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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第二部 迷宮エア編 一層

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第88話「練った策、放つ一撃」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

ヘクサインの一室に、六人分の椅子が丸く並んでいた。


「まず、傷の具合だが」


ダダがカインへ目を向ける。


「もう平気だ。動きに支障はない」


カインが肩を軽く回して答えた。


「無理はするなよ」


「しない。今回は、こっちも策を用意してきたからな」


「リカバリーでの治りも早かったでござるな」


ワングが確かめるように言う。


「ミラの浄化のおかげだよ、本当に」


カインが苦笑した。


「褒めても、何も出ないよ」


ミラが小さく笑う。


「それでも、感謝はしとく」


カインが真面目な顔で言った。


---


「あの四本腕、たぶん普通の魔物じゃない」


ノリアが切り出した。


「赤い四角のポイントの、すぐ手前に現れたでござるな」


ワングが頷く。


「守ってる、って考えるのが自然だと思う。赤の場所そのものか、その手前かは分からないけど」


「守護魔獣、ということか」


カインが呟いた。


「だとしたら、並の相手じゃないのも頷ける」


ダダが腕を組んだ。


「他の色の四角にも、似たような番人がいるのかもな」


ネリスが低く言う。


「その可能性は、十分にある。だとしたら、今回の戦い方が、この先も通用する型になるでござろう」


ワングが真剣な表情で応じた。


---


「だからこそ、先手を打ちたい」


ノリアが皆を見回す。


「終焉を、最初に浴びせる」


一瞬、場が静まった。


「切り札を、いきなりでござるか」


ワングが確かめる。


「あれだけ強い相手なら、魔法をある程度弾く、あるいは減衰させることもあるかもしれない。それでも、最大火力を最初にぶつけておく価値はあると思う」


「使用回数、あまり多くないままの状態で突っ込むことになるが」


ワングが慎重に指摘した。


「分かってる。でも、様子見をしてる余裕がある相手じゃない。減衰されたとしても、無駄にはならないはず」


ノリアの声に、迷いはなかった。


「賛成だ」


カインが即座に頷く。


「私も、賛成でござる」


---


「終焉と同時に、業炎獄と業火弾も撃ち込む」


ノリアが続けた。


「拙者が業炎獄、カイン殿が業火弾、ということでござるな」


ワングが確認する。


「そう。三発、同時に叩き込む。二体まとめて巻き込める」


「派手にやるんだな」


ダダが口の端を上げた。


「派手にやらなきゃ、あの速さと手数には勝てない」


カインが言い返す。


「その後は」


ミラが尋ねた。


「前回、ワングが腕を一本落とした方がいれば、そっちに前衛がかかる。ダダ・ワング・ネリスの三人で押し切る」


ノリアが板の縁を指でなぞりながら続ける。


「もう一体には、私とミラで単体攻撃を撃ち込む。私は雷殺、ミラは神撃」


「私にも、役目があるんだね」


ミラが少し驚いたように言った。


「うん。前衛が片方に集中してる間、もう一体を後衛だけで抑える。抑えられなければ、また同じことの繰り返しになる」


「神撃、当てられる自信はある。ただ、外した時の立て直しは、少し考えておきたい」


ミラが真剣な表情で言う。


「外したら、私が続けて雷殺を撃つ。二の矢は用意しておく」


ノリアが即座に応じた。


「承知した。その役目、しかと果たすでござる」


ワングが静かに頷いた。


---


「私は」


カインが自分を指さす。


「業火弾を撃った後、前衛に合流する。ただし、今回は無理な受け方はしない」


「それでいい」


ダダが頷いた。


「一つ確認だが、腕を落とした方が、もう治ってたら」


ネリスが低く言う。


「その時は、その場で判断する。板の印を見ながら動くしかない」


カインが答えた。


「分かった」


---


作戦が固まると、六人はそれぞれ荷物を確かめた。


解毒薬、回復薬、新しい防具。


積み上げてきたものが、今日のために揃っている実感があった。


「行くか」


カインの一言に、五人が頷いた。


---


エアの門をくぐり、六人は迷わず奥を目指した。


構造は前回とは違って見えたが、板の丸い印も赤い印も、確かに同じ様なところにある。


やがて、見覚えのある広い空間が視界に入った。


