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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第66話「積み上げた選択肢」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

翌朝、六人は、まずアプレイザルの窓口に向かった。


「腕輪、見てもらうか」


カインが言うと、誰も反対しなかった。


「魔石とペンダントも、一緒に」


ミラが、袋から丁寧に取り出しながら、続けた。


---


窓口に、腕輪を差し出す。


鑑定士が、それを手に取り、専用の台座に置いた。


淡い光が、腕輪全体を包み込む。


しばらくして、光が収まった。


「今日も、色々、持ち込まれましたね」


鑑定士が、袋の中身を見て、少し驚いたように言う。


「九層で、大物、倒したので」


カインが、答えた。


---


「結果、出ました」


鑑定士が、記録紙を、皆に見せる。


「攻撃力強化の効果と、異常耐性の加護、両方、確認されています」


「攻撃力に、耐性まで」


カインが、身を乗り出す。


---


「異常耐性、というのは」


ダダが、聞く。


「毒、麻痺、石化といった、状態異常全般への耐性が、通常より高くなる効果です」


鑑定士が、静かに答える。


「あの魔物、魔法まで飛ばしてきたもんな」


ネリスが、思い出すように言った。


「状態異常付きの攻撃、してきてもおかしくなかった」


「これがあれば、次は、もう少し安心できるでござるな」


ワングが、頷く。


---


「誰が、装備しますか」


鑑定士が、聞く。


「前衛で、一番、状態異常くらいそうな奴、っていうと」


カインが、皆を見回す。


「ダダか、ワングだよな」


「拙者は、型が崩れると困るでござる。指輪の類は、慣れが要る」


ワングが、正直に言う。


「なら、俺が」


ダダが、腕輪を受け取った。


「重さ、平気か」


「平気。むしろ、軽いくらいだ」


ダダが、腕にはめながら、答えた。


---


「ペンダントの方は、まだ何も、わからないですよね」


ミラが、聞く。


「はい。こちらは、現時点では、特定できていません」


鑑定士が、首を振る。


「アーカイブの方に、持ち込んでみられては」


「そうします」


カインが、頷いた。


---


アプレイザルを出て、そのままアーカイブへ向かう。


「ティリーさん、報告があります」


カインが、窓口に、ペンダントと、九層の小部屋のことを、順を追って伝えた。


---


ティリーが、記録帳に、淡々と書き記していく。


「グラヴォル系統の、強化個体。九層の小部屋で、討伐と」


「三層のものより、かなり強かったです」


カインが、付け加える。


「記録しておきます」


ティリーが、短く答えた。


---


「ペンダントも、拝見します」


ティリーが、手に取り、しばらく、じっと見つめる。


「……これは」


珍しく、ティリーの手が、止まった。


---


「何か、わかりますか」


カインが、聞く。


「はっきりとは、言えません」


ティリーが、慎重に、言葉を選ぶ。


「ただ、この意匠、十層の前室に関する記録で、似たものを見た覚えがあります」


---


「十層の、前室?」


ネリスが、聞き返す。


「はい。九層の、さらに先です」


ティリーが、頷く。


「そこに、何か、あるんですか」


ミラが、身を乗り出した。


---


「記録上は、情報があるはず、とされています」


ティリーが、静かに続ける。


「ただ、詳細が、ほとんど残っていません」


「なんでですか」


ダダが、聞く。


---


「限られたパーティにしか、話せなかったようです」


ティリーが、答える。


「魔法の制限、というものが、関わっているらしくて」


「魔法の、制限?」


カインが、眉を寄せる。


---


「そこにある情報は、たどり着いた人間しか、記憶として留めておけない、という話です」


ティリーが、続ける。


「人づてに聞いても、頭に残らない。記録として書き残そうとしても、うまく書けない。そういう類の、制限がかかっているようです」


「そんなことが、あるんですか」


ネリスが、驚いたように言う。


「あるようです。わたしも、詳しい仕組みは、わかりません」


ティリーが、正直に答えた。


「わからないなら、わからない、でいいです」


カインが、頷く。


「実際に、行ってみるしか、なさそうですね」


「九層の、まだ見つかっていない鍵も、その先に、繋がってるかもしれないな」


ダダが、腕を組みながら、言う。


「かもしれない。でも、それも含めて、行ってみないと、わからない」


ネリスが、静かに答えた。


「わからないことが多いのは、いつも通りだな」


カインが、小さく笑った。


---


「もう一つ、いいですか」


ミラが、口を開く。


「アルカナ系とノストス系、それぞれ、帰還の呪文があります。使ったことがなくて」


「クロスロードへの帰還呪文ですね」


ティリーが、頷く。


「せっかくなので、少し、詳しく説明しておきます」


---


「この二つの呪文は、通常、戦闘中以外の場面で使うことを想定した呪文です」


ティリーが、記録帳をめくりながら、続ける。


「ただ、実際には、戦闘から離脱するための、緊急手段としても使われています」


「緊急手段、ですか」


カインが、聞く。


---


「ノストス系の帰郷の扉・聖は、使用した者本人が、次のレベルアップまで、その呪文を使えなくなります」


ティリーが、淡々と説明する。


「レベルアップまで、封じられる、ってことですか」


ミラが、確認するように聞く。


「その通りです」


---


「アルカナ系の帰郷の扉は、もう少し、重い代償があります」


ティリーが、続ける。


「使用した者本人が次のレベルアップまで使えなくなるのに加えて、その場にいる全員が、一段階、レベルダウンします」


「全員が……」


ノリアが、息を呑む。


---


「代わりに、戦闘そのものから、確実に離脱できます。安全に、クロスロードへ戻れます」


ティリーが、付け加える。


「ただし、その戦闘で得られるはずだった、ドロップアイテムと経験値は、一切、手に入りません」


「使えば、逃げられるけど、その日の稼ぎは、丸ごと諦める、ってことか」


ダダが、腕を組みながら、言う。


「そういうことです」


---


「重い代償だな」


カインが、静かに言う。


「重いですが、命には代えられない場面も、あります」


ティリーが、答える。


「使ったことのない呪文は、いざという時に、勝手がわからず、判断が遅れます。安全な場面で、一度、使っておくことを、お勧めします」


「試しておけ、ってことですね」


ノリアが、確認する。


「はい。効果を、身をもって知っておくのは、無駄にはならないはずです」


「レベルダウンまでする方は、正直、試すの、勇気要るな」


ダダが、腕を組みながら、呟く。


「気持ちは、わかります」


ティリーが、珍しく、少し表情を緩めた。


「ですが、いざという場面で、初めて使うより、ずっと安全です。実際に、命を落としたパーティの記録の中には、この呪文の存在を知らなかった、というものもあります」


「知らなかった、で終わるのは、嫌だな」


カインが、低く、言う。


「拙者も、同意でござる」


ワングが、静かに頷いた。


---


「今度、時間のある時に、試しておくか」


カインが、皆を見回す。


「賛成」


六人の声が、揃った。


「十層のことも、帰還呪文のことも、宿題が増えたな」


ダダが、苦笑しながら言う。


「増えたけど、悪くない」


ネリスが、静かに答えた。


「わからないことが、また一つ、輪郭を持った日だ」


「輪郭を持った、か。うまいこと言うな」


カインが、感心したように言う。


「たまには」


ネリスが、少し得意げに、答えた。


---


ティリーに礼を言って、アーカイブを後にする。


夕暮れの光が、通りを、静かに染めていた。


腕輪、ペンダントの手がかり、十層の情報、そして、まだ使ったことのない帰還呪文。


持ち帰るものは、今日も、少なくなかった。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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