第84話「動きだす地図、選んだ先」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
アーカイブを出ても、六人の頭の中は、まだ、あの図形で、いっぱいだった。
「持ち歩いても、大丈夫だと思う?」
ミラが、聞く。
「ティリーさんも、預かるより、俺たちが、持ってた方がいい、って言ってたでござる」
ワングが、答えた。
「見えるのが、俺たちだけなら、それが、自然かもしれないな」
カインが、頷く。
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ヘクサインに戻り、一晩、休んだ。
翌日、六人は、あらためて、板を、囲んだ。
「今日、これを持って、エアに入ってみよう」
カインが、切り出す。
金属板を、カインが、懐に、しまい込む。
六人には、まだ、はっきりと、見えていた。
「持って、入ってみるしか、ないな」
カインが、皆を、見回す。
「危なくは、ないでござろうか」
ワングが、慎重に、聞いた。
「わからない。でも、ここに置いていくよりは、持って、確かめた方がいい」
カインが、答える。
「賛成」
六人の声が、揃った。
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エアの門を、くぐる。
いつもの、白い光が、視界を、包んだ。
その瞬間、懐の中で、何かが、震えた。
「板が……」
カインが、慌てて、取り出す。
金属の硬さが、指先から、消えていた。
代わりに、羊皮紙のような、柔らかい感触が、そこにあった。
だが、紙のように、頼りない感じは、しない。
指先に、確かな、重みが、残っている。
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板だったものは、もう、板ではなかった。
金属でも、紙でもない、その中間のような、不思議な質感に、変わっている。
表面に、色のついた、四角い印が、六つ、浮かび上がっていた。
赤、青、緑、黄、白、黒。
それぞれ、離れた位置に、散らばっている。
「これ……」
ミラが、覗き込みながら、息を、呑んだ。
「六つの、色。欠片も、六つ、だったよな」
ダダが、低く、呟いた。
「関係、あるのかもしれないでござるな」
ワングが、頷く。
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隅の方に、もう一つ、小さな、丸い印があった。
はっきりとは、見えない。
淡く、ほわりと、浮かび上がっては、また、薄れていく。
「これは、何の印でござろうか」
ワングが、目を、細める。
「わからない。でも、動いてる、気がする」
ネリスが、じっと、見つめながら、言った。
「動いてる、って」
カインが、聞き返す。
「気のせいかもしれないけど。さっきと、位置、違う気がする」
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「試して、みよう」
ノリアが、提案する。
「一歩、進んでみて、印が動くか、確かめる」
カインが、頷き、右へ、五歩、進んだ。
丸い印が、わずかに、右へ、動いていた。
「動いた」
ミラが、思わず、声を、上げる。
「今度は、左に」
カインが、来た道を、戻る。
印も、それに、合わせて、左へ、戻っていった。
「間違いない」
カインが、板を、両手で、持ち直した。
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いつもの通路を、進んでいく。
分岐を、いくつか、曲がった。
「見て」
ネリスが、板を、指す。
丸い印が、確かに、位置を、変えていた。
自分たちが、進んだ方向と、同じ向きに。
歩みを、速めれば、印も、速く動く。
立ち止まれば、印も、止まった。
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牙の気配がする、いつもの場所に、差しかかる。
丸い印も、そこに、重なるように、動いていた。
「来るぞ」
カインが、剣を、抜く。
十二の頭が、姿を、現した。
だが、もう、何度か、顔を合わせた、相手だった。
「頭、二つ同時に」
短い合図だけで、六人の体は、迷いなく、動いた。
炎が、駆け抜け、爪と刃が、正確に、首を、断つ。
崩れ落ちるまで、いくらも、かからなかった。
「板、大丈夫だったか」
戦いが、終わると、カインが、真っ先に、懐を、確かめる。
板は、傷一つなく、そこに、あった。
丸い印も、そこに、重なるように、動いていた。
「間違いない。俺たちの、位置と、動いてる」
ダダが、低く、呟いた。
「じゃあ、これ」
カインが、板を、持ち直す。
「地図、なのか」
「読めないはずの、エアが」
ミラが、静かに、続ける。
「読める、ようになった、ってこと?」
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「待って」
ミラが、板の隅を、指す。
