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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第二部 迷宮エア編 一層

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第82話「重なる欠片、届かない答え」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

ティリーが、二つの欠片を、机の上に、並べて置いた。


古い方は、紙に包まれ、少し色褪せている。


新しい方は、まだ、光沢を保ったままだった。


「これが、エアで」


ティリーが、新しい欠片を、指先で、そっと押さえる。


「はい。宝箱の、中に」


カインが、頷いた。


「深廊の、あれと、同じ場所で見つけたわけじゃ、ないんですよね」


---


ティリーが、両方の欠片を、光にかざす。


じっと、見比べる。


「質感、同じ」


「やっぱり、そうですよね」


ダダが、覗き込みながら、言う。


「表面の、歯車みたいな刻み方も、寸分違わない」


ティリーが、続けた。


指先で、刻みの一つを、なぞる。


「摩耗の具合まで、似てる。新品じゃない、っていうのは、共通してる」


---


「ということは、材質だけじゃなく、加工した誰か、あるいは、何かも、共通してる、ってことでござるか」


ワングが、静かに、問う。


「そこまでは、まだ、言えない」


ティリーが、首を、横に振った。


「同じ材質から、別々に、似た形が作られた、って可能性も、消えない」


「一つの、消えた世界から、こぼれ落ちたもの、って線は」


ノリアが、聞く。


「あり得る、とは思う。前に、そう言ったのも、覚えてる」


ティリーが、頷く。


「でも、思う、と、わかる、は、別のことだから」


「その、消えた世界って、どれくらい、あるんですか」


ミラが、ふと、聞く。


「数えきれない、としか、言えない」


ティリーが、答える。


「マランに、混ざり込んだ分だけでも、記録が追いつかないくらいには」


---


「ノアと、エア。まったく違う迷宮に、同じものが、埋まってる」


ノリアが、腕を、組む。


「偶然、じゃ、なさそうだけど」


「偶然か、必然か。それを、決めるだけの材料が、まだ、足りない」


ティリーが、記録帳に、何かを、書き足しながら、答えた。


「二つの迷宮が、繋がってる、とも、まだ、言えない。似たものが、たまたま、両方に紛れ込んだ、って可能性も、残ってる」


---


「用途は、やっぱり」


ミラが、聞く。


「わからない」


ティリーが、はっきりと、答えた。


「歯車の形はしてる。でも、何かの一部だとしても、その何かが、見えてこない」


「わからないままか」


ダダが、小さく、息を吐く。


「わからないままだよ、これは」


ティリーが、繰り返した。


「記録には、二つ目の実例として、残しておく。同じものが、また出てきたら、教えて」


「必ず」


カインが、頷いた。


---


欠片を預けた足で、六人は、アプレイザルにも、寄った。


エアで拾った、あの魔石を、鑑定士の前に、差し出す。


「エアの、初サンプルです」


カインが、少し、誇らしげに、言う。


鑑定士が、魔石を、しばらく、見つめた。


「質としては、ノアの九層あたりに、近い。ただ、色の出方が、独特だ」


「独特、というのは」


「まだ、分類名がない。詳しくは、追って、報告する」


その返事に、六人は、顔を、見合わせた。


「わからないことが、また、一つ増えた、だけみたいだな」


ダダが、苦笑する。


「増えるのも、悪くない」


ネリスが、短く、返した。


---


夜が明け、六人は、再び、エアの門をくぐった。


昨日の記憶を、頼りに、通路を、進んでいく。


「ここ」


ネリスが、ふと、足を、止めた。


「昨日と、同じじゃないか」


見覚えのある、分岐。


赤黒く、絡み合った、あの毛並みの気配が、通路の奥に、また、あった。


---


「エア、毎回、構造が、変わるはずでござろう」


ワングが、低く、呟く。


「昨日と、今日で、同じ場所に、繋がった。理由、わからないけど」


カインが、剣を、抜きながら、答えた。


「アーカイブに、これも、報告した方がいいのか」


ダダが、聞く。


「した方がいい。でも、今は、それより、目の前だ」


カインが、皆を、見回す。


「毎回、変わるはずの迷宮が、二日連続で、同じ道に、繋がった」


ミラが、静かに、繰り返す。


「意味が、ある、のかな」


「あるかもしれないし、ないかもしれない」


ノリアが、答える。


「今、決めつけない方が、いい」


「昨日、覚えたやり方で、いくぞ」


