↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/237

第71話「賭けた扉、繋いだ命」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

前室を抜けたところで、カインが、一度、足を止めた。


「最後の部屋の前まで、できるだけ魔法は、温存できるだけ、温存する」


「わかってる」


ノリアが、静かに、頷いた。


「節約しながら、魔法は使うよ。」


「拙者も、まだ、余力を残してあるでござる」


ワングが、静かに、付け加える。


その言葉を胸に、六人は、慎重に、通路の奥へと進んでいった。


---


一層から九層相当の敵を、順に退けながら、最後の扉の前に、辿り着く。


呪文のチャージは、かなり、残しつつ進めた。


「開けるぞ」


カインが、扉の取っ手に、手をかける。


重い音とともに、扉が、ゆっくりと、開いていく。


中は、これまでの前室とは、違う空気に、満ちていた。


---


広い部屋の奥、静かに佇む、一人の女性の姿があった。


エルフの、女性だった。


若いのか、年老いているのか、一目では、判断がつかない。


滑らかな肌と、深く澄んだ瞳が、同居していた。


装飾のない、簡素なローブ。


だが、その佇まいだけで、ただ者ではないと、六人全員が、直感していた。


---


「誰も、動くな」


カインが、低く、囁く。


剣の柄に、手をかけたまま、動きを止めた。


ダダも、盾を、静かに構え直す。


誰も、先に、一歩を、踏み出せなかった。


---


「おや、新顔だねぇ」


女性が、口を開く。


その声には、驚きも、警戒も、なかった。


「なかなか早いペースで、ここまで来たじゃないか」


視線が、六人を、ゆっくりと、なぞっていく。


値踏みするような、その目に、ネリスが、思わず、耳を伏せた。


---


「ちょっとは、歯ごたえがあるかい?」


その一言が、終わるか、終わらないかのうちに。


女性の手が、静かに、掲げられた。


「終焉」


---


準備も、なにもなかった。


カインが、剣を構える間も、なかった。


視界が、一瞬、白く染まる。


音が、消えた。


---


気づけば、六人は、床に、崩れ落ちていた。


誰も、動かない。


誰も、声を、上げられない。


---


意識の底で、ノリアだけが、辛うじて、繋がっていた。


視界が、霞んでいる。


体が、鉛のように、重い。


それでも、まだ、消えていない。


---


自分のローブに、目を落とす。


八層で見つけた、あの宝箱から出てきた一着。


魔法防御に長けていると鑑定された、そのローブが、今、辛うじて、意識を、繋ぎ止めていた。


「これが……」


掠れた声が、喉から漏れた。


---


周りを、確かめる。


カインも、ダダも、ネリスも、ミラも、ワングも。


誰も、息はある。


だが、誰も、動けない。


---


「まずい……」


ノリアが、震える手を、なんとか動かす。


指先が、感覚を失いかけていた。


女性が、再び、こちらへ、視線を向けた気配がした。


---


「もう一発、いっとくかい?」


その声に、恐怖よりも先に、確信が、頭を貫いた。


このままでは、次はない。


一撃で、これだけの威力だった。


もう一度、同じものが来れば、今度こそ、誰も、戻ってこられない。


---


助けを、呼べる相手は、いない。


この階層では、帰還光も、跳躍門も、使えない。


使えるとしたら、自分だけだった。


---


ノリアの手が、震えながらも、印を、結び始める。


第六階梯。


一度も、実戦で使ったことのない、その呪文へ。


以前、アーカイブで聞いた、あの説明が、頭の中で、繰り返される。


---


「代償は、知ってる」


自分に、言い聞かせるように、呟く。


全員が、レベルを、一段階、失う。


得られるはずの経験も、ドロップも、すべて、消える。


---


それでも、迷っている時間は、なかった。


女性の指先が、再び、緩やかに、動き始めていた。


「それでも……!」


震える声を、絞り出す。


「帰郷の扉!」


---


淡い光の輪が、六人を、包み込んでいく。


女性が、何か、口を開きかけた。


その言葉が、届く前に。


視界が、真っ白に、染まった。


---


気づくと、六人は、クロスロードの、見慣れた石畳の上に、倒れ込んでいた。


