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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第73話「重ねた一撃、灯る指輪」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

アプレイザルの窓口に、ダダが、ウォーハンマーを、そっと差し出した。


「これ、見てもらえますか」


鑑定士が、それを手に取り、専用の台座に置く。


淡い光が、武器全体を、静かに包み込んだ。


---


しばらくして、光が、収まる。


「結果、出ました」


鑑定士が、記録紙を、皆に見せる。


「魔法加護による、攻撃力強化。かなりの、高水準です」


「かなり、って、どのくらいですか」


ダダが、身を乗り出す。


---


「今まで見た、同種の装備の中でも、上位に入る数値です」


鑑定士が、静かに、答える。


「それだけでは、ありません。特殊効果として、一定確率で、敵に怯みを与える性質が、確認されています」


「怯み……」


カインが、繰り返す。


---


「打撃の衝撃が、通常より、強く伝わる作りのようです」


鑑定士が、続ける。


「装備条件は、前衛職全般。特別な制限は、ありません」


「誰でも、使える、ってことか」


ダダが、確かめるように、言う。


「はい。ですが」


鑑定士が、少し、間を置く。


「これほどの一品、譲る気は、なさそうですね」


---


「ないです」


ダダが、即答した。


その返事の速さに、六人が、それぞれ、小さく笑った。


「気に入ってるみたいだからな」


カインが、静かに、言う。


「気に入ってる、というか」


ダダが、ウォーハンマーを、大事そうに、抱え直す。


「もう、手放せない」


---


「使い心地は、どうだ」


カインが、聞く。


「盾一本の時より、明らかに、攻めに転じやすい」


ダダが、答える。


「盾は、盾で、使うのか」


「もちろん。守りは、今まで通り。攻めの選択肢が、増えただけだ」


ダダの声には、確かな手応えが、にじんでいた。


「二刀ならぬ、盾と槌、ってわけだな」


カインが、笑いながら、言った。


---


アプレイザルを出て、六人は、九層へと向かった。


「今日は、腰を据えて、稼ぐぞ」


カインが、皆を見回しながら、言う。


「レベル、取り戻すまで、粘ろう」


ダダが、頷いた。


---


九層の通路を、六人は、慣れた足取りで、進んでいった。


甲殻をまとった魔物の群れと、幾度となく、行き合う。


「型、いつも通りで」


カインの指示に、迷いはなかった。


---


「ダダ、前へ」


「了解!」


ダダの新しい得物が、唸りを上げて、振り下ろされる。


一体が、そのまま、大きく怯み、体勢を崩した。


「これ、良いな……!」


ダダが、思わず、声を上げる。


---


「隙、できてる!」


ネリスが、その隙を、逃さず、爪を突き立てた。


「ワング、ノリア、右!」


「承知!」


「業火弾」


連携は、レベルが落ちる前と、変わらず、機能していた。


---


一度、二度と、群れを退けるたびに、篝火のある前室に戻り、休息を挟んでは、また、奥へと進む。


「今日は、休憩、多めだけど」


ミラが、皆の様子を、確認しながら、言う。


「無理は、しない。それが、一番の近道だ」


カインが、答えた。


---


奥へ進むごとに、杖持ちの魔物とも、何度か、行き合った。


「静黙、先に!」


カインの声に、ノリアが、素早く、応じる。


「静黙!」


杖の先の光が、灯りかけて、そのまま、消えていく。


「今のうちに!」


ワングの一閃が、確実に、仕留めていった。


---


「レベル、落ちても、このやり方は、変わらないな」


ダダが、盾とウォーハンマーを、構え直しながら、言う。


「変わらない。むしろ、前より、迷いがない気がする」


ネリスが、答えた。


「積み重ねた分は、レベルが下がっても、消えない、ってことだな」


カインが、静かに、頷いた。


---


そうして、丸一日をかけて、九層の広い範囲を、六人は、粘り強く、稼ぎ続けた。


「今日だけで、かなり、稼いだな」


ダダが、灰の消えた跡を、見渡しながら、言う。


「まだ、いけるか」


カインが、聞く。


「まだ、いける」


六人が、口々に、答えた。


---


日が傾き始めた頃、通路の奥、開けた場所に、また、小さな木箱が、静かに、置かれていた。