---


十二の頭が、再び、姿を、現す。


だが、今日の六人には、昨日にはなかった、判断の速さがあった。


「頭、二つ同時に、狙う」


カインが、短く、告げる。


「昨日、それで、決着つけたからな」


ダダが、盾を、構え直した。


「先手、いくぞ」


ノリアが、両手を、翳す。


---


「業火弾」


炎が、通路いっぱいに、広がる。


十二の頭が、一斉に、怯んだ。


「昨日と、同じ、効き方」


ネリスが、低い姿勢のまま、呟いた。


「なら、迷わず、いける」


カインが、剣を、握り直す。


---


「ダダ、前へ」


「任せろ!」


ダダが、通路の中央に、立ちはだかる。


牙の群れが、押し寄せる、その勢いを、正面から、受け止めた。


「今日は、隙間、作らせない!」


盾の縁が、次々と、牙を、弾き返していく。


昨日より、明らかに、足の運びが、安定していた。


---


「今、行く!」


ネリスが、群れの脇を、駆け抜ける。


一頭の首元に、爪を、突き立てた。


同時に、もう片方の首へ、逆の手を、振り抜く。


二つの首が、同時に、力なく、垂れた。


「決まった、一度で!」


「昨日の、教訓、活きてるでござるな」


ワングが、静かに、感心する。


---


「拙者も」


ワングが、静かに、踏み込む。


「二つ、同時に」


刀が、二つの首を、続けざまに、斬り払った。


「昨日より、速い」


カインが、剣を、突き入れながら、笑う。


「昨日、覚えた分、今日は、無駄がない」


跳んで回り込もうとした一頭にも、今日は、誰も、遅れなかった。


「そっち、来ると思ってた!」


ネリスが、先回りして、跳ねる影を、爪で、迎え撃つ。


---


十二の牙は、そう長くかからず、静かに、崩れ落ちていった。


誰も、深い傷を、負っていない。


「今日は、怪我なし」


ミラが、皆を、見回しながら、言う。


「昨日の、分だな、これは」


ダダが、盾を、下ろしながら、頷いた。


「同じ相手でも、二度目は、ここまで、違うものか」


カインが、剣を、鞘に納めながら、呟く。


---


倒れた獣たちの跡に、また、あの色をした魔石が、残されていた。


「あれも、あるでござるか」


ワングが、通路の隅を、指す。


小さな木箱が一つ、昨日と、よく似た場所に、置かれていた。


「罠、確かめる」


ネリスが、慎重に、蓋の縁へ、爪を、伸ばす。


しばらく、じっと、探るように、動きを止める。


「今日も、いつもと、感触が、違う」


---


蓋を、そっと、持ち上げる。


中から、鈍い光を放つ、小さな金属片が、姿を、現した。


「また、同じものが」


カインが、それを、そっと、手に取る。


昨日、アーカイブへ預けた、あの二つと、寸分違わぬ、質感だった。


「三つ目、でござるな」


ワングが、静かに、言った。


「三つ目。ここまで来ると、偶然とは、思えない」


ノリアが、低く、呟く。


「同じ場所、同じ相手、同じ欠片。全部、揃いすぎてる」


---


その日の探索を終え、六人は、金属片を、アーカイブへ、持ち込んだ。


ティリーが、それを、受け取り、じっと、見つめる。


「同じ、材質」


「わかりましたか、何か」


カインが、身を、乗り出す。


ティリーが、三つの欠片を、並べて、光にかざした。


しばらく、黙ったまま、指先で、表面を、なぞり続ける。


---


「わからない」


やがて、そう、答えた。


「これで、三つ揃った。それでも、正体には、まだ、届かない」


「三つも、あるのに」


ダダが、小さく、漏らす。


「数が、増えたことと、答えが、見えることは、別」


ティリーが、静かに、言う。


「記録には、しっかり、残しておく。今、言えるのは、それだけ」


「同じ場所に、また繋がったことも、書いておいてもらえますか」


カインが、付け加える。


「もちろん。それも、いつか、繋がるかもしれないから」


ティリーが、記録帳の、新しいページを、開く。


「エアの、同じ座標に、二日続けて、繋がった。欠片も、同じ場所で、三度、出た。両方とも、記録として、残しておく」


「それが、繋がるかどうかも、まだ、わからない、ってことですよね」


ダダが、確かめるように、言う。


「わからない。でも、わからないことを、わからないまま、放っておくのと、記録に残しておくのとでは、違う」


ティリーが、そう、言い切った。


その答えに、六人は、不思議と、慣れた様子で、頷いた。


いかがでしょうか?


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よろしくお願いいたします。

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