第81話「十二の牙、崩れぬ壁」
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睨み合いは、そう長くは、続かなかった。
先に動いたのは、影の側だった。
「来る……!」
ネリスが、鋭く、叫ぶ。
通路の奥から、犬のような輪郭が、次々と、姿を現す。
一頭、また一頭。
その数が、六に達した時、六人は、揃って、息を呑んだ。
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「頭が……二つ、あるでござるか」
ワングが、低く、呟いた。
犬の首が、それぞれ、二つずつ。
合わせて、十二の顎が、同時に、牙を剥いていた。
「六頭で、十二の頭、か」
カインが、剣を、抜きながら、言う。
「数え方、ややこしいな」
「数えてる、場合か」
ダダが、盾を、構え直しながら、答えた。
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体格は、ノアの獣型より、一回り、大きい。
赤黒い毛並みが、二つの首の付け根で、絡み合うように、繋がっていた。
「二つの首、連動してる、みたいだ」
ノリアが、目を、細めながら、言う。
「片方が、隙を作れば、もう片方が、すぐに、埋める」
「厄介な、造りでござるな」
ワングが、静かに、頷いた。
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十二対の眼が、それぞれ、微妙に、違う方向を、見ていた。
「囲まれる、前に、動く」
カインが、皆を、見回す。
「型、いつも通りで、いけるか」
「いける」
ダダが、短く、答えた。
「呪文、温存せず、いくぞ」
カインが、続ける。
「相手の出方が、まだ、読めない以上、最初から、全力で叩く」
「賛成」
ノリアが、頷いた。
「先手、いくぞ」
ノリアが、両手を、前に、翳す。
「業火弾」
炎の弾が、通路いっぱいに、広がった。
十二の頭が、同時に、怯み、後ずさる。
「効いてる!」
ネリスが、声を上げた。
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「もう一発!」
カインが、続けて、剣を、下げたまま、詠唱する。
「業火弾」
二発目の炎が、群れの中心を、再び、飲み込んだ。
「怯んでる、今のうちに!」
カインが、叫ぶ。
炎の余韻が、通路に、まだ、燻っていた。
十二の頭のうち、いくつかが、まだ、身をすくめたまま、動けずにいる。
「今のうちに、削れるだけ、削るぞ」
カインが、皆に、告げた。
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「ダダ、前へ」
「了解!」
ダダが、盾を構えて、通路の中央に、立ちはだかる。
十二の牙が、一斉に、押し寄せてきた。
「来い……!」
盾が、正面から、その勢いを、受け止める。
「重い、けど、耐えられる!」
ダダの足が、わずかに、沈んだが、崩れなかった。
「これ以上、通さない!」
盾の縁を、次々と、牙が、掠めていく。
その度、鈍い音が、通路に、響いた。
「隙間、抜けさせるな!」
ダダが、盾を、じりじりと、押し広げながら、叫んだ。
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「隙、見えた」
ネリスが、低い姿勢のまま、群れの脇を、駆け抜ける。
怯んでいた一頭の首元に、鋼の爪が、正確に、突き刺さった。
一つの首が、力なく、垂れる。
「もう一つの首も!」
続けて、爪が、もう片方の首を、深く、切り裂いた。
崩れ落ちる、一頭目。
「決まった!」
二つの首が、同時に、落ちなければ、意味がない、と、ネリスは、瞬時に、悟っていた。
片方だけ、仕留めても、もう片方が、すぐに、噛みついてくる。
その動きは、これまでの、どんな敵とも、違う判断を、要求していた。
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「俺も!」
カインが、ダダの脇から、踏み込む。
怯んで動きの鈍った、別の一頭へ、剣を、突き刺した。
「効いてる!」
刃が、犬の胴を、深く、貫いていく。
だが、もう一つの首が、カインの腕を、狙って、牙を、剥いた。
「危ない!」
ダダが、横から、盾で、その牙を、弾き返す。
「助かった!」
カインが、剣を、引き抜きながら、答えた。
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「拙者も、続く」
ワングが、静かに、詠唱する。
「業火弾」
三発目の炎が、残る群れの側面を、大きく、焼いた。
炎に、まともに巻き込まれた、三頭が、力なく、崩れ落ちていく。
「三頭、倒れた!」
ミラが、叫ぶ。
「残り、三頭!」
戦況が、大きく、傾き始めていた。
だが、残る三頭の動きは、それまでとは、明らかに、変わっていた。
真正面から、来なくなっていた。
「散った……!」
ネリスが、耳を、伏せながら、叫ぶ。
三頭が、それぞれ、別の方向へ、回り込み始めていた。
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だが、油断する間もなかった。
ダダの盾を、大きく、跳び越える影があった。
「一頭、跳んだ……!」
ネリスが、叫ぶ。
その一頭が、そのまま、後方のミラへと、真っ直ぐ、飛びかかる。
「ミラ、危ない!」
カインの声が、届く前に、牙が、ミラの肩を、深く、捉えていた。
「痛……っ!」
ミラが、短く、声を上げ、その場に、崩れ落ちる。
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「ミラ!」
カインが、思わず、叫ぶ。
「ノリア、頼む!」
「わかってる……!」
ノリアが、素早く、犬に、狙いを定めた。
「雷殺!」
雷が、一撃で、犬の二つの首を、同時に、貫いた。
崩れ落ちる、四頭目。
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「ミラ、大丈夫か!」
ダダが、盾を構えたまま、後方に、声をかける。
「大丈夫……!動ける!」
ミラが、肩を押さえながら、答えた。
その声は、確かに、痛みを、堪えていた。
だが、まだ、戦える声だった。
「無理は、するな!」
カインが、叫ぶ。