床の紋様も、天井の高さも、以前とほとんど変わらない。


「いた」


ネリスが先に気づいた。


奥の暗がりから、四本腕の影が二体、姿を現す。


一体の右肩からは、まだ完全には塞がっていない傷跡が覗いていた。


「あっちが、前回の……」


ダダが低く呟く。


「ならば、決めていた通りに」


ワングが刀の柄に手をかけた。


---


「今だ!」


カインの合図と同時に、ノリアの詠唱が完成した。


「終焉――!」


漆黒の光が空間全体を包み込み、二体の影を同時に呑み込む。


寸分違わず、ワングの周囲に業炎の渦が、カインの手のひらから業火の弾が放たれた。


三つの攻撃が重なり、爆音と閃光が広間を揺らす。


熱気と光が収まるまで、六人は誰も動けなかった。


砂塵が薄れたとき、右肩に傷のある影が、片膝をついていた。


もう一体も、体の輪郭が焼け焦げ、明らかに動きが鈍っている。


「効いてる……!」


ミラが目を見開いた。


「完全には弾いてない、ってことか」


カインが息を吐く。


「弾かれていたら、今ごろあいつら、傷一つ負っていないはずでござる」


ワングが低く言った。


「なら、このまま押し切る」


ノリアが次の詠唱に入る。


---


「行くぞ!傷ついた方へ!」


ワングの号令で、ダダ・ワング・ネリスの三人が、片膝をついた影へ一斉に踏み込んだ。


ダダが盾で退路を塞ぎ、ネリスが背後へ回り込み、ワングが真正面から刀を振るう。


四本のうち二本の腕が、既に満足に動いていない。


それでも残る二本が、最後の抵抗とばかりに振り下ろされる。


ダダが盾でその一撃を受け止め、体ごと押し返した。


「まだ、粘るか!」


ネリスの爪が、動きの鈍った腕の一本を的確に切り裂く。


「今のうちに――!」


ワングの刃が首筋を捉え、影が音もなく崩れ落ちた。


同時に、ノリアとミラがもう一体へ向けて詠唱を重ねていた。


「雷殺!」


「神撃!」


雷光と聖なる光が、焼け焦げた影を同時に貫く。


残った一体が、四本の刃を振り乱しながら、なりふり構わず突進してきた。


「来る、前へ!」


カインが叫び、剣を構えて割り込む。


刃が交差し、火花が散った。


だが、先の一撃で受けた傷は深く、影の動きにはもう精彩がない。


一撃、また一撃と、カインが確実に刃を捌いていく。


「無理はしない、けど――退きもしない!」


カインが低く呟き、鋭く踏み込んだ。


ダダが盾で押し留め、ネリスが爪で追撃を叩き込む。


最後にワングが放った一閃が、決着をつけた。


影が崩れ、床に見慣れない色の魔石が残された。


---


戦いの余韻の中、六人はしばらく無言だった。


「勝てた……」


ミラがようやく声を絞り出す。


「勝てた、というより、勝てる形を作れた、ってことだろうな」


ノリアが冷静に言った。


「策が、ちゃんと嵌まったでござる」


ワングが刀を鞘に納めながら頷く。


「終焉、無駄にならなくて良かった」


ノリアが小さく息をついた。


板を確かめると、丸い印は、赤い四角のすぐ手前で止まっていた。


「あと少しだな」


カインが板を見つめる。


「守っていたのが本当にあれだったのか、まだ断定はできぬが」


ワングが慎重に付け加えた。


「それでも、道は開けた」


ダダが言い、六人は顔を見合わせて頷いた。


---


魔石を回収し、傷薬で軽く手当てを済ませると、六人はしばらくその場に腰を下ろした。


「今日の使用回数、かなり使ったな」


カインが自分の呪文の残量を数える。


「終焉は残り二回、業炎獄も一回分使った」


ノリアが淡々と報告した。


「拙者の方も、全快とはいかぬ状態でござる」


ワングが刀を鞘に戻しながら言う。


「それでも、勝てた。今日はそれで十分だ」


ダダが皆を見回す。


「次、赤に着いたら、何が起きるんだろうね」


ミラが板を覗き込みながら呟いた。


「分からないから、進むしかない」


ノリアが静かに答える。


「わからないまま進む、ってのも、悪くない気分だな」


カインが小さく笑った。


六人は立ち上がり、赤い四角のすぐ手前まで近づいた広間を、改めて見渡す。


「今日は、ここで引き上げよう。無理に先を急ぐ必要はない」


ノリアが提案した。


「賛成でござる。使用回数が戻ってから、万全の状態で赤に踏み込みたい」


ワングが頷く。


ヘクサインでの休息を経れば、また新しい一日が待っている。


赤い四角までは、もうわずかだった。



いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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