丸い印が、最初にあった、あの場所に、小さな文字が、浮かび上がっていた。
かすれた、古い書体で、そう、読み取れた。
「クロスロードからの、入口」
カインが、声に出して、読む。
誰も、しばらく、口を、開けなかった。
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「これ、地図なのか?」
カインが、改めて、呟いた。
「地図でござるか。ずっと、読めない迷宮、と言われてきたのに」
ワングが、静かに、言う。
「ギルド長でさえ、地図はない、と、言っていたはずだ」
カインが、記憶を、辿るように、言った。
「読めない、はずのものが、読めるようになった。それが、あの図形の、力なのかもしれない」
ノリアが、板を、覗き込みながら、答えた。
「六つの欠片を、揃えたから、なのか、それとも」
「今は、わからない。理由より、まず、使えるかどうかだ」
カインが、皆を、見回した。
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まず、あの扉へ、向かうことにした。
何度も、押し戻された、あの場所だ。
板を、片手に、慎重に、近づいていく。
「今日は……どうだ」
カインが、息を、詰める。
一歩、また一歩。
これまでなら、視界が、揺れるはずの、距離を、越えていた。
「進んでる……!」
ネリスが、声を、上げる。
だが、扉の、すぐ手前で、足が、止まった。
見えない壁のような、抵抗が、確かに、あった。
「ここまで、か」
ダダが、盾で、そっと、押してみる。
かたい手応えが、返ってくるだけだった。
「前より、近づけた。でも、まだ、足りない」
カインが、板を、見下ろす。
扉の場所には、色のついた印は、なかった。
「ここは、地図の、行き先じゃ、ないのかもしれない」
ノリアが、静かに、言う。
「じゃあ、あの六つの四角の方に、答えがある、ってことか」
カインが、板を、握り直した。
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「じゃあ、この、六つの四角は」
ダダが、聞く。
色のついた、四角い印は、それぞれ、離れた場所を、示しているようだった。
「行き先、ってことか」
カインが、板を、傾ける。
赤い四角が、今いる場所から、比較的、近い位置に、あった。
青と緑は、遠く、離れている。
黒に、至っては、板の端に、辛うじて、映っているだけだった。
「色の意味は」
ネリスが、聞く。
「わからない。でも、近い順に、確かめていけば、いつか、わかるかもしれない」
カインが、答えた。
「危険度の、違いかもしれないでござるな」
ワングが、腕を、組む。
「あるいは、単に、遠さの、目安だけかもしれない」
「宝箱の、色みたいに、中身が、違うのかも」
ミラが、思いつきを、口にする。
「決めつけない方が、いい。行けば、わかる」
カインが、皆を、見回した。
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「危険が、ないとは、限らないでござるな」
ワングが、慎重に、言う。
「未知の場所に、地図一枚を、頼りに進む。そこは、忘れない方がいい」
「わかってる。だから、無理はしない」
カインが、頷いた。
「今日は、様子を、見るだけ、でもいい」
「近いのは、赤」
ネリスが、指す。
「意味、わからないけど、近い方から、行ってみるしか、ないよな」
ダダが、盾を、担ぎ直す。
「わからないままでも、進める。それだけで、今までとは、違う」
カインが、板を、そっと、懐に、戻した。
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「今度こそ、あの扉の先、行けるかもしれない」
ミラが、静かに、言う。
「行けるかどうかは、わからない。でも」
カインが、皆を、見回した。
「行ってみる価値は、ある」
「賛成」
六人の声が、揃う。
「ルーシェナ殿にも、報告した方が、いいでござろうか」
ワングが、ふと、聞く。
「今は、まだ。何かが、わかってからでも、遅くない」
カインが、答えた。
「ガラントさんも、昔、深いところまで、潜ってたんだよな」
ダダが、ふと、思い出したように、言う。
「地図なんて、なかったはずだ。あの人の時代にも」
「なかったから、今、こうして、揺れてるんでござろうな、俺たちも」
ワングが、静かに、頷いた。
「わからないことを、わからないまま、抱えて進む。エアに来てから、そればっかりだな」
ダダが、苦笑する。
「今日は、少し、違う。わからないなりに、頼れるものが、一つ、増えた」
ノリアが、静かに、返した。
赤い四角の方角へ、六人は、迷いのない足取りで、進み始めた。
これまで、何度も、押し戻された、あの扉が、今日は、どこまで、道を、開くのか。
それを、確かめる足取りに、迷いは、なかった。
いかがでしょうか?
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