「してない……!今は、これくらい、動ける!」
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「残り、二頭」
ネリスが、静かに、告げる。
散った二頭は、それぞれ、左右の壁際を、回り込むように、動いていた。
「拙者と、ダダ殿で、一頭」
ワングが、刀を、構え直しながら、言う。
「承知!」
ダダが、頷き、盾で、犬の正面を、押し込んでいく。
犬が、二つの首を、交互に、突き出しながら、隙を、窺ってきた。
「片方が、来たら、もう片方に、備えよ」
ワングが、静かに、告げる。
「わかってる」
ダダが、答えた瞬間、片方の首が、盾へ、深く、噛みついた。
「今!」
その隙に、ワングの刀が、素早く、二つの首を、続けざまに、斬り払った。
「決まった!」
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「最後、一頭!」
カインが、叫ぶ。
最後の一頭は、二つの首を、それぞれ、逆方向に、振り立てながら、後ずさっていた。
正面から、突っ込めば、両方の牙を、同時に、受けることになる。
「囲むぞ」
カインが、短く、告げる。
「ネリス、俺と、一緒に!」
「任せて」
ネリスが、低い姿勢のまま、犬の側面へ、回り込む。
カインが、正面から、剣を、突き出した。
犬が、その刃を、避けようと、身をひねった、その瞬間。
「今!」
ネリスの爪が、無防備になった首元へ、深く、突き刺さる。
同時に、カインの剣が、もう一方の首を、貫いた。
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十二の牙は、静かに、崩れ落ちていった。
「終わった……のか」
カインが、剣を支えに、大きく、息をつく。
「終わった」
ダダが、盾を、下ろしながら、頷いた。
「ミラ、傷、見せてくれ」
カインが、すぐに、駆け寄る。
「見て、大丈夫だから」
ミラが、そう言いながらも、肩を、そっと、押さえていた。
浅くはない、爪の痕が、そこに、残っていた。
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「動かないで。今、癒す」
ミラが、自分の肩に、右手を、かざす。
「浄光」
淡い光が、傷口を、静かに、包んでいった。
痛みが、少しずつ、和らいでいく。
「効いてる、みたいだな」
ダダが、覗き込みながら、言う。
「効いてる。でも、完全には、塞がってない」
ミラが、正直に、答えた。
「跳ばれた瞬間、避けられなかった、から」
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「跳ぶ動き、今までの魔物には、なかったでござるな」
ワングが、静かに、言う。
「盾一枚じゃ、防ぎきれない相手も、いるってことか」
ダダが、低く、呟く。
「反省点、多いな、初戦から」
カインが、苦笑しながら、言った。
「反省点じゃなくて、収穫」
ネリスが、短く、言い直す。
「知らなかったこと、一つ、知れた」
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「エアの、最初の相手、これか」
カインが、剣を、鞘に納めながら、低く、呟いた。
誰も、それに、答えなかった。
答えの代わりに、六人は、それぞれ、荒い息を、静かに、整えていった。
倒れた獣たちの跡には、これまで見たことのない色をした魔石が、静かに、残されていた。
「持ち帰って、アプレイザルに、見せよう」
カインが、魔石を、拾い上げながら、言う。
「エアの魔石、初めての、サンプルだ」
「ティリーさん、喜びそうでござるな」
ワングが、静かに、言った。
「喜ぶ前に、ミラの傷、ちゃんと診てもらうのが、先だ」
ダダが、釘を刺すように、言う。
「わかってる」
ミラが、苦笑しながら、答えた。
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「あれ」
ネリスが、通路の隅を、指す。
視線の先、小さな木箱が一つ、壁際に、ひっそりと、置かれていた。
「宝箱、こんな場所にも、あるんでござるな」
ワングが、意外そうに、言う。
「罠、確かめる」
ネリスが、慎重に、蓋の縁へ、爪を、伸ばした。
しばらく、じっと、探るように、動きを止める。
「……ない、と思う。でも、いつもと、感触が、違う」
「違う、って」
カインが、聞く。
「うまく、言えない。罠自体が、隠れてる、って感じじゃなくて」
ネリスが、首を傾げながら、答えた。
「箱そのものが、何か、違う気がする」
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慎重に、蓋を、持ち上げる。
中から、鈍い光を放つ、小さな金属片が、姿を、現した。
「これ……」
カインが、思わず、声を、詰まらせる。
見覚えのある、質感だった。
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「ノアの、深廊で拾った、あれと、似てないか」
ダダが、覗き込みながら、言う。
「似てる、どころか」
カインが、金属片を、そっと、手に取る。
「同じ、質感だ」
ノアで拾い、アーカイブに預けたまま、正体の知れずにいた、あの欠片と、寸分違わぬ、光沢だった。
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「なぜ、エアにまで、同じものが」
ミラが、静かに、言う。
「わからない」
カインが、正直に、答えた。
「わからないけど……アーカイブの、あの欠片と、突き合わせる価値は、ある」
「持ち帰って、ですか」
ワングが、聞く。
「持ち帰って。二つ揃えば、何か、わかるかもしれない」
カインが、金属片を、大事そうに、袋へ、しまい込んだ。
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通路の奥には、まだ、見えない先が、静かに、続いていた。
「今日は、ここまでにしよう」
カインが、皆を、見回す。
「賛成」
六人の声が、揃った。
手にした、正体不明の欠片が、二つ、静かに、繋がろうとしていた。
その意味を、まだ、誰も、知らないままに。
いかがでしょうか?
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