第4話「欲を出した日」
マランの世界、投稿開始です。
最初は連続投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
「今日は二層まで行くぞ」
ダダが言うと、誰も反対しなかった。
反対する空気ではなかった、というのが正確かもしれない。
(昨日の五個が、まだ頭のどこかに引っかかっている)
ダダ自身も、それを分かっていた。
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門は、今日もあっさりくぐれた。
「二日連続はさすがに認められる気がする」
カインが言う。
「認められてるかは知らない」
「知らないのかよ」
「聞いたことないだけ」
ネリスが肩をすくめる。
聞いたことがないことは、いつも彼女の中でだいたい「知らない」に分類される。
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一層は、昨日の道のりだ。
同じ角、同じ広さの通路。
「懐かしいな」
カインが言う。
「昨日だろ」
ダダが即座にかぶせる。
懐かしいと言いたくなる気持ちも、分からなくはなかった。
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一体目はスライム。
「ファイア」
一言で終わった。
親指の先くらいの魔石が、灰の中に転がる。
「今日、何回いける」
カインが聞く。
「昨日と同じ」
「二回か」
「二回」
味気ない会話だったが、味気なくて正解だった。
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何体か倒したあと、二層への降り口は、思ったよりあっさり見つかった。
石段が、螺旋状に下へ続いている。
「本当に二層行くのか」
「行くって決めただろ」
ダダが答える。
「決めたけど、聞いてる」
「聞くな」
ダダは短く、聞く隙を与えなかった。
石段を降りる四人の足音が、だんだん反響するようになる。
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二層は、一層より通路が細い。
分岐も多い。
「これ、覚えられる自信ない」
カインが羊皮紙を広げながら答えた。
「地図描けばいい」
「描いてる」
便利屋の面目は、こういうところで保つしかない。
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分岐の先で、二体一気に出てきた。
ゴブリン二体。
「二体同時は初めてだな」
カインが言う。
「初めてって嬉しそうに言うな」
ネリスが茶化す。
「嬉しくはない」
嬉しそうだった。
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「ダダ、右頼む」
カインが言う。
「了解」
短い返事で、盾が動く。
カインが左の一体に斬りかかった。
錆びた短剣が、思ったより速く振られる。
「うわ」
避けた、と思ったところで、二の腕を浅く掠めた。
「大丈夫か」
ダダが聞く。
「大丈夫」
大丈夫ではなかった。
袖に、薄く赤が滲んでいる。
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「カイン、動くな」
ノリアの声が、いつもより硬い。
「動いてない」
「動いてる。血、出てる」
言われて初めて、カインは傷の存在を実感した。
こういうのは、指摘されると急に痛くなる。
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「ファイア使うか」
ノリアが聞く。
「これくらいで使うな。もったいない」
カインが止めた。
「もったいないって、傷より優先するの、それ」
「傷は浅い。魔力は貴重」
「価値観、ちょっとおかしくない?」
正しいのかどうか、カイン自身にも自信はなかった。
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ダダの盾がもう一体を押し返す。
「押し切るぞ」
短い号令に、全員が動く。
カインが一体を仕留め、ダダがもう一体を押し倒す。
二体とも、灰になって消えた。
親指の先くらいの魔石が、二つ転がっている。
「五個目標、もう超えてるな」
カインが言う。
「超えてる。欲張るなら今のうちだ」
その言葉が、あとで少し効いてくることになる。
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ゴブリン二体を、勢いのまま倒した。
魔石が、袋の中で増えていく音がする。
「今日、当たり日じゃない?」
ネリスの声が弾んでいた。
(このまま行ける気がする)
弾んでいる分だけ、彼女の足取りも軽くなっている。
軽くなりすぎている、と誰も気づかなかった。
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次は、今までと違った。
通路の奥、暗がりの中で、何かが息を潜めている気配がした。
「ダダ、待って」
ネリスが言う。
「なんだ」
「なんか、様子が違う」
ネリスが耳を伏せる。
(こういう時の勘は、大抵当たる)
彼女自身、それを一番よく分かっていた。
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出てきたのは、ゴブリンより一回り大きい個体だった。
「これ、資料にないやつじゃん…」
カインが言う。
「浅層のボスとか言わないよな」
「言わない、けど」
けど、と言った声が震えていた。
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大型ゴブリンが、棍棒を振り回す。
「引くか」
カインが聞いた。
「引くには惜しい」
ダダが、盾を構え直した。
惜しいという判断が、正しいかどうかは、まだ誰にも分からなかった。
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「ノリア、ここで頼む」
カインが言う。
「二回目、もう使った」
「今日は三回目、いいか」
「駄目って言ったの、お前だろ」
「今は言ってない」
言い分が、都合よく変わっている自覚はあった。
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「三回目、いくよ」
ノリアが手をかざす。
(制御が、いつもより重い)
自分にしか分からない感覚が、指先に絡みついていた。
「ファイア」
いつもより、爆発が大きかった。
大型ゴブリンが怯む。
だが、消えない。
「効いてる、けど、まだ立ってる」
カインが言う。
立っていた。
しかも、こっちを睨んでいる。
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「ダダ、耐えて」
カインが叫ぶ。
「耐えてる」
盾が、棍棒の一撃を受け止める。
がつん、と重い音。
昨日のゴブリンとは、明らかに音が違った。
「ダダ、平気か」
「平気」
平気ではなかった。
腕が、目に見えて痺れている。
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「ネリス、隙を作れ」
カインが言う。
「作る」
ネリスが背後に回り込む。
爪が、大型ゴブリンの足を裂いた。
体勢が崩れたところに、カインとダダの一撃が重なる。
「今だ!」
「今だな!」
二人同時に叫んだのが、後から思うと少し間抜けだった。
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大型ゴブリンが崩れる。
灰になって消えたあとに残ったのは、親指の先より一回り大きい魔石だった。
「勝った、けど」
ネリスが言う。
「けど?」
「全員、限界だと思う」
耳を伏せたまま言った言葉を、否定できる者は誰もいなかった。
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「戻るぞ」
ダダの声に、迷いはなかった。
「もうちょっと粘れば」
カインが言いかける。
「粘るな」
短い一言に、反論の余地はなかった。
ノリアの手が震えている。
カインの腕は、まだ血が滲んでいる。
ダダの盾を持つ手も、痺れが取れていない。
粘る、という選択肢はもう残っていなかった。
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帰り道は、来た道より長く感じた。
誰も、あまり喋らなかった。
「今日、多かったな、魔石」
カインが言う。
「多かった、けど」
「けど?」
「割に合ってたかは、分からない」
分からないことを、また分からないままにして、四人で階段を上った。
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門をくぐって、外に出る。
日は、まだ高かったはずなのに、もう傾きかけていた。
「思ったより時間かかったな」
「思ったよりいろいろあったからな」
袖の傷を見せると、ノリアが顔をしかめた。
「リカバリー、寄ろう」
「大袈裟だ」
大袈裟ではなかった。
血は、思ったより広がっていた。
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「今日、五個どころじゃなかったな」
袋の中を覗いて、ネリスが呟いた。
「それだけ危なかった、ってことでもあるけどな」
カインが返す。
「分かってる」
分かっている割に、声は少し得意げだった。
「明日は一層でいいだろ」
「賛成」
「「「賛成」」」
全員の声が、珍しく揃った。
いかがでしょうか?
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