第76話「六弁の証」
マランの世界、毎日投稿中です。
当面、数話を連続投稿の予定です。
本編で、第一部が終了です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
十層の扉を、カインが、静かに、押し開ける。
前室の篝火が、背後で、小さくなっていく。
「一層から、また、始まるぞ」
「わかってる」
ダダが、盾を、構え直しながら、答えた。
「今日は、無駄口、少なめでいくでござるな」
ワングが、静かに、刀の柄に、手を、添える。
その声にも、いつもより、張り詰めたものが、混じっていた。
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通路の先に、見覚えのある、スライムの影が、揺れていた。
「一層相当、来るぞ」
「眠霧、温存」
カインの声に、ノリアが、頷く。
「今日は、極力、消耗を、抑えて進む」
「前回の、反省を、活かすんだよな」
ダダが、確かめるように、言う。
「活かす。今日こそ、扉の前で、万全のまま、立ちたい」
カインが、静かに、答えた。
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波は、これまでと、同じように、順を追って、押し寄せてきた。
甲殻型、擬態、ゴーレム系。
一つ一つを、六人は、着実に、退けていく。
「六層相当、抜けた」
ダダが、ウォーハンマーを、担ぎ直しながら、告げる。
「この武器、やっぱり、頼りになるでござるな」
ワングが、静かに、頷いた。
「七層、八層……」
ネリスが、耳を伏せながら、周囲の気配を、探る。
「まだ、増えてる。油断、しないで」
「九層相当、来た」
ネリスが、耳を伏せながら、告げる。
「ここが、山場」
「群癒、まだ、温存できてる」
ミラが、静かに、皆に、告げる。
「その分、思い切って、いこう」
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激しい応酬の末、最後の一体が、崩れ落ちる。
「抜けた……!」
カインが、肩で、息をしながら、呟く。
チャージは、ぎりぎりまで、削られていた。
だが、六人とも、まだ、立っていた。
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最後の扉の前に、六人は、並んで、立った。
「行くぞ」
カインの声に、緊張が、滲む。
誰も、答えなかった。
答える代わりに、皆が、頷いた。
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扉が、ゆっくりと、開いていく。
広い部屋の奥、あの日と、変わらぬ佇まいで、エルフの女性が、立っていた。
「おや」
女性が、静かに、目を細める。
「ようやく、再訪かな」
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「私の名は、エカチェリーナという。ここの守をしている」
にこやかに、6人を見渡した。
「まあ、私の終焉を、喰らって、生き残ったのは、珍しい」
女性の声は、あの日と、同じように、涼やかだった。
「そのまま、帰還したのは、二パーティ目だよ」
「二……」
カインが、思わず、聞き返す。
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「最初のは、もっと、ダメダメだったけどね」
女性が、口元に、笑みを、浮かべる。
「え……?」
ミラが、声を、漏らした。
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「パーティの中で、一人だけ、生き残っててね」
女性が、続ける。
「終焉を、六度、撃ち合ったよ」
その一言に、部屋の空気が、静かに、重くなった。
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「ルーシェナっていう、エルフだけど」
女性が、六人を、順に、見渡す。
「知ってるかい?」
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「ギルド長……」
カインが、掠れた声で、呟く。
誰も、その先を、続けられなかった。
六度の終焉を、真正面から、受け、そして、撃ち返した。
一歩も、退かずに。
その事実の、重さだけが、静かに、六人の胸に、沈んでいく。
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「昔の、話さ」
女性が、静かに、話を、切り上げる。
だが、その目には、遠い記憶を、慈しむような、静かな色が、残っていた。
「今も、時々、思い出す。アイツの、諦めない目を」
女性が、独り言のように、付け加える。
「それより、今日は、お前たちの、番だ」
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「例の、ペンダント。二つ」
女性が、手を、差し出す。
「それと、鍵も、一つ、持っているはずだ」
「なぜ、それを……」
カインが、思わず、聞き返す。
「なぜ、じゃない」
女性が、静かに、答える。
「持っているから、聞いている。それだけのことさ」
「このペンダント、一体、何なんですか」
カインが、重ねて、聞く。
「今、話しても、お前たちには、まだ、早い」
女性が、静かに、首を、振る。
「順を、追って、知っていけばいい。今日は、その、最初の一歩さ」
その言い方には、突き放すような、冷たさは、なかった。
むしろ、どこか、慈しむような、響きが、あった。
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カインが、懐から、ペンダント二つと、鍵を、取り出す。
震える手で、それを、女性に、差し出した。
女性が、それを、受け取り、静かに、掌の上に、並べる。
「ずっと、持っていて、くれて、ありがとう」
女性が、静かに、三つのものへ、語りかけるように、言った。