「……ッ、う」


カインが、最初に、呻き声を、上げた。


「戻れた、のか」


---


「戻れた」


ダダが、なんとか、上体を、起こす。


「みんな……!」


ミラが、震える手で、周囲を確かめる。


誰の息も、止まっては、いなかった。


---


「ノリア……」


カインが、辛うじて、視線を、動かす。


ノリアは、石畳に、倒れ込んだまま、荒い息を、繰り返していた。


だが、確かに、目は、開いていた。


---


「私が……帰郷の扉、使った」


途切れ途切れに、ノリアが、言う。


「あのまま、いたら、みんな、死んでた」


---


「わかってる」


カインが、なんとか、答える。


「わかってるから……よく、判断した」


「代償、あるって、知ってたのに」


ミラが、静かに、言う。


「知ってたから、迷わなかった」


ノリアが、小さく、答えた。


---


「レベル、下がってる、はず」


ダダが、自分の体を、確かめながら、言う。


力が、明らかに、以前より、弱くなっている感覚があった。


「みんな、そうだと、思う」


ノリアが、頷く。


---


「あの女、なんだったんだ……」


カインが、震える声で、呟く。


「終焉を、あんな、あっさりと」


「拙者たちの、切り札の呪文でござるな、あれは」


ワングが、辛うじて、体を起こしながら、言う。


「同じ呪文の、はずなのに」


---


「桁が、違った」


ネリスが、掠れた声で、言う。


「今の私たちじゃ、あの部屋には、まだ、入れない」


「入れない」


カインが、静かに、繰り返した。


「入れない、というより……格が、違いすぎた」


ミラが、ゆっくりと、上体を起こしながら、付け加える。


「あれが、最後の部屋の、主なんだとしたら」


---


「今の私たちの、実力じゃ、まだ届かない」


ダダが、低く、言う。


「悔しいけど、それが、答えだ」


誰も、その言葉を、否定できなかった。


---


しばらく、誰も、動けなかった。


冷たい石畳の上に、六人は、そのまま、横たわり続けた。


呼吸だけが、少しずつ、落ち着きを、取り戻していく。


---


「ノリア」


カインが、ようやく、視線を、動かす。


「お前が、いなかったら」


「言わなくていい」


ノリアが、小さく、遮った。


「みんな、無事だった。それで、十分」


その声は、まだ、震えていた。


---


「今日は……」


カインが、やっとの思いで、言葉を、絞り出す。


「今日は、生きて帰れただけで、十分だ」


「十分だ」


ダダが、静かに、頷いた。


---


道行く人々が、倒れ込んだ六人に、驚いたように、視線を向けていく。


それでも、六人は、しばらく、動けなかった。


「立てるか」


カインが、皆に、聞く。


「立てる……たぶん」


ダダが、なんとか、体を起こしながら、答えた。


---


支え合いながら、六人は、ゆっくりと、立ち上がった。


フラグメンツに、寄る気力さえ、今日はなかった。


ヘクサインへの道を、六人は、無言のまま、歩いた。


「明日、アプレイザルに、行くか」


カインが、ようやく、口を開く。


「レベル、どれだけ、下がったか、確かめないと」


「行こう」


ダダが、静かに、頷いた。


---


宿の入り口で、ノリアが、ふと、足を止めた。


「ごめん」


小さな、声だった。


「みんなの積み上げてきたもの、私が、勝手に、消しちゃった」


---


「勝手にじゃない」


カインが、振り返る。


「みんなの命を、守る為の、選択だった」


「そうだよ」


ミラが、静かに、続ける。


「レベルは、また、上げればいい。でも、命は、戻らない」


---


「拙者も、同じ場に、いたら、同じ判断をしたでござろう」


ワングが、静かに、言う。


「感謝こそすれ、責める者は、ここには、いない」


ネリスも、黙って、頷いた。


---


ノリアは、しばらく、何も、言わなかった。


やがて、小さく、頭を下げた。


「ありがとう」


その一言だけを、絞り出すように、口にした。


---


宿の灯りが、六人を、静かに、迎え入れる。


あの部屋の向こうに、何があるのか。


それは、まだ、誰にも、わからないままだった。


だが、今日、確かなことが、一つだけあった。


六人は、生きて、ここに、帰ってきた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。