第7話「揃えた分だけ」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
「適性確認、お願いします」
ミラージュの受付に、四枚の申請書を並べる。
「盾役、斥候、魔術師、便利屋のまま。……揃いも揃って、バラバラですね」
「バラバラですが、本気です」
カインが言う。
「通るかどうかは、確認してからですね」
小人族の職員が、書類をめくりながら言った。
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模擬迷宮は、思ったより本物に近かった。
石壁も、魔石の光も、ノアの一層とほとんど変わらない。
「これ、本当に模擬なのか」
カインが言う。
「魔導生物ですから。痛くはないですよ、たぶん」
たぶん、が少し不安だった。
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ダダが先に呼ばれる。
盾を構え、模擬のゴブリンと打ち合う。
数合のやり取りのあと、職員が頷いた。
「盾役、問題なしです。今の動きなら、伸びしろも十分」
「たぶん、じゃなくなったな」
カインが言う。
「たぶんじゃない」
短い返事に、迷いがなかった。
(もう、たぶんとは言わない)
自分の中で、その一言に決着がついた気がした。
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ネリスの番。
壁を蹴り、模擬のコウモリを爪で叩き落とす。
「うわ、速い」
職員が、少し驚いた声を出した。
「斥候、適性以上ですね。むしろ今まで選んでなかったのが不思議なくらい」
「色々あったので」
色々、で流された。
職員も、それ以上は聞かなかった。
(今日も、ここで終わってくれてよかった)
ネリスは、それだけを思っていた。
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ノリアは、模擬のスライムに向かって手をかざす。
「ファイア」
小さめの爆発だった。
模擬迷宮に配慮しているのが分かる。
「魔術師、継続で問題ありません。……階梯の伸びについては、既に把握されている通りかと」
「知ってます」
短い返事に、諦めではない何かが混じっていた。
(伸びなくても、選んだのは自分だ)
その考えは、もう何度も繰り返してきたものだった。
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最後に、カインの番だった。
錆びた短剣を避け、一撃を返す。
「便利屋のままの継続、ですね」
「はい」
「戦闘・罠解除・交渉、いずれも平均以上。突出はなし、と」
言われ慣れた評価だった。
「未選択のまま続ける場合、伸びの鈍さは変わりません。それでもよろしいですか」
「よろしいです」
よろしくなかった、と言えば嘘になる。
でも、今日はそう答えると決めていた。
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四人分の適性確認が終わり、クロスロードに戻って書類を提出する。
「これで、正式に登録完了です」
判が四つ、並んで押された。
「盾役、斥候、魔術師、便利屋。……揃いも揃って、バラバラですね」
「さっきも言われました」
カインが言う。
「言いたくなるくらい、珍しいので」
職員が、小さく笑った。
「バラバラで正式です」
「正式ですか、それ」
小人族の職員が、書類に判を押していく。
四つの判が並ぶと、なんだか妙な達成感があった。
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門をくぐる。
新しい防具が、まだ少し硬い。
「動きにくくない?」
「馴染めば平気らしい」
ダダの親戚が、そう言っていた。
信じるしかなかった。
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一体目、スライム。
「ファイア」
一言で終わる。
いつも通りの光景に、いつもと違う四人が立っていた。
「盾役、初日にしては」
カインが言う。
「初日じゃない。何日目だ、もう」
ダダが返す。
「さあ」
「知らないのかよ」
「数えてない」
少なくてもカインは、数えていなかった。
数える余裕はなく、まだ先は長い。
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二体目、ゴブリン。
錆びた短剣が、カインの胸元を狙ってくる。
避けようとして、避けきれなかった。
「うわ」
こつん、と鈍い音。
刃が、胸当てで止まっていた。
「……あれ」
「防具、仕事したな」
ダダが、にやりとする。
「仕事したな、じゃなくて、俺が助かった」
事実、助かっていた。
昨日までなら、また血を見ていたところだった。
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三体目、四体目、コウモリ型。
「ノリア」
カインが呼ぶ。
「まだ二回目取っておく」
「珍しいな、渋るの」
「今日は長丁場になる気がするから」
(この感覚は、たぶん外れない)
勘なのか計算なのか、ノリア自身にも判別しにくい台詞だった。
ネリスが跳んで、爪で一体を叩き落とす。
もう一体は、ダダの盾が受け止めた。
「盾、痺れないんだな」
カインが言う。
