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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第6話「揃えるもの、決めるもの」

マランの世界、連続投稿中です。

毎日、数話の連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

エクスチェンジの窓口、今日は空いていた。


「昨日の分、まとめてで」


カインが言う。


「多いですね」


「多かったんです、色々あって」


職員が魔石を並べていく。


親指の先くらいのが並ぶ中に、一回り大きいのが混ざっている。


「これ、二層のですか」


「二層の、ちょっと厄介なやつの」


「なるほど」


なるほど、で流されたが、あの厄介さは数字だけでは伝わらない気がした。


---


金額を見て、四人で覗き込む。


「昨日よりは、まし」


「まし、で満足していいのか俺たち」


カインが言う。


「贅沢言うな」


ダダの的確な一言に、誰も返せなかった。


---


「フォージタウン、行くぞ」


ダダが先に立つ。


四人とも、いつもより、足取りが軽い気がした。


「実家に帰るみたいな顔してるな」


ネリスがダダに突っ込み。


「してない」


いやいや。


ダダの顔は言われる通りの顔を見せていた。


(べつに、そういうわけじゃない)


本人にそのつもりはなかったが、顔には出ていた。


---


フォージタウンは、朝から鎚の音が響いていた。


炉の熱気が、通りにまで漂ってくる。


ダダの一族の工房は、その中でも一番奥にあった。


「おう、ダダ、久しぶりだな」


年配のドワーフが、鎚を置いて顔を上げた。


ダダの親戚らしい。


「防具、見に来た」


「珍しいな、お前が誰かの分まで頼むの」


「別に、珍しくない」


ちょっと照れくさそうなダダは、珍しい。


顔が、ほんの少し赤い。


---


「まずダダの盾からだな」


「俺の盾は間に合ってる」


拗ねるダダも、これまた珍しい。


「間に合ってても、二層のあれ受けて、手が痺れてただろ」


「痺れてない……」


いやいや、痺れていたよホント…と思うカイン。


昨日、ノリアもしっかり見ていた。


「新しいの、打ってもらえ」


カインが畳みかける。


「……まあ、少しは考える」


言われて、ダダの表情は、変わっていく。


少しどころではなく、目が輝いていた。


(本当は、打ちたい――)


自分の道具への欲が、意地より少し勝っていた。


---


「次、ネリス」


「私?」


「お前、防具なさすぎ」


「身軽さが命」


「命の前に死ぬぞ、それじゃ」


ダダとネリスのやり取りが続くが、言い返せなかったらしく、ネリスの耳が伏せる。


「…じゃあ、軽くて、脇腹と背中を守れるやつがいい」


「斥候向けの装備なら、こっちだな」


年配のドワーフが、革と金属を組み合わせた胴当てを出してきた。


「軽いのに、これ結構硬いね」


ネリスが叩いてみて、目を丸くする。


「魔石加工した革だ。二層くらいの爪じゃ抜けん」


「抜けない自信、頼もしい」


頼もしいと言いつつ、値札を見て顔が少し曇った。


「ちょっと、高い……」


「出せないわけじゃない。それにしろ」


カインが強引に言うと、ちょっと嬉しそうだった。


---


「最後、カイン」


「俺?」


「お前が一番、装備軽い」


「便利屋だからこそ、動きやすさが」


「動きやすさの前に、腕から血、出してただろ」


ネリスに指摘された。


確かに、出血していた。


反論できる材料が、手元にない。


「胸当てだけじゃ、駄目なんだよな」


「腕と、足の付け根。そこ、みんな薄い」


ダダの親戚が、革の腕当てを二の腕に合わせてくる。


「これくらいなら、動きは阻害しない」


「阻害しないなら、いいか」


「いいか、じゃなくて、必要!!」


ノリアの一言に、反論の余地はなかった。


---


四人分の見積もりを出してもらう。


「……思ったよりする」


「魔石、まとめて売った意味あったな」


「あったんじゃなくて、なくなる」


なくなった。


袋の中身が、目に見えて軽くなる音がした。


---


「それでも、揃えとけ」


ダダの親戚が、腕を組んで見てくる。


「今回みたいなの、また来るぞ」


今回みたいなの、というのがどれのことか、四人とも分かっていた。


---


装備を受け取って、外に出る。


新しい革の匂いが、まだ馴染んでいない。


「軽い」


「軽いのに、硬い」


「硬いのに、動ける」


三人が、順番に感想を漏らした。


カインだけ、まだ袖に慣れずにいた。


---


フラグメンツに寄ると、ガラントがすぐに気づいた。


「おお、新調したのか」


「フォージタウンで」


「似合ってるじゃないか」


「似合ってるのはダダだけです」


カインが言う。


「私も似合ってる」


ネリスもダダも似合っていた。


誰も否定しなかった。


---


「で、どうなんだ、職業の方は」


ガラントが、グラスを拭きながら聞いてくる。


いつもの流れだった。


だが今日は、いつもと少し違う空気があった。


---


「盾役、正式に届ける」


ダダが、それだけ言った。


「たぶん、じゃないのか」


「もう、たぶんじゃない」


短い言葉に、迷いがなかった。


(新しい盾のせいか、それとも――)


理由は、ダダ自身にもうまく言葉にできなかった。


新しい盾のおかげか、それとも別の理由か、誰も聞かなかった。


---


「ネリスは」


「斥候で」


即答だった。


「早いな、今日は」


「防具まで揃えて、まだ決めないのは、締まりがない」


締まりがない、という理由が、ネリスらしいような、らしくないような。


「色々ついてくるやつは」


「ついてくればいい。今更だから」


今更、の一言に、覚悟のようなものが混じっていた。


(今更、怖がってても始まらない)


心の中だけで、ネリスはそう区切りをつけていた。


---


「ノリアは、もう選んでるしな」


「もう、ね」


ノリアが、いつも通り素っ気なく答える。


「伸びなくても?」


「伸びなくても、選んだのは私だから」


素っ気なさの中に、ほんの少しだけ強さがあった。


---


「カインは」


全員の視線が、カインに集まる。


---


「便利屋のままでいく」


言い切った。


「まだ言うか、それ」


「まだじゃない。もう決めた」


「決めたって、変わってないだろ」


「変わってない。でも、まだ決めずに行く」


選ばないことを決める、というのは、傍から見れば同じに見えるかもしれない。


だが、今日のカインにとっては、確かに違うものだった。


---


ガラントが、少しの間、こっちを見ていた。


「そうか」


それだけ言って、グラスを磨く手を戻した。


否定も肯定もしない相槌が、今日はちょうどよかった。


---


四人で、それぞれの職業を口にする。


盾役、斥候、魔術師、便利屋。


バラバラのようで、四つ並ぶと、なぜか収まりがよかった。


「明日から、正式にそれぞれの職だな」


「正式に」


「正式にって言うと、急に緊張する」


緊張していたのは、カインだけではなかった。


四人とも、少しだけ背筋が伸びていた。


---


酒場を出ると、夜風が新しい革の匂いを運ぶ。


「明日は、どこ行く?」


「一層から、また」


「また一層」


「積み重ねだから」


積み重ね、という言葉が、今日は妙にしっくりきた。


四人で、宿の明かりに向かって歩いた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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