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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
閑話 その三

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第65話「跳ね返した爪」

マランの世界、毎日投稿中です。

当面、数話を連続投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

「戦うのか、退くのか」


ダダが、低く、聞く。


「退いたら、また今日、ここまで戻ってくる手間が要る」


カインが、剣を握り直しながら、答えた。


「戦う、なら、今のうちに、確認しておきたい」


ミラが、静かに、皆を見回す。


---


「ノリア、残り、どのくらい」


カインが、聞く。


「七階梯と、六階梯は、まだ手つかず」


ノリアが、短く、答える。


「業炎獄は、あと2回」


「業火弾以下は」


「そっちは、まだ余裕がある」


ノリアの声に、落ち着きが戻っていた。


---


「ミラは」


カインが、続けて聞く。


「回復系は、まだ十分。今のところ、削られてない」


ミラが、頷く。


「無理はしないでいい。足りなくなったら、すぐ言って」


「言う」


短いやり取りに、信頼が滲んでいた。


---


「拙者は」


ワングが、静かに、口を開く。


「雷殺、まだ6回、残ってるでござる」


「頼りにしてる」


カインが、頷いた。


「ダダとネリスは」


「盾も爪も、削れるようなもんじゃない」


ダダが、あっさり答える。


「気合い、だけは十分」


ネリスが、爪を構え直しながら、続けた。


---


「よし」


カインが、皆を見渡す。


「行こう」


「行こう」


六人の声が、狭い部屋に、低く響いた。


---


魔物が、動いた。


三層のグラヴォルより、明らかに速い。


「速い!」


ダダが、盾を構える間もなく、脚の一撃を受けた。


「くっ……!」


盾ごと、体が、後ろへ押し込まれる。


---


「魔法!」


ネリスが、叫んだ瞬間、甲殻の隙間から、赤黒い光の塊が、放たれた。


「散れ!」


カインの声に、六人が、それぞれ左右へ跳ぶ。


光が、床を穿ち、石片が舞った。


「魔法まで、飛ばしてくるとか……!」


カインが、着地しながら、顔をしかめた。


---


「守りの聖歌」


ミラの手から、淡い光が広がる。


六人の体が、うっすらと、光の膜に包まれた。


「もう一枚、いく」


続けて、ミラが、両手を合わせる。


「加護の盾」


さらに一枚、防御の膜が、重なって張られた。


「二重に、重ねてくれたのか」


ダダが、盾越しに、確かめるように言う。


「今日は、削らせない」


ミラの声に、強い意志が滲んでいた。


---


「業火弾!」


ノリアの手から、火球が、連続で放たれる。


一発、また一発。


甲殻の表面を、次々と焼いていく。


「効いてる、けど」


ノリアが、息を整えながら、続ける。


「まだ、これじゃ足りない」


「なら」


カインが、身を低くしながら言う。


「次、頼む」


---


魔物が、再び、脚を振り上げる。


「来る!」


ダダが、盾で受け止めながら、踏ん張る。


「重い……! だが、耐える!」


盾越しに、衝撃が、腕全体に響いた。


ネリスが、その隙に、脚の付け根へ爪を打ち込む。


「入った!」


短い悲鳴のような音が、甲殻の奥から漏れた。


---


「業炎獄!」


ノリアが、両手をかざす。


これまでとは違う、密度の高い炎が、渦を巻いて放たれた。


爆発が、甲殻の広範囲を、一気に焼き払う。


「これで、あと1回」


ノリアが、荒い息のまま、呟いた。


---


魔物の動きが、初めて、目に見えて鈍った。


「今!」


カインの声に、ワングが、静かに前へ出る。


「拙者の番でござるな」


刀を、正眼に構える。


---


だが、魔物も、簡単には崩れなかった。


再び、赤黒い光が、甲殻の隙間に集まり始める。


「また来る!」


ネリスが、鋭く、声を上げた。


「ミラ、盾は」


カインが、振り返る。


「まだ、持ってる。大丈夫」


ミラの声に、確信があった。


光が、放たれる。


六人の体を包む膜が、鈍い音を立てて、震えた。


「持ちこたえた……!」


ダダが、安堵の声を漏らす。


「もう一枚、張り直す」


ミラが、すぐに、両手をかざした。


「守りの聖歌」


