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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第67話「最後の部屋にて待つもの」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

朝、六人は、九層への階段を、いつも通り降りていった。


「今日は、まず、あの扉、試してみるか」


カインが、袋の中のペンダントを、確かめるように、触れながら言う。


「窪みの形、ペンダントと、似てたもんな」


ダダが、頷いた。


「似てた、だけかもしれないけど」


ミラが、慎重に、付け加える。


「似てたら、試すしかないでござるよ」


ワングが、静かに、答えた。


---


施錠された扉の前まで、迷わず進む。


九層を歩き回った日々のおかげで、道順は、すっかり体に馴染んでいた。


「懐かしいな、この辺」


ネリスが、周囲を見渡しながら、呟く。


「懐かしむには、まだ早い。ここ、まだ、九層だぞ」


カインが、苦笑した。


---


九層、施錠された扉の前。


「ここに、ペンダント、はめてみるか」


カインが、扉の窪みを指しながら、言う。


「試す価値、あるでござるな」


ワングが、頷いた。


---


ペンダントを、そっと、窪みに合わせる。


「入る、か」


カインが、慎重に、押し込んでいく。


かちり、という、小さな音が響いた。


「入った」


カインの声が、緊張していた。


---


扉の表面に、淡い光が、走る。


光は、彫り込まれた模様に沿って、扉全体を、じわりと照らしていった。


「これ、開くやつだ」


ネリスが、後ずさりながら、言う。


「開くやつ、というか、もう、開いてる」


ダダが、扉を見つめながら、答えた。


---


重い音とともに、扉が、ゆっくりと、内側へ開いていく。


「ずっと、鍵、探してたのにな」


カインが、少し、拍子抜けしたように言う。


「鍵じゃなくて、ペンダントだった、ってことだよな」


「鍵の形をした鍵、とは限らない。前にも、そういうことは、あった」


ミラが、静かに、付け加えた。


---


扉の先は、これまでとは、明らかに違う造りの部屋だった。


石壁に、細かな彫刻が、一面に施されている。


「前室、ってやつだよな、これ」


ダダが、周囲を見渡しながら言う。


「十層への、前室でござるな」


ワングが、静かに、頷いた。


---


部屋の奥、壁の一角に、文字が刻まれていた。


「あれ」


ミラが、真っ先に、気づく。


六人は、慎重に、その前へと歩み寄った。


---


刻まれた文字を、カインが、声に出して読み上げる。


「この迷宮を、再度たどる」


「この階層で、呪文での前進は、出来ず。帰ることのみ」


「己の足で、進むべし」


「最後の部屋にて、待つものより」


読み終えると、しばらく、誰も、口を開かなかった。


---


「最後の部屋にて、待つもの、って」


ネリスが、静かに、繰り返す。


「十層の、どこかに、何かがいる、ってことか」


ダダが、腕を組みながら、言う。


「それか、誰か」


ミラが、静かに、付け加えた。


---


「呪文での前進は、出来ず。帰ることのみ、って、どういう意味だろう」


カインが、文字を、もう一度、見つめながら言う。


「この階層限定で、って、書いてあるでござるな」


ワングが、指摘する。


「この階層限定、ってことは、九層までは、普通に使えてたやつが、十層では、使えなくなる、ってことか」


カインが、考えながら、続けた。


---


「移動系の呪文、って、いくつかあったよな」


ノリアが、口を開く。


「帰還光と、跳躍門」


「帰還光は、階層内の、安全地点への、短距離転移」


ミラが、諳んじるように、答える。


「跳躍門は、ダンジョン内の、既知の地点への、転移」


ワングが、続けた。


---


「その二つが、十層では、使えなくなる、ってことか」


カインが、確認するように言う。


「たぶん。前進、って書いてあるから」


ノリアが、頷いた。


---


「帰ることのみ、っていうのは」


ダダが、口を挟む。


「クロスロードへの、帰還呪文の方は、使える、ってことじゃないか」


「あれか。ティリーさんに、教わったばっかりの」


カインが、思い出したように言う。


「帰郷の扉と、帰郷の扉・聖」


ミラが、静かに、名前を挙げた。


---


「つまり」


ネリスが、整理するように、続ける。


「十層の中を、移動する呪文は、封じられる。でも、外に逃げる呪文は、使える、ってこと?」


「たぶん、そう読めるけど」


カインが、慎重に、答える。


「たぶん、なんだよな。断言は、できない」


---


「進む手段は、封じるくせに、逃げる手段は、残してくれてる、ってことだよな」


ダダが、腕を組みながら、言う。


「優しいのか、意地悪なのか、わからない書き方だな」


「わざと、そう書いてあるのかもしれない」


ミラが、静かに、言った。


---


「己の足で、進むべし、って書いてあるから」


