第83話「巡る迷宮、揃う欠片」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
通路は、昨日までと、違う顔をしていた。
分岐も、天井の高さも、昨日とは、違う。
なのに、しばらく進むと、赤黒い毛並みの気配が、また、そこにあった。
「また、ここか」
ダダが、盾を、構え直しながら、低く、呟いた。
「道、変えて、進んだはずなのに」
ネリスが、耳を、伏せながら、言う。
「気づいたら、同じ場所に、戻ってる。何度目だろう、これ」
「数えてなかったのか」
カインが、聞く。
「数える気に、なれなかった」
ネリスが、正直に、答えた。
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十二の頭が、今日も、姿を、現す。
だが、六人の動きに、もう、迷いはなかった。
「頭、二つ同時に」
カインの声に、五人が、同時に、頷く。
炎が、通路を、駆け抜け、爪と刃が、正確に、二つずつの首を、断っていく。
崩れ落ちる牙の群れは、これで、何度目か、数えるのも、億劫になっていた。
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跡には、また、木箱が一つ。
「開ける」
ネリスが、蓋を、持ち上げる。
中から、あの歯車状の、金属片が、姿を、見せた。
「また、同じものが」
カインが、それを、そっと、拾い上げる。
「これで、いくつ、目でござるか」
ワングが、聞く。
「数えるの、やめてた。でも、確か、四つ目」
ノリアが、指を、折りながら、答えた。
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その先に、通路が、続いていた。
奥に、うっすらと、扉のような輪郭が、見える。
「あそこ、次の場所か」
カインが、目を、細める。
近づこうと、足を、踏み出した、その瞬間。
視界が、ぐらりと、揺れた。
気づけば、六人は、また、最初の分岐に、立っていた。
「戻された……?」
ミラが、辺りを、見回しながら、呟く。
「進めない、ってことか。あの扉に」
ダダが、低く、言った。
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理由は、わからなかった。
罠でもない。
壁でもない。
ただ、ある一点から先に、進もうとすると、押し戻されるように、元の場所に、戻される。
「今日は、これ以上、無理そうだな」
カインが、皆を、見回す。
「賛成」
六人の声が、揃った。
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クロスロードに戻り、リゼットに、これまでの経緯を、伝えた。
「同じ場所に、押し戻される、というのは」
リゼットが、書類を、めくりながら、聞く。
「前例、聞いたことないですか」
カインが、聞く。
「ないですね、少なくとも、私の知る範囲では」
リゼットが、静かに、首を振る。
「エアは、そういう迷宮です。前例のないことが、起こる場所」
その一言に、六人は、なんとなく、納得した。
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翌々日も、同じだった。
同じ分岐、同じ牙、同じ木箱。
金属片が、五つ目に、増えた。
奥の扉に、近づこうとすると、また、押し戻された。
「今日で、三度目でござるな、この繰り返し」
ワングが、静かに、言う。
「もう、慣れてきた自分が、少し、怖い」
ミラが、苦笑した。
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次の日も、その次の日も、六人は、エアの門をくぐり続けた。
四度目は、牙の群れにさえ、出会わなかった。
通路を、いくら進んでも、行き止まりに、突き当たるだけだった。
「今日は、木箱も、ない」
ネリスが、通路の隅々を、確かめながら、言う。
「何も、進んでない気がする」
ダダが、盾を、下ろしながら、漏らした。
「進んでない、というより」
ノリアが、静かに、言葉を、選ぶ。
「何かを、待たされてる、気がする」
「待たされてる、って」
カインが、聞き返す。
「うまく、言えない。でも、そんな感じが、する」
ノリアが、首を、横に振った。
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五度目も、同じだった。
牙も、木箱も、姿を、見せない。
代わりに、あの扉の輪郭だけが、いつもより、はっきりと、見えた気がした。
「気のせいか」
カインが、目を、擦る。
「気のせいじゃ、ないと思う」
ネリスが、短く、答えた。
だが、それ以上、近づくことは、できなかった。
「五回も、同じことの、繰り返しでござるな」
ワングが、静かに、言う。
「拙者は、それでも、悪くないと、思っているでござるが」
「悪くない?」
ダダが、聞き返す。
「毎回、同じ相手に、少しずつ、無駄がなくなっていく。それも、収穫でござろう」
その言葉に、六人は、少しだけ、肩の力を、抜いた。
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六度目。
通路は、これまでと、変わらないはずだった。