新しい光が、薄くなった膜の上に、重なっていく。


---


「雷殺」


ワングの刀身に、雷光が纏わりつく。


一閃が、露わになった関節を、正確に貫いた。


「もう一度」


続けて、同じ場所へ、再び雷を纏った刃を、振り下ろす。


「同じ場所を、狙ってるでござる」


ワングが、静かに、呟く。


「傷は、深い方が、いいでござろう」


---


「業炎獄!」


ノリアが、最後の一発を、同じ箇所へ、叩き込む。


炎と雷の傷が重なり、甲殻の一部が、大きく砕けた。


「決めろ!」


カインの声に、ワングが、深く踏み込む。


---


「とどめでござる」


雷光を纏った刃が、砕けた甲殻の奥、露わになった核へ、真っ直ぐに振り下ろされた。


魔物の巨体が、大きく震える。


やがて、糸が切れたように、崩れ落ちた。


---


しばらく、誰も動かなかった。


荒い息だけが、狭い部屋に、満ちていた。


「終わった……のか」


カインが、剣を支えに、なんとか立っている。


「終わった」


ダダが、盾を下ろしながら、頷いた。


「みんな、怪我は」


ミラが、すぐに確認に回る。


「大丈夫。おかげで」


ダダが、盾を軽く叩きながら、答えた。


---


崩れ落ちた魔物の体が、次第に、灰のように崩れていく。


後には、見事な魔石が、ひとつ、転がっていた。


「大きいな、これも」


ネリスが、拾い上げながら、目を丸くする。


「それだけじゃ、ないみたいだぞ」


ダダが、少し離れた場所を、指差した。


---


そこには、奇妙なペンダントが、ひとつ、落ちていた。


見慣れない金属で作られており、中央に、小さな石がはめ込まれている。


「これも、あいつの、ドロップか」


カインが、慎重に、拾い上げる。


「宝箱まで、あるでござるよ」


ワングの声に、皆の視線が、部屋の隅へ向いた。


---


黒ずんだ小さな宝箱が、そこに、ひっそりと置かれていた。


「開ける前に」


ネリスが、身を屈める。


「罠、調べる」


慎重な手つきで、蓋の周囲を、確認していく。


「あった。細い糸、蓋の裏に」


「外せるか」


カインが、聞く。


「任せて」


ネリスの指先が、糸を、慎重に切り離した。


「解除、完了」


---


蓋を、そっと持ち上げる。


中には、細い腕輪が、ひとつ、収まっていた。


「腕輪、か」


カインが、覗き込みながら、呟く。


「拙者が、見てみるでござる」


ワングが、腕輪へ手をかざす。


---


「真贋の瞳」


静かな呟きとともに、ワングの瞳に、淡い光が宿った。


しばらくの沈黙のあと、ワングが、口を開く。


「魔法の加護が、かかっているようでござる」


「加護って、どんな」


カインが、身を乗り出す。


「そこまでは、拙者の腕では、わからないでござる」


ワングが、正直に、首を振った。


「詳しいことは、鑑定所に、持ち込んだ方がよさそうでござるな」


---


「アプレイザルか」


カインが、頷く。


「今日は、これで十分な収穫だな」


「十分すぎるくらい」


ミラが、静かに、答えた。


「ペンダントに、腕輪に、あの魔石」


ネリスが、指を折りながら、数える。


「持ち帰るものが、多い日だ」


---


「あの魔物、名前、何て言うんだろうな」


カインが、崩れた跡を、振り返りながら言う。


「アーカイブで、聞けばいいでござる」


ワングが、答える。


「そうする」


カインが、頷いた。


「にしても、九層に、こんなのがいるとはな」


ダダが、崩れた甲殻の残骸を、見下ろしながら、呟く。


「グラヴォルの、何倍か、確かめようもないけど」


ネリスが、答える。


「確かめなくても、わかる。全然、違った」


「違ったな、確かに」


カインが、肩をさすりながら、頷いた。


「鍵は、結局、見つからなかったな」


ミラが、少し、残念そうに言う。


「この部屋にも、なかったし」


「今日は、これで十分な収穫だ」


カインが、続けた。


「腕輪もペンダントも、正体、まだわからないままだけどな」


ダダが、腕輪を、覗き込みながら、言う。


「わからないことだらけだけど」


ミラが、静かに、微笑んだ。


「それも、いつも通り」


「今日は、もう、戻ろう」


「賛成」


六人の声が、揃った。


魔石とペンダント、そして腕輪を手に、六人は、来た道を、ゆっくりと戻り始めた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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