「宝箱、あったな」


カインが、目を、見開く。


「見てみる」


ネリスが、静かに、進み出た。


---


爪の先で、蓋の縁を、そっと、叩く。


うっすらとした光の線が、蓋の周りに、浮かび上がった。


「これも、罠、ある」


ネリスが、静かに、言う。


「今日、もう、三回目じゃないか、その線」


ダダが、聞く。


「うん。今日は、まだ、使える」


ネリスが、静かに、答えた。


---


「蝶番の、内側。それと、鍵穴のあたりにも、細い糸」


ネリスが、慎重に、光の線を、たどっていく。


「二重に、なってるのか」


カインが、身構える。


「二重。でも、順番さえ、間違えなければ」


ネリスの指先が、迷いなく、動いていった。


---


まず、鍵穴のあたりの糸を、そっと、外す。


続けて、蝶番の内側に、細い道具を、差し込んでいく。


かちり、かちり、と、小さな音が、二度、続いた。


「よし、これで、大丈夫」


---


ネリスが、ゆっくりと、蓋を、持ち上げる。


中から、鈍い光を放つ魔石と、小さな指輪が、姿を現した。


「指輪、か」


カインが、覗き込みながら、言う。


---


ミラが、そっと、それを、手に取った。


淡い光沢を持つ、細工の施された、小さな輪だった。


「拙者が、見てみるでござる」


ワングが、静かに、進み出る。


「真贋の瞳」


---


ワングの瞳が、指輪へと、静かに、向けられた。


しばらく、沈黙が、続く。


「どうだ」


カインが、聞く。


「ノストス系の、加護が、宿っているようでござるな」


ワングが、答えた。


---


「回復系の、魔法に、関わる加護と、見た」


ワングが、続ける。


「詳しい効果までは、簡易鑑定では、わからぬ」


「呪いとか、悪い効果は」


ネリスが、聞く。


「そちらは、見当たらぬでござる」


ワングが、静かに、答える。


「装備しても、心配はなさそうだ」


「ひとまず、安心、ってことだな」


カインが、頷いた。


「ノストス系……」


ミラが、指輪を、じっと、見つめる。


---


「試してみるか」


カインが、提案する。


「怪我人、いないけど」


ダダが、苦笑した。


「軽く、唱えるだけなら、平気だろ」


---


ミラが、指輪を、そっと、指にはめる。


「浄光」


いつもより、淡い光が、わずかに、大きく、広がった気がした。


「今の、少し、強くなかったか」


カインが、目を、見開く。


---


「気のせいじゃ、ないと思う」


ミラが、静かに、言う。


「回復の、効きが、いつもより、良かった」


「これも、正式には、鑑定所に、出さないとな」


カインが、頷いた。


「出す。楽しみだけど、まずは、ちゃんと、確かめてから」


ミラが、静かに、答えた。


---


「今日は、良い一日だったな」


カインが、皆を見回しながら、言う。


「レベルも、少しずつ、取り戻せてきてる。それに、拾い物まで」


「二重の収穫だな」


ダダが、静かに、頷いた。


---


「あと、どれくらいで、元のレベルに、戻れると思う」


ノリアが、ふと、聞く。


「今日みたいなペースなら」


カインが、少し、考える。


「そう遠くない、と思いたいな」


「思いたい、って、歯切れ悪いな」


ダダが、苦笑した。


「油断はしない、ってことだよ」


カインが、静かに、答えた。


---


「今日は、ここまでにしよう」


カインが、言う。


「明日、指輪も、鑑定所に、出そう」


「行こう」


六人の声が、揃った。


---


九層前室から、篝火の灯る道を、六人は、ゆっくりと、戻り始めた。


「今日の指輪、ミラに、似合ってると思う」


ネリスが、隣を歩きながら、言う。


「そうかな」


ミラが、少し、照れたように、答えた。


「うん。回復役に、回復を強める指輪。ぴったりだ」


カインが、笑いながら、付け加えた。


---


門を抜けて、外に出ると、夕暮れの光が、通りを、静かに染めていた。


ダダの手には、頼もしいウォーハンマーが、ミラの指には、まだ正体の見えない指輪が、それぞれ、静かに、灯っていた。


前へ進むための力が、また一つ、六人の手の中に、積み重なっていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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