍も、前例がない」


ルーシェナが、先回りするように言った。


「だから、何とも言えん。渡す言葉すら、私には持ち合わせがない」


「持ち合わせがない、というのは……」


カインが、確かめるように尋ねる。


「お前たちのような組み合わせは、記録にない、という意味だ。前例のないものに、それらしい理屈をつけるほど、私は無責任じゃないつもりだ」


その物言いには、いつもの気さくさとは違う、芯の硬さがあった。


「じゃあ、俺の右手は……」


ワングが、なおも食い下がる。


「分からないものは、分からないと言う。それだけだ」


ルーシェナが、短く言い切った。


---


「あの……ギルド長は、エランドのこと、ご存知なんですか」


カインが、思い切って尋ねた。


その瞬間、ルーシェナの表情が、わずかに翳った。


「知っている。嫌というほどにな」


「嫌というほど……?」


ダダが繰り返す。


「一度、あったことがある」


ルーシェナが、腕を組んだ。


「あいつの指示で、もう一度ノアの十階に行かされてな。戻ってきたら、あいつから、ギルド長の座を押し付けられるハメになった」


「押し付けられた……?」


ノリアが、目を丸くする。


「そうだ。冗談みたいな話だが、事実だ」


ルーシェナの声には、思い出すだけで苛立ちがにじむような響きがあった。


六人は、迂闊に相槌を打てず、しばらく黙り込んだ。


「あの猫、意外と……」


ミラが、言葉を選びながら口を開く。


「性格が悪い、と言いたいんだろう。言っていいぞ」


ルーシェナが、先に言ってしまった。


その口ぶりに、六人は思わず笑いそうになるのをこらえた。


---


「なぜ、俺たちだけに、ノストス神の加護が……」


カインが、改めて切り出す。


「あんな言葉まで、エランドから直接かけられたのか。それも、分かりますか」


ルーシェナは、しばらく目を閉じていた。


「わからん」


「わからない、って……」


ダダが、思わず声を漏らす。


「だが」


ルーシェナが、目を開けて、六人を見渡した。


「何かの役目が、お前たちにはあるんだろうな。私には、それが分かる」


「分かる、けど……」


カインが、先を促す。


「うまく説明はできん」


ルーシェナが、静かに、しかしはっきりと言った。


「言葉にできるくらいなら、とっくに言葉にしている。すまんが、今の私に渡せるのは、それくらいだ」


その言い方には、はぐらかしとは違う、何かを堪えるような響きがあった。


六人は、それ以上、問いを重ねられなかった。


---


「今日のところは、これで十分だろう」


ルーシェナが、話を締めくくるように言った。


「分からないことを、無理に分かったふりで渡すよりは、ずっといい」


ノリアが、ぽつりと言う。


「殊勝なことを言う」


ルーシェナが、片方の眉を上げた。


「お前たちも、大概、わからないことだらけで、よく前に進めるものだと思うがな」


「わからないなりに、進むしかないので」


カインが、苦笑しながら答えた。


「そうだな。それで、ここまで来たんだろうよ」


ルーシェナが、初めて、いつもの気さくな笑みを見せた。


「せいぜい、無事に帰ってこい。次の色つきの四角、とやらにな」


「はい」


六人は、揃って頭を下げ、応接室を後にした。


---


廊下を歩きながら、ダダが低く呟いた。


「結局、加護の正体も、エランドの正体も、ほとんど分からないままだったな」


「分からないままだけど」


ミラが、静かに続ける。


「役目がある、っていう言葉だけは、ちゃんと受け取った気がする」


「役目、か」


ワングが、右腕を軽く握りしめる。


「拙者の右手のことも、いずれ分かる、と信じるしかないでござるな」


「信じるしかない、って言い方、俺たちらしいよな」


ダダが、小さく笑った。


「らしい、で片付けていいのか分からないけど」


ノリアが、板をしまいながら呟く。


「片付けなくていい。持ち歩けばいいだけだ」


ネリスが、短く言った。


その一言に、六人は、それぞれの形で頷いた。


ヘクサインへの道を歩きながら、カインは、まだ何も渡されていない自分の手のひらを、そっと見つめていた。


---


一晩の休息を挟み、六人は再びクロスロードに立った。


「チャージも、レベルも、元通りだな」


ダダが、自分の手の甲を確かめながら言う。


「加護の方は、確かめようがないけどね」


ミラが、苦笑しながら答えた。


「使ってみないと分からない、ってことでしょうか」


ネリスが、耳を小さく動かす。


「たぶんな」


カインが、板を懐から取り出しながら頷いた。


エアの入り口をくぐると、赤い四角はすでに背後に沈み、板の丸い印だけが、静かに先を示していた。


「次は、何色でござろうか」


ワングが、板を覗き込む。


「近い順に確かめる方針、だったよな」


ダダが確認する。


「うん。今のところ、青が一番近い」


ノリアが、板の光を目で追いながら答えた。


六人は、頷き合うと、青い四角へ向けて足を踏み出した。


道中の空気は、前回とはどこか違って感じられた。


静かすぎるほどの静けさが、逆に六人の神経を研ぎ澄ませていた。


「エランドの言った『面白いもの』が、この先にあるとしたら」


カインが、歩きながら呟く。


「期待より、身構える方が先に来るな」


ダダが、低く応じた。


やがて、通路の先に、淡い青の光が見え始めた。


壁の色が、赤とは違う質感で、ゆっくりと変わっていく。


六人は、互いに視線を交わし、青い光の方へと歩みを進めていった。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。