「今日も、同じだったら」
ミラが、歩きながら、小さく、呟く。
「同じでも、行くしかない」
カインが、答えた。
だが、牙の群れを、いつも通りに、片付けた先で、木箱の様子が、違った。
「これ……大きさ、違う」
ネリスが、蓋の縁を、確かめながら、言う。
慎重に、持ち上げる。
中から、平たい金属の板が、姿を、現した。
「歯車の、窪み……六つ、あるでござる」
ワングが、覗き込みながら、言った。
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板の表面に、円い窪みが、六つ、規則正しく、並んでいた。
大きさも、形も、これまで拾ってきた欠片と、ぴったり、一致しそうだった。
「これ、まさか」
カインが、息を、詰まらせる。
「アーカイブに、持って帰ろう。今すぐ」
誰も、異論を、挟まなかった。
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ティリーが、机の上に、六つの欠片と、一枚の板を、並べた。
「窪み、六つ。欠片も、六つ」
「合わせて、みても、いいですか」
カインが、聞く。
「もちろん。私も、見たい」
ティリーが、頷いた。
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一つずつ、欠片を、窪みへ、当てはめていく。
かちり、かちり、と、小さな音が、静かな部屋に、響いた。
五つ目まで、迷いなく、収まった。
部屋の空気が、いつの間にか、張り詰めていた。
誰も、口を、開かなかった。
最後の一つを、カインが、そっと、押し込む。
かちり。
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板全体が、淡く、光った。
六つの歯車が、噛み合うように、わずかに、回る。
浮かび上がったのは、これまで見たことのない、幾何学的な、一つの図形だった。
線と線が、複雑に、絡み合っている。
どこかで、見たことがあるような、ないような、不思議な形だった。
「これは……」
ティリーの声が、途中で、止まった。
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「どうしました?」
カインが、聞く。
ティリーが、板があるはずの場所に、手を、伸ばす。
だが、その手は、何もない空間を、なぞるように、宙を、掴んだ。
「見えない」
ティリーが、低く、言う。
「え?」
「板も、図形も。今、私には、何も、見えていない」
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六人は、顔を、見合わせた。
「俺たちには、見えてます。ここに、確かに」
ダダが、板の縁を、指で、なぞる。
硬い感触が、確かに、そこにあった。
「触れて、いるのに……見えない、なんて」
ティリーが、机に、手をついたまま、動かなくなる。
「あなたたち六人だけに、見えているもの、ってこと?」
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誰も、すぐには、答えられなかった。
図形は、静かに、光り続けていた。
六人にしか、見えない光を、宿したまま。
「他の人も、呼んで、試してみましょうか」
カインが、提案する。
ティリーが、頷き、資料室の奥から、別の司書を、連れてきた。
「ここに、板がある。見えますか」
カインが、位置を、示しながら、聞く。
新しい司書は、しばらく、目を、凝らしていたが、やがて、首を振った。
「何も、ありません。机だけです」
「私にも、見えない」
ティリーが、繰り返す。
「でも、六人には、見える。触れもする」
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「触るのは、俺が」
ダダが、板の縁を、もう一度、指で、なぞってみせる。
「硬い。ちゃんと、ある。俺には」
ネリスが、そっと、同じ場所に、爪先を、触れさせた。
「私にも」
「拙者にも、はっきりと」
ワングが、続ける。
「六人だけ、ってことは、あの証と、何か、関係あるのかもしれない」
ミラが、自分の手の甲を、そっと、見つめながら、言った。
「六弁の花」
誰も、その先を、続けなかった。
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「これも、記録しておいた方が、いいですよね」
ミラが、静かに、言う。
「する。でも、どう書けばいいのか、今は、わからない」
ティリーが、正直に、答えた。
その声には、初めて、戸惑いが、滲んでいた。
「見えないものを、見えないまま、記録する。そんなこと、今まで、なかった」
ティリーが、ペンを、手に取ったまま、しばらく、動かせずにいた。
「私たちが、見たまま、伝えます」
カインが、言う。
「それで、いいなら」
「それで、十分。今は、それしか、方法がない」
ティリーが、ようやく、ペンを、動かし始めた。
図形は、六人の目にだけ、静かに、光り続けていた。
その意味を、誰も、まだ、知らないままに。
いかがでしょうか?
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