第5話「そろそろ決める」
マランの世界、投稿開始です。
最初は連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
リカバリーの窓口は、思ったより空いていた。
「軽傷ですね」
エルフの治療師が、腕の傷にそっと手をかざす。
淡い光が触れると、痛みがすっと引いた。
「浅い、って言ったろ」
カインが言う。
「浅くても血は出るんだよ」
ノリアが、腕組みしたまま横から口を挟む。
「浅くても血は出る」
「復唱するな」
突っ込むネリスに、カインが返した。
思ったより、費用はかからない。
一層の魔石一個で大丈夫って、相当安い。
冒険者向けのリカバリーだからみたいだ。
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治療を終えて出てくると、日はもうすっかり傾いていた。
「今日は、これで終わりだな」
「終わりだな」
「終わりでいい」
三人が、順番に同じようなことを言った。
言うまでもないことを、わざわざ言うのが今日のパーティらしかった。
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フラグメンツに寄ると、ガラントがすぐに気づいた。
「お、その腕どうした」
「二層で、ちょっと」
カインが答える。
「ちょっとって顔じゃないな、それ」
図星だった。
「一杯、飲むか」
「もらいます」
聞かれる前に、答えは決まっていた。
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四人分の丼と、いつもの一杯が並ぶ。
「今日さ」
ネリスが、耳を後ろに倒した。
「無理したよな、普通に」
「したなぁ…」
ダダが即答する。
否定する空気ではなかった。
「昨日どころじゃない魔石、稼げたけど」
「稼げたけど、カインが怪我した」
「俺の名前を出すな」
出すなと言っても、事実だった。
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「五層の壁とか、まだ先の話だと思ってたけど」
ネリスが言う。
「先だろ、まだ」
カインが返す。
(でも――)
ノリアの中では、すでに数字が並び始めていた。
「まだだけど、二層でこれなら、先はもっとやばいってことだよね」
ノリアの言葉に、誰も反論できなかった。
正論というのは、たいてい歓迎されない。
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「なあ」
ガラントが、グラスを拭きながら割り込んできた。
「職種、そろそろ決めた方がいいんじゃないか」
「その話、また?」
「また、だ。今日みたいな日があると、なおさらな」
今日みたいな日、というのが具体的に何を指すか、聞くまでもなかった。
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「ダダ、おまえ盾役だろ、もう」
「たぶん」
(決めない理由が、あるわけじゃない)
ダダの中でも、自覚はあった。
「たぶんって、まだ言うのか」
「言う」
正しいと分かっているくせに、頑固だった。
「決めない理由、あるのか」
「特にない」
特にないなら決めろよ、と誰もが思ったが、言わなかった。
言ったところで、ダダのペースは変わらない。
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「ネリスはどうなんだ?」
「まだ」
「まだって、いつまで決めないのか?」
「決めたらまた質問されるからいや」
「質問って?」
「色々」
色々、で終わらせる技術だけは、誰にも真似できない。
(今はまだ、その時じゃない)
言葉にしない理由が、ネリスの中には確かにあった。
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「ノリアは、もう魔術師で決めてるのだろう?」
「もう、ね」
ノリアが、自分の手のひらをじっと見た。
「選んでる。でも、伸びてはいない」
「伸びる予定は?」
「知らない」
いつもの返しだった。
いつも通りなのが、少しだけ心配になる返しでもあった。
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「カインはどうなんだ?」
「便利屋です」
(揺れてる、自分でも分かる)
言い切ったものの、今日の怪我が、その揺れを少しだけ後押ししていた。
「まだ言うか、それ」
「まだ言います」
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「まあ、今日・明日、決めろとは言わない」
ガラントが、話をいったん収めた。
「ただ、来る時は来る。その時に、決まってないと困るぞ」
来る時、という言い方が、妙に重かった。
誰も、それがいつのことか聞き返さなかった。
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「もう一つ、話すことあるだろ」
ダダが、静かに切り出した。
「なんだ」
「防具」
その一言で、空気が変わった。
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「言われてみれば」
カインは、自分の胴回りを見た。
革の胸当て一枚で、二層の棍棒を受けていた。
腕や足回りの防具は付けていない。
「武器はそれなりに揃ってるけど」
「防具は、初日のまま」
ノリアが、指摘を重ねてくる。
「その指摘、重ねなくていい」
重ねられて当然と返す。
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「ダダの盾は別格として」
カインが言う。
「別格じゃない、普通」
「普通じゃないだろ、それ」
ダダは自分で打った盾を使っている。
それを、普通と言い張るのがダダだった。
「他の三人、装備が軽すぎる」
「軽いのは、動きやすいからで」
カインが言い訳する。
「動きやすいのと、削られやすいのは別」
カインとネリスの言い訳を、ダダが一蹴した。
正しい指摘は、いつも耳が痛い。
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「フォージタウン、行くか」
「行くしかないだろ」
「金は」
「今日の魔石、まだエクスチェンジ通してない」
「通してから考えよう」
四人の意見が、珍しくすんなり揃った。
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「「「じゃあ明日」」」
三人の声が揃ったところに、カインの声だけ少し遅れた。
「……俺も明日でいいと思ってた」
「思ってたなら早く言え」
「言ったところだろ、今」
言い分は正しかったが、誰も同意しなかった。
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酒場を出ると、夜風が少し冷たかった。
ヘクサインまでの道を、四人で歩く。
「今日決めたこと」
カインが、指を折りながら数えた。
「防具、フォージタウンで見る。職業は、まだ保留」
「保留ばっかりだな、俺たち」
「保留があるから、決めた時が締まるんだよ」
誰かがそれっぽいことを言っても、誰も本気で聞いていなかった。
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宿の明かりが、少しずつ近づいてくる。
「明日、フォージタウンだな」
「フォージタウン」
「ダダの実家だろ、あそこ」
「実家じゃない。工房」
「同じだろ」
「違う!」
ダダは、頑固に言い張ったが、違わなかった。
四人で笑いながら、宿の扉をくぐった。
いかがでしょうか?
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