「打ち直したからな」
そう、胸を張るダダ。
珍しい風景だ。
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五体目のあたりから、数える気力が薄れてきた。
「何体目だっけ」
カインが言う。
「数えてない」
ネリスが返す。
「数えろよ、誰か」
「魔石の数、数えればいい」
ノリアの正論に、誰も返せなかった。
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袋の中で、魔石が擦れる音がどんどん増えていく。
親指の先くらいのが、十を超えたあたりで、ネリスの声が変わった。
「今日、いつもと違う」
「違うって?」
「まだ、いける気がする」
いける気がする、というのは、たいてい危険な兆候だった。
でも、確かにいける気がする。
(体は、まだ動く。でも――)
その「でも」の先を、ネリスはまだ言葉にしなかった。
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何体目か数えていないかった。
数体のゴブリンを倒す。
「ダダ、腕平気か」
カインが聞く。
「平気」
ふふんと笑った彼は、平気そうだった。
新しい盾のおかげか、昨日のような痺れは見えない。
「ノリア、息切れてないか」
「切れてる。けど、まだいける」
いけると言った声が、少し掠れていた。
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何体目かのゴブリンで、ようやく限界の兆しが出た。
「ネリス、動き遅くなってるぞ」
カインが言う。
「遅くなってない」
ネリスはそう返してきたが、実際は遅くなっていた。
跳ぶ高さが、さっきより明らかに低い。
「休むか」
「休まない」
休まないと言った直後、膝がわずかに揺れた。
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次のゴブリンを、カインとダダで押し切る。
腕に、鈍い疲労感が積もっている。
胸当てのおかげで傷こそないが、疲れは防具でどうにもならない。
「これで、十個は超えたはずだ」
カインが言う。
「超えた。数えてないけど、超えた」
数えていないのに、確信だけはあった。
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大きめの獣型が現れる。
「これ、二層のやつと同じ種か」
「「たぶん」」
ノリアとネリスが叫ぶ。
「たぶんで行くのか?」
「行くしかない」
ダダの声に、迷いはなかったが、余裕もなかった。
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ノリアが手をかざす。
「ファイア」
爆発が、いつもより小さかった。
「三回目、いった」
「大丈夫か」
カインが聞く。
「大丈夫」
ノリアは、そう言ったが大丈夫ではなかった。
手が、はっきりと震えている。
(あと少し、耐えないと)
自分の手を見つめながら、それだけを思っていた。
ノリアのファイアを喰らった魔物の獣型が崩れる。
親指の先より一回り大きい魔石が、転がった。
「よし」
カインが言う。
「よしって、全員、限界だろ」
「限界。認める」
ネリスが素直に認めたのは、今日が初めてだった。
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「戻るぞ」
ダダの一言に、誰も逆らわなかった。
逆らう体力も、残っていなかった。
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帰り道、誰も口を開かなかった。
足音だけが、通路に反響している。
「今日、何体倒したんだっけ」
カインが言う。
「知らない」
「数えろよ」
「「「無理」」」
全員、無理だったみたい。
数える余力さえ、残っていなかった。
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門をくぐって、外に出る。
日はとっくに傾いていた。
「今日、長かったな」
カインが言う。
「長かった。けど」
「けど?」
「怪我、してない」
してなかった。
全員、掠り傷ひとつない。
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「防具、効いたな」
「効いた」
「効いたな」
「「「効いた」」」
珍しく、全員が同じ結論に、迷わずたどり着いた。
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「魔石も、たぶん過去最高」
「たぶんじゃなくて、確実に最高」
「数えてないのに、確実なんだ」
「確実な気がする、でいい」
いい加減な理屈だったが、誰も訂正しなかった。
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ヘクサインまでの道を、四人で歩く。
足取りは重かったが、口数だけは減っていなかった。
「明日は休むか」
「休む」
「休みたい」
「休むしかない」
四人の声が、今日も揃った。
疲れ果てた声で揃うのも、それはそれで悪くなかった。
いかがでしょうか?
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