その声には、六人へ向けるものとは、また違う、静かな親しみが、あった。
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淡い光が、三つのものを、包み込んでいく。
輪郭が、溶けるように、揺らいだ。
三つが、一つに、重なり合い、また、六つへと、分かれていく。
やがて、光が、収まった時。
そこにあったのは、六枚の、小さなコインだった。
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「おのおのが、持って」
女性が、静かに、告げる。
「一人一枚、ずつだ」
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六人は、それぞれ、コインを、一枚ずつ、手に取った。
冷たく、滑らかな、感触。
その、すぐ後。
コインが、掌の中で、静かに、消えていった。
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「あっ……」
ネリスが、思わず、声を、上げる。
見ると、六人それぞれの、手の甲に、淡い光の紋様が、浮かび上がっていた。
六枚の花びらを、持つ、花の形だった。
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「それが、ノアの、クリア章」
女性が、静かに、告げる。
「ここを、クリアした者にしか、見えない」
「クリア……」
カインが、自分の手を、見つめながら、呟く。
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「そして」
女性が、続ける。
「エアへ、入ることが、可能な証文にも、なる」
その一言に、六人は、揃って、息を、呑んだ。
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「これで、私たちは……」
ミラが、静かに、聞く。
「エアに、行けるように、なった、ということですか」
「そういうことだ」
女性が、頷く。
「あとは、お前たち次第、さ」
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「拙者、これほどのものを、賜るとは、思っていなかったでござる」
ワングが、手の甲を、見つめながら、静かに、呟く。
「私も」
ネリスが、自分の手を、そっと、握りしめる。
「なんか、実感、追いつかない」
カインが、思わず、呟く。
「それ、俺の台詞」
ダダが、すかさず、突っ込んだ。
その一言に、張り詰めていた空気が、少しだけ、緩んだ。
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「話を、聞かせて、いただき、ありがとうございました」
カインが、深く、頭を、下げる。
「まだ、色々、聞きたいことは、あります。でも、今日は」
「今日は、それで、十分さ」
エカチェリーナが、静かに、遮った。
その口元に、優しい、笑みが、浮かんでいた。
「また、会おう」
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部屋を、後にする六人の足取りは、来た時とは、まるで違っていた。
誰も、多くを、語らなかった。
だが、手の甲に、宿った、淡い光が、確かに、何かを、物語っていた。
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その夜、フラグメンツに、六人分の、笑い声が、響いていた。
「ノア、攻略!」
カインが、杯を、高く、掲げる。
「攻略!」
六人の声が、揃った。
杯が、打ち合わされる音が、店の中に、響いた。
「長かったでござるな」
ワングが、杯を、静かに、傾ける。
「長かった。でも、辿り着いた」
カインが、答えた。
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カウンターの向こうで、ガラントが、ふと、手を、止める。
六人の手の甲に、目を、留めていた。
「おや」
小さな、呟きだった。
「六弁の、花びら……」
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その一言を、六人は、確かに、耳に、した。
誰も、すぐには、何も、言わなかった。
「ガラントさん……見えるん、ですか」
ネリスが、静かに、聞く。
「見えるさ」
ガラントが、静かに、答える。
その目に、遠い、記憶をたどるような、色が、浮かんでいた。
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それ以上は、誰も、聞かなかった。
聞けば、答えてくれる気がした。
だが、今夜は、それを、聞く夜では、ない気がした。
「ガラントさんも、昔、この、花びらを……」
ミラが、小さく、呟く。
「さあ、どうだろうね」
ガラントが、はぐらかすように、笑う。
その笑みの奥に、確かに、何かが、見え隠れしていた。
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「乾杯だ。今日くらいは、何も聞かず、飲め」
ガラントが、六人の杯に、いつもより、多めに、注ぎながら、言った。
「はい」
六人の声が、揃って、答えた。
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酒場の灯りの下、手の甲の、淡い花びらが、静かに、揺れていた。
その意味を、六人は、まだ、言葉には、できなかった。
ガラントの過去も、ルーシェナの過去も、エカチェリーナという、あの女性が、何者なのかも。
わからないことは、まだ、山ほど、残っている。
だが、確かに、噛みしめていた。
自分たちが、また一つ、迷宮の奥深くへ、足を、踏み入れたことを。
いかがでしょうか?
この後、数編の「閑話」を挟んで
二部突入です。
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