カインが、続ける。


「近道はさせない、ってことだよな、少なくとも」


「近道はさせないけど、逃げ道は、用意しておいてやる、ってことか」


ネリスが、腕を組みながら、呟いた。


---


「最後の部屋にて、待つもの、っていうのが」


ワングが、静かに、口を開く。


「その、逃げ道を、用意した本人、ってことでござろうか」


「かもしれない」


カインが、答える。


「でも、それも、行ってみないと、わからない」


---


「試してみるか、この階層で」


ダダが、提案する。


「移動系の呪文、実際に、使えないかどうか」


「今、試すのは、危ないでござるよ」


ワングが、首を振る。


「敵の気配がない、この前室でなら、試せるでござる」


---


「じゃあ、試そう」


カインが、頷いた。


「ノリア、頼めるか」


「わかった」


ノリアが、静かに、手をかざす。


「帰還光」


---


呪文を、唱える。


だが、何も、起こらなかった。


「発動、しない?」


ノリアが、驚いたように、自分の手を見つめる。


「発動しないのか、それとも、効果がないだけなのか」


カインが、聞く。


「わからない。手応え自体が、ない」


ノリアの声に、戸惑いが、滲んでいた。


---


「本当に、封じられてるんだな、この階層」


ダダが、低く、呟いた。


「書いてあった通り、か」


カインが、壁の文字を、もう一度、見つめる。


「じゃあ、帰還呪文の方も、試してみるか」


「今は、やめておく」


ミラが、静かに、止めた。


「使うと、代償が、あるやつだから。試すなら、もっと別の日に」


「そうだったな」


カインが、頷いた。


---


「とりあえず、封じられてる呪文と、封じられてない呪文が、あるってことは、わかった」


カインが、皆を見回す。


「わかったのは、それだけ、でござるな」


ワングが、静かに、頷いた。


「それだけで、十分、収穫だ」


---


「己の足で、進むべし、か」


カインが、前室の先、暗く続く通路を、見つめる。


「望むところ、ってわけじゃないけど」


ネリスが、静かに、答えた。


「望むところじゃなくても、進むしかない」


ダダが、盾を、握り直した。


「短距離の移動呪文が、使えないとなると」


ノリアが、静かに、口を開く。


「戦って、逃げて、を繰り返す時の、立ち回りも、変えないといけないな」


「今まで、帰還光や跳躍門に、頼ってた場面、結構あったもんな」


カインが、思い返すように、言う。


「頼ってた分、これからは、地力で、切り抜けないといけないでござるな」


ワングが、静かに、頷いた。


「地力なら、鍛えてきたつもりだけど」


ダダが、盾を軽く叩きながら、言う。


「つもり、じゃなくて、鍛えてきた」


ミラが、静かに、訂正した。


「そう、言ってくれると、心強い」


ダダが、少し、照れくさそうに、答えた。


---


「あれ」


ネリスが、部屋の隅を、指す。


視線の先、床の一角に、見覚えのある紋様が、うっすらと浮かび上がっていた。


「これ、六層前室にあった、あの石板と、同じ紋様でござる」


ワングが、目を見開く。


---


「転移の、やつか」


カインが、慎重に、近づいていく。


紋様に触れると、以前と同じように、意味だけが、頭の中に流れ込んできた。


「これ……一層に、繋がってる」


カインが、驚いたように、呟いた。


---


「また、あるのか、こういうの」


ダダが、覗き込みながら、言う。


「六層の時と、同じ仕組みなんだろうな。ここまで来た者にしか、見えない、気づけない」


ミラが、静かに、付け加えた。


---


「今日は、ここまでにしよう」


カインが、皆を見回す。


「十層の中身は、また、しっかり準備してから」


「賛成」


ダダが、頷く。


「今、無理に進んで、封じられた呪文のこと、忘れて動くのも、危ない」


ミラが、続けた。


「一つずつ、確かめながらの方がいい」


---


「これで、帰れる、ってことだよな」


ネリスが、確認するように、紋様を見つめる。


「帰れる。しかも、一層まで、一気に」


カインが、頷いた。


「行きは、九層まで、歩いてきたのにな」


ダダが、苦笑した。


「帰りは、一瞬、か」


---


六人の視線が、揃って、通路の奥へと向いた。


まだ見ぬ十層の道は、確かに、その先にあった。


だが、今日、進むのは、ここまでにする。


「試すのは、次だ」


カインの声に、迷いはなかった。


「次だ」


六人は、順に、紋様へ足を踏み入れていった。


白い光が、視界を、静かに包んでいく。


気づくと、六人は、一層の、見慣れた通路に、立っていた。


九層の鍵は、確かに、開いた。


だが、その先には、また新しい、わからないことが、待っていた。


いかがでしょうか?


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よろしくお願いいたします。

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