↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/237

第75話「知る者しか、知れない」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

クロスロードの窓口に、リゼットの声が、いつになく、硬かった。


「六人揃って、今すぐ、ギルド長室まで」


「今すぐ?」


カインが、聞き返す。


「はい。今すぐ、です」


リゼットの目に、普段の事務的な余裕が、見当たらなかった。


---


案内されたのは、いつものクロスロードの窓口ではなかった。


長い廊下を、リゼットの後について、進んでいく。


すれ違う職員たちの視線が、心なしか、六人に、集まっているような気がした。


---


ギルド本部の最奥、六人が足を踏み入れたことのない、重厚な扉の前だった。


「ここ……」


ネリスが、思わず、呟く。


「私も、この先へは、滅多に入りません」


リゼットが、静かに、答える。


その声にも、隠しきれない緊張が、滲んでいた。


「入って」


扉の向こうから、聞き慣れた声が、届いた。


---


広い執務室の中央、ルーシェナが、静かに、六人を見つめていた。


いつもの、愛想の良い姉ちゃんの空気ではない。


背筋の伸びた佇まいに、六人は、思わず、息を呑んだ。


「呼び立てて、悪かったね」


その声だけは、いつもと同じ、柔らかさを保っていた。


---


「単刀直入に、言う」


ルーシェナが、六人を、順に見渡す。


「十層、最終部屋への到達、おめでとう」


静かな、けれど、確かな重みのある言葉だった。


---


「……おめでとう、というのは」


カインが、慎重に、聞き返す。


「あの部屋に辿り着いたこと自体が、おめでとう、なんですか」


「そう」


ルーシェナが、頷く。


「あそこまで足を運べただけで、十分に、称えられることだ」


---


「でも、俺たち、負けたんですけど」


ダダが、率直に、言う。


「終焉で、一撃で、伸された」


「知ってる」


ルーシェナが、静かに、答えた。


「報告は、ちゃんと、上がってきてる」


---


「あの部屋主のエルフ」


ルーシェナが、言葉を、選ぶように、続ける。


「これまで、誰にも、倒されたことがない」


---


部屋の空気が、一瞬、止まった。


「誰にも……?」


ミラが、静かに、聞き返す。


「ノアが開いてから、今日まで、一度も」


ルーシェナの声に、揺らぎは、なかった。


---


「じゃあ」


ノリアが、思わず、口を挟む。


「今、エアに潜ってる人たちは、どうやって……」


エアは、ノアを制覇した者だけが、入場を許されるダンジョンだ。


十層の主を、誰も倒したことがないのなら、その先に進んだ者が、いるはずがない。


---


「いい質問だね」


ルーシェナの口元に、わずかな笑みが、浮かぶ。


だが、その先を、続けようとはしなかった。


「それは」


カインが、身を乗り出す。


「教えてもらえないんですか」


---


「教えられない、じゃない」


ルーシェナが、静かに、首を振る。


「教えても、あんたたちには、届かない」


「届かない……?」


ワングが、眉を寄せる。


「言葉で、説明できる類のことじゃ、ないんだよ」


ルーシェナが、静かに、続ける。


「あたし自身、当事者から、聞いたことしか、知らない」


「ギルド長でも……」


カインが、思わず、呟く。


「あたしも、一介の、通ってきた者に、過ぎないからね」


ルーシェナの目に、遠い記憶をたどるような、静かな色が、浮かんだ。


それ以上は、語ろうとしなかった。


---


「まあ、とりあえず」


ルーシェナが、話を、切り上げるように、言った。


「もう一度、行って、話をしてきな」


「話を」


カインが、繰り返す。


「殺し合うんじゃなくて、話を、するんですか」


「そう」


ルーシェナが、頷いた。


---


「あの部屋主は、話が通じる相手だよ」


「今更、そんなこと……」


ダダが、思わず、声を上げる。


「一撃で、六人まとめて、伸したくせに」


「歯ごたえを、確かめただけさ」


ルーシェナが、静かに、答える。


「本気で殺す気なら、あんたたち、今頃、ここには、いない」


---


その一言に、六人は、言葉を失った。


あの一撃が、本気ではなかった。


その事実だけが、静かに、重く、部屋に、沈んでいく。


---


「もう一つ、伝えておく」


ルーシェナの声が、一段、低くなる。


「今、話したこと。十層の部屋主に、実際に会った者しか、知らない」


「え……」


---


