第6話「揃えるもの、決めるもの」
マランの世界、連続投稿中です。
毎日、数話の連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
エクスチェンジの窓口、今日は空いていた。
「昨日の分、まとめてで」
カインが言う。
「多いですね」
「多かったんです、色々あって」
職員が魔石を並べていく。
親指の先くらいのが並ぶ中に、一回り大きいのが混ざっている。
「これ、二層のですか」
「二層の、ちょっと厄介なやつの」
「なるほど」
なるほど、で流されたが、あの厄介さは数字だけでは伝わらない気がした。
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金額を見て、四人で覗き込む。
「昨日よりは、まし」
「まし、で満足していいのか俺たち」
カインが言う。
「贅沢言うな」
ダダの的確な一言に、誰も返せなかった。
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「フォージタウン、行くぞ」
ダダが先に立つ。
四人とも、いつもより、足取りが軽い気がした。
「実家に帰るみたいな顔してるな」
ネリスがダダに突っ込み。
「してない」
いやいや。
ダダの顔は言われる通りの顔を見せていた。
(べつに、そういうわけじゃない)
本人にそのつもりはなかったが、顔には出ていた。
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フォージタウンは、朝から鎚の音が響いていた。
炉の熱気が、通りにまで漂ってくる。
ダダの一族の工房は、その中でも一番奥にあった。
「おう、ダダ、久しぶりだな」
年配のドワーフが、鎚を置いて顔を上げた。
ダダの親戚らしい。
「防具、見に来た」
「珍しいな、お前が誰かの分まで頼むの」
「別に、珍しくない」
ちょっと照れくさそうなダダは、珍しい。
顔が、ほんの少し赤い。
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「まずダダの盾からだな」
「俺の盾は間に合ってる」
拗ねるダダも、これまた珍しい。
「間に合ってても、二層のあれ受けて、手が痺れてただろ」
「痺れてない……」
いやいや、痺れていたよホント…と思うカイン。
昨日、ノリアもしっかり見ていた。
「新しいの、打ってもらえ」
カインが畳みかける。
「……まあ、少しは考える」
言われて、ダダの表情は、変わっていく。
少しどころではなく、目が輝いていた。
(本当は、打ちたい――)
自分の道具への欲が、意地より少し勝っていた。
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「次、ネリス」
「私?」
「お前、防具なさすぎ」
「身軽さが命」
「命の前に死ぬぞ、それじゃ」
ダダとネリスのやり取りが続くが、言い返せなかったらしく、ネリスの耳が伏せる。
「…じゃあ、軽くて、脇腹と背中を守れるやつがいい」
「斥候向けの装備なら、こっちだな」
年配のドワーフが、革と金属を組み合わせた胴当てを出してきた。
「軽いのに、これ結構硬いね」
ネリスが叩いてみて、目を丸くする。
「魔石加工した革だ。二層くらいの爪じゃ抜けん」
「抜けない自信、頼もしい」
頼もしいと言いつつ、値札を見て顔が少し曇った。
「ちょっと、高い……」
「出せないわけじゃない。それにしろ」
カインが強引に言うと、ちょっと嬉しそうだった。
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「最後、カイン」
「俺?」
「お前が一番、装備軽い」
「便利屋だからこそ、動きやすさが」
「動きやすさの前に、腕から血、出してただろ」
ネリスに指摘された。
確かに、出血していた。
反論できる材料が、手元にない。
「胸当てだけじゃ、駄目なんだよな」
「腕と、足の付け根。そこ、みんな薄い」
ダダの親戚が、革の腕当てを二の腕に合わせてくる。
「これくらいなら、動きは阻害しない」
「阻害しないなら、いいか」
「いいか、じゃなくて、必要!!」
ノリアの一言に、反論の余地はなかった。
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四人分の見積もりを出してもらう。
「……思ったよりする」
「魔石、まとめて売った意味あったな」
「あったんじゃなくて、なくなる」
なくなった。
袋の中身が、目に見えて軽くなる音がした。
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「それでも、揃えとけ」
ダダの親戚が、腕を組んで見てくる。
「今回みたいなの、また来るぞ」
今回みたいなの、というのがどれのことか、四人とも分かっていた。
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装備を受け取って、外に出る。
新しい革の匂いが、まだ馴染んでいない。
「軽い」
「軽いのに、硬い」
「硬いのに、動ける」
三人が、順番に感想を漏らした。
カインだけ、まだ袖に慣れずにいた。
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フラグメンツに寄ると、ガラントがすぐに気づいた。
「おお、新調したのか」
「フォージタウンで」
「似合ってるじゃないか」
「似合ってるのはダダだけです」
カインが言う。
「私も似合ってる」
ネリスもダダも似合っていた。
誰も否定しなかった。
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「で、どうなんだ、職業の方は」
ガラントが、グラスを拭きながら聞いてくる。
いつもの流れだった。
だが今日は、いつもと少し違う空気があった。
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「盾役、正式に届ける」
ダダが、それだけ言った。
「たぶん、じゃないのか」
「もう、たぶんじゃない」
短い言葉に、迷いがなかった。
(新しい盾のせいか、それとも――)
理由は、ダダ自身にもうまく言葉にできなかった。
新しい盾のおかげか、それとも別の理由か、誰も聞かなかった。
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「ネリスは」
「斥候で」
即答だった。
「早いな、今日は」
「防具まで揃えて、まだ決めないのは、締まりがない」
締まりがない、という理由が、ネリスらしいような、らしくないような。
「色々ついてくるやつは」
「ついてくればいい。今更だから」
今更、の一言に、覚悟のようなものが混じっていた。
(今更、怖がってても始まらない)
心の中だけで、ネリスはそう区切りをつけていた。
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「ノリアは、もう選んでるしな」
「もう、ね」
ノリアが、いつも通り素っ気なく答える。
「伸びなくても?」
「伸びなくても、選んだのは私だから」
素っ気なさの中に、ほんの少しだけ強さがあった。
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「カインは」
全員の視線が、カインに集まる。
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「便利屋のままでいく」
言い切った。
「まだ言うか、それ」
「まだじゃない。もう決めた」
「決めたって、変わってないだろ」
「変わってない。でも、まだ決めずに行く」
選ばないことを決める、というのは、傍から見れば同じに見えるかもしれない。
だが、今日のカインにとっては、確かに違うものだった。
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ガラントが、少しの間、こっちを見ていた。
「そうか」
それだけ言って、グラスを磨く手を戻した。
否定も肯定もしない相槌が、今日はちょうどよかった。
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四人で、それぞれの職業を口にする。
盾役、斥候、魔術師、便利屋。
バラバラのようで、四つ並ぶと、なぜか収まりがよかった。
「明日から、正式にそれぞれの職だな」
「正式に」
「正式にって言うと、急に緊張する」
緊張していたのは、カインだけではなかった。
四人とも、少しだけ背筋が伸びていた。
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酒場を出ると、夜風が新しい革の匂いを運ぶ。
「明日は、どこ行く?」
「一層から、また」
「また一層」
「積み重ねだから」
積み重ね、という言葉が、今日は妙にしっくりきた。
四人で、宿の明かりに向かって歩いた。
いかがでしょうか?
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