「そして、会った者以外には、話すことができない」


「話せない、って」


カインが、聞き返す。


「口が、動かなくなるとか、そういうことですか」


「試してみるかい」


ルーシェナが、静かに、問い返す。


その目に、冗談の色は、なかった。


---


「あんたたちが、今日ここで聞いたことを、フラグメンツで、面白おかしく喋ろうとしてみるといい」


「……」


「たぶん、途中で、言葉が、出てこなくなる」


---


「なんで、そんな……」


ネリスが、掠れた声で、言う。


「誰が、そんな仕組みを」


「さあ」


ルーシェナが、静かに、首を傾げた。


「あたしにも、わからない」


---


「わからない、って」


「ギルド長の、あたしにもだよ」


ルーシェナが、少しだけ、目を細める。


「この迷宮には、そういうことが、ある」


---


「六人の壁と、同じですか」


ミラが、静かに、聞く。


「近いね」


ルーシェナが、頷いた。


「誰にも、説明のつかない、迷宮側の、選別」


「五層の壁も、そうだったでござるな」


ワングが、静かに、口を挟む。


「認められる者と、認められない者が、いた」


「そう」


ルーシェナが、頷く。


「今回のは、その延長線上に、あるものだと、あたしは、思ってる」


「延長線上……」


カインが、静かに、繰り返した。


---


「じゃあ、私たち」


ノリアが、震える声で、言う。


「もう、後戻り、できない、ってことですか」


「そうとも、言えるし」


ルーシェナが、静かに、六人を、見渡す。


「選ばれた、とも、言える」


---


沈黙が、部屋を、満たした。


誰も、すぐには、言葉を、継げなかった。


---


「行くか、行かないかは」


ルーシェナが、静かに、続ける。


「あんたたちが、決めることだ」


「強制じゃ、ないんですね」


カインが、確かめるように、聞く。


「強制なんて、するはずないだろう」


ルーシェナが、初めて、いつもの調子で、笑った。


---


「ただね」


その笑みが、ふっと、静かなものに、変わる。


「あの部屋の先に、何があるのか。知りたくは、ないかい」


---


その問いに、誰も、すぐには、答えなかった。


だが、六人の目の奥に、同じ光が、灯っているのを、ルーシェナは、静かに、見て取った。


「今日は、これで、十分だ」


ルーシェナが、話を、締めくくる。


「戻って、よく、考えな」


---


執務室を出た六人の足取りは、来た時よりも、ずっと、重かった。


だが、その重さの中に、確かに、何かが、灯っていた。


---


「なあ」


ヘクサインへの道すがら、ダダが、静かに、口を開く。


「あの女、俺たちのこと、殺す気、なかったんだよな」


「そうみたいだな」


カインが、頷く。


「話が、通じる相手」


ワングが、静かに、繰り返す。


「拙者たちは、まだ、あの人の、真の姿を、見ていないでござるな」


---


「行くしか、ないよね」


ミラが、静かに、皆を見渡す。


「もう、知ってしまったんだから」


「知ってしまった」


ノリアが、小さく、頷いた。


---


「エアに潜ってる人たちが、どうやって、あそこを越えたのか」


ネリスが、静かに、呟く。


「その答えも、たぶん、あの部屋の先にある」


「ルーシェナさんも、当事者だった、ってことだよな、あの口ぶり」


ダダが、ぽつりと、言う。


「あの人が、何を、見てきたのか」


ミラが、静かに、目を伏せた。


「今の私たちには、まだ、想像もつかない」


---


「話をしろ、か」


カインが、空を見上げながら、呟く。


「殺し合うんじゃ、なくて」


「拙者たちが、これまで、思い違いをしていたのかもしれぬでござるな」


ワングが、静かに、言う。


「あの部屋は、越える場所ではなく……向き合う場所、なのかもしれぬ」


---


夕暮れの空の下、六人は、しばらく、黙って、歩き続けた。


誰も、それ以上、口を、開かなかった。


だが、六人の胸の内では、同じ問いが、静かに、燃え始めていた。


あの部屋の先に、何が、待っているのか。


それを知るのは、六人以外には、まだ、誰もいない。


---


執務室に、一人残ったルーシェナが、窓辺に、立っていた。


遠ざかっていく、六人の背中を、静かに、見送る。


その口元が、小さく、緩んだ。


「さすが、カレント様の、四人」


誰にも、届かない、呟きだった。


「――いや」


窓の外を見つめたまま、ルーシェナが、続ける。


「今は、六人、か」


その表情を見た者は、誰